第13話 揺れる決意
夜の広場を後にして、俺と柊(しゅう)は静かな回廊(かいろう)を歩いていた。
石畳に月明かりが差し込み、影が長くのびている。
「……ご主人さま」
隣を歩く柊(しゅう)の声は、いつになく弱々しかった。
「なに?」
振り返ると、彼の耳が小さく震えている。
「試練が始まったら……僕、もし耐えられなかったらどうしよう」
普段は無邪気に笑ってばかりの柊が、怯(おび)えた子猫のような瞳をしていた。
俺は言葉を探すように息をつき、ゆっくりと答えた。
「……お前はひとりじゃない。俺が隣にいる」
「でも……」
柊(しゅう)の尻尾(しっぽ)がしゅんと下を向く。
俺の胸の奥も、ざわめいていた。
――本当に俺に何ができる?
ただの人間の俺が、猫の国の試練にどれだけ役立つっていうんだ。
足が止まる。
石壁に映る自分の影を見つめ、唇をかんだ。
柊(しゅう)はそんな俺を見上げ、小さく笑った。
「……やっぱり、僕のご主人さまも迷ってるんだね」
「……ああ」
隠すことはできなかった。
そのとき、柊(しゅう)がそっと俺の手を取った。
「でも、それでいいんだよ。迷っても、揺れても……それでも一緒にいてくれるなら、それが力になる」
ピョコン、と耳が現れ、心の声が届く。
(……陽介(ようすけ)が隣にいるって思えるだけで、僕は進めるんだ)
胸の奥に熱が広がる。
俺は強く彼の手を握り返した。
「……そうだな。迷っても、最後には決める。お前の隣に立つって」
柊(しゅう)は目を細め、尻尾(しっぽ)を小さく揺らした。
「うん……ありがとう、ご主人さま」
静かな回廊(かいろう)に、二人の影が寄り添うように重なった。
試練はまだ始まっていない。
けれど――その夜、俺たちの決意は揺れながらも確かに強く結ばれていった。
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