暁を抱きしめて…

アリスティア

序章【Hello,new world!!】

プロローグ:食祭

何処にでもいる黒髪黒目の少女の記憶はあの日のが起因で喜怒哀楽の感情を欠落した――そう。西暦2❉❉❉年○月×日三人家族全員が自宅から暗く冷たい地下へと攫われた。

犯人の男は30代半ばの男、白髪三白眼の痩身地味顔。男は先ず薬に因り眠る父親ののだ。強制的に覚醒させられる父親…父親の苦悶を聞かされ微かに覚醒めざめる気配を見せる。男はそんな父親の反応も未だ眠りが深い母親、6歳の娘の微かな反応にも無頓着だった。男は父親から引き千切った左耳をそのまま自身の口へと運んだ。


 『………ああ、美味うめぇぇぇな〜!!…………ガツ、ガリッ…ボリッ……ゴキュッ…………。』


____さながら豚のミミガーを食べるが如くガリガリボリボリと軽快な音を立て噛み砕き飲み干した。恍惚とした愉悦を刻む表情かお…男は金には目もくれず迅速且つ大胆不敵に家族全員を攫った。その動機目的は実にシンプル。


 ❝食う❞


事だった。


同朋喰いカニバリズム〟――男は凡そ全人類が忌避きひする食人を好む快楽殺人者キチガイだった。


鉄筋コンクリート打ちっぱなしの窓もない地下室、廃工場の地下倉庫。



6歳の少女にこの犯罪者が理解出来る筈がない。当たり前にあった日常。退屈で平穏で何処までも変化のない――…そんな。その日確かに“壊れた”のだ。

____




 どれだけの時間が経ったのか。それは分からない…ただ、父の“全て”が物言わぬ肉塊…その残骸となり隣にはまるで対のように置かれた千切れた母の____…“遺体”。そのだ。幾度朝と夜を繰り返したのか、少女はもう分からない。男が気紛れで与えられた菓子パン食事と水はの少女の未来への冷たい延命措置にしかならないのだろう。言葉はない。男は会話を必要としなかった。両親の身体が男の胃に消えていくおぞましい現実事実…“変える事の出来ない現実”が冷たく小さな身体に突き刺さる。

母の肉体…、物言わぬ肉塊ソレがある。父の驚愕し憤怒した眼、首を掻き切られまるで噴水のように噴き出す大好きな母のあたたかい血液。降り注ぐ母の血ソレは対面に居る少女の全身をも真赤に染めたあの日__少女は声を失った。精神的なものだ。立ち尽くし呆然とする。少女は。全てに。

どうせ助からない、と。

だって父を食べ母を食べ始めた男…この男が“知られていない”のだから。もう一週間?二週間?何日経ったかも曖昧なのだ…。


母が、





“全て”


男の腹に収まり――――――――次は。



 

 「…やぁ〜っとお嬢ちゃんの番だねぇ~?ひひひっ♡」

 「…ぁ、…………ッ………。」


ニヤニヤと薄気味悪い男の笑み…向けられる視線の色を孕んだ何処までも独善的な欲望食欲


どうして?何故?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで___


少女のその細い首に男の腕が掛けられた。

男は少しずつ力を籠めた。その反応を楽しむように。


 「大丈夫。お嬢ちゃんが“死ぬまで”こうしてじっくりと眺めてあげるからね?ひひっ、ひひひっ、ひはははは――っ!!♬ww」

 「……ぁ、ぅ…………ッ、〜〜〜〜……」


さながら子供が無邪気に蟻の巣にコーラを注ぐように。一つ一つ羽根を関節を揉ぐように丁寧に。


少女の生命いのちの灯火も__



 「――其処までだ。連続強盗殺人致傷遺棄及び遺体損壊罪の現行犯として逮捕する!桜庭柊真さくらばしゅうま35歳○月×日○○時××分56」


突入と同時に確保それた犯罪者。噎せ返る血と肉の匂い、腐敗臭…少女の鼻も心も死んでいた。助かる助からずに関わらず少女の瞳にあるのは「虚無」だった。なにせ少女の大好きな両親はもういない。男の腹の中だから。暗く錆び付いた地下から光の下へ解放されても。


保護された「被害者」はこの日世界一不幸な遺族となった。ただ、それだけだった。

少女は祖父母宅に預けられ、5年後祖母が亡くなり後を追うように祖父も亡くなってからは――養護施設に預けられる事になった。

その日の晩駅のホームに飛び出した少女。迫る電車の眩いライトと喧々ましいブレーキ音…その全てが“どうでも良かった”。

まるでのように施設に預ける判断を下した叔父夫妻。

…両親が居た頃は可もなく不可もなく普通に付き合いがあった。叔母さんも少女にとってはそう悪い人ではなかった。叔父宅は子供5人居て、毎日大変だと笑っていた…それが原因だろうか?分からない。11歳の少女にはそんな生々しい叔父宅の経済状況なんて。5人でも大変なのに、そこに少女一人が増える食費諸々が「負担」だと。少女の精神こころは6歳で止まったままだと言うのに・・・。




__わたしは要らない子なの…?

……。


おじいちゃんとおばあちゃんだけは「普通」に接してくれた。お父さんとお母さんの代わりに愛してくれたし、沢山甘えさせてくれたんだ。

『そんな直ぐに変わらなくて良いのよ』

『拓坊も洋子もお前をそれはもう可愛がっていた。お前が嫌いで居なくなったんじゃない。居なくなった訳じゃないんだ』

『直ぐに思い出さなくても良いのよ…少し休んでもいいの。何なら何も思い出さなくたって良いんだから。おばあちゃんもおじいちゃんもあなたの事大事な孫だと思っているの。あなたが生きてくれるだけでいいの』

…それはまるで自分にような物言いだったが――。


祖父母は私を変わらず愛してくれた。

当たり前に接して、当たり前に抱き締めてくれた。心が死んだように虚無を見詰めるだけの“面倒な孫”を…。


色褪せた日常に変わらない祖父母の愛。

目に映るもの、触れるもの…その全てが無色透明。心をあの日に置いて来たように…私は――。



――――――ドンッツツツ!!!!


ひしゃげた少女の物言わぬ骸。虚ろな瞳に二度と光は宿らない。

…………………………

………………

…………。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る