第13話:パーティー結成!(なお入場制限は変化なし)

 ダンジョン配信者、Aが目覚めると……そこは無機質な白い天井だった。

 慣れた様子でベッドから起き上がり、肩を回す。栗色の長い髪の毛を揺らしながら立ち上がる。

 死んだ直後、というのは精神が安定していないものだ。死ぬ直前の恐怖により取り乱し、そのまま精神を病むことも多い。死亡した直後は念をもって三日ほど休暇を取り、ダンジョンに潜らないようにするといった方針で動いている冒険者チームも多い。


 死ぬというのは、本来それほどショックを受ける出来事なのだ。


「久しぶりに死んだなー」


 ぐぐっと伸びをして縮こまっていた体を起こし、手術着を脱ぎ、傍に置かれていた白い無地のTシャツと紺色のジーンズに着替え、初心者冒険者が好んで着る土色の外套を羽織る。

 生き返った為臭いもリセットされたのか、外装の臭いが少々気になったが仕方ない、と割り切って、Aに背中を向け蘇生作業をしている蘇生師に声を掛けた。


「お仕事お疲れ様ー」

「相変わらず、死んだばかりとは思えないですねAさん」


 振り向き、呆れたように言うギルドお抱えの蘇生師。

 蘇生した直後というのは錯乱するか、ぶり返した恐怖により吐くかのどちらかを最低でもするものだが、Aはまるで寝起きのように普通に行動を始める。相変わらずイカれてるな、と口には出さぬものの口以上に目がものを言っていた。


「配信ちゃんとアーカイブ化されてる? 結構グロかったから消されてしまってない?」

「その点は大丈夫です。仮に消されていたとしても、データバンクの方に残っていますから」

「それは重畳。ありがとね」


 自分がどのように死んだのか、死ぬ直前に何をミスったのか。それを確認したいのだろうか、配信の確認を取ってきた。

 普通自分が死ぬところなぞ見たくもないものだろうが……と考えたところで思考を止める。Aは常識で考えてはいけない人物なのだから。


「ちょっと待ってください」

「えー、なに?」


 蘇生室を出ていこうとするAを蘇生師は止めた。

 この部屋は、送られてきた冒険者の死体を生き返らせるのが目的の部屋だ。蘇生後錯乱している冒険者をなだめるのにも使ったりはするのだが、少なくともAはその必要がない様子にしか見えないし、いつもの傾向であればそのような必要もない。


 故に、呼び止めたのはまた別の理由であった。


「蘇生費用が10万ほど足りていませんので、一週間以内にお支払いください」

「……10万!? えっなんで? 僕を蘇生するだけだったらそんなにかからないでしょ!?」

「原則として、鬼還の腕輪により送られてきた人物は、地球の者でない場合蘇生費用は送り主がお支払いすることとなってりますので」

「……あの依頼料も込みで残り10万?」

「込み込みです」


 蘇生師の言葉により思い出される、あの謎の階層に転がっていた死体。確かにあれを送ったのはAだ。そして、鬼還の腕輪使用時のルールをすっかり忘れていた。

 思わず頭を抱えたくなったが、やってしまったものはしようがない。幸い株を少し売れば普通に支払える額ではある。上がり調子だったのになあ、と後悔はあるがこればかりは仕方がない。


「わかったわかったよ分かりましたよー。支払うから」

「それならよかったです。……それで、蘇生させた子はどうしますか?」

「……子?」


 Aの疑問の言葉に答えるように、蘇生師の背中からひょいと愛らしい顔が覗いた。

 蘇生師が体をどけると、その全貌が明らかになある。

 灰色の肌に蛇のような縦に長い目、すらりとした体に僅かなふくらみ。手足が肉食獣のように毛におおわれており、鋭い牙が覗く。

 なにより特徴的なのは、それが揺らしている尻尾だ。まるで小判のような形のぷにぷにとした肉が団子のように連なっている。


「……もしかして、僕が生き返らせた子?」


 その言葉に、灰色の子供はAは近付き、顔を見上げる。

 身長はAより頭二つ分低い。まるで犬のように尻尾が揺れる。


「助けて、くれたの……お前、か?」

「あー……一応、そうなるかな……?」

「あり、がとう……」


 そう言って、感謝の印なのか顔をすりすりとAのお腹にこすりつける灰色の子供。

 どうすればいいのか分からず蘇生師に助けを求めるが、蘇生師は表情一つ変えぬままその様子の写真をパシャリと撮っていた。


「力に、なり……たい……強い、から……」

「あはは、それはありがたいねぇ……僕、ソロ冒険者だし」


 実際のところは一人から二人になったところで探索できる範囲が広がるという訳でもないのだが、そろそろ一人の活動に限界を感じてきていたところだ。この灰色の子供とチームを組むのをきっかけに冒険者仲間が増えてくれればいいのだが……。


「それじゃ、僕とチームを組んでくれるかな……えーっと、君、名前は?」

「……名前?」


 灰色の子供はAの言葉に首を傾げる。そして目を閉じて何かを思い出すように唸りはじめた。

 やがて眼を開き、Aの眼を真っ直ぐ見て名乗った。


「No.O-1B492D……そう呼ばれていた」

「……そっかあ」


 あきらかまともではない人工生命体の臭いしかしない名前に、Aは思わずひきつった笑みを浮かべた。

 これ、厄ネタかもしれない……と。

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