第14話 隣国潜入

 三か月後、私は隣国へ潜入することになった。

 設定は、誘拐された少女で、隣国の人身売買の市場で売られるらしい。


「いい、私をギルだと思わないこと。わかったわね」

「はい」


 私を売り飛ばす商人ライアットは、副団長が変装した姿だ。

 髪を染め、さらに短く切る。それから片目を眼帯で覆う。イヤリングもつけて、無精ひげまで生やして、全然違う人に変装してしまった。

 そういう私もかなり頑張ったと思う。

 服はワンピースドレス、靴は歩きずらい踵があるもので、服とお揃いの色だ。

 髪は伸ばした結果、肩より少し長めになった。

 前髪と横紙を一緒に編んで後ろでまとめると、お嬢さんという感じに仕上がる。

 三か月の集大成だ。

 副団長は私の変装した姿にかなり満足されていた。


 馬車の荷台に詰めこまれ、隣国の国境を越える。

 兵士は荷台を軽く見て、問題がないと通す。

 これは元から話を通しているからだ。

 だけど、検査しないわけにはいかないから、私は見られないように布に包まり、じっとしていた。副団長も荷台にいるけど、軍の本部を出てからずっと話しかけてこなかった。布の隙間から見る副団長は、完全に別人。

 いつもの上品さはないけど、顔が整っているから野性的なかっこよさがあった。


「この子はどうだ?」

「黒髪に黒目、年頃も一致。いくらだ」

「五千ユーリーだ」

「高いな」

「じゃあ、やめるか」

「いや、買う」


 商談は直ぐにまとまり、私は売れることになった。

 買った先はあっているのだろうか?

 男に腕を掴まれ歩かされる。

 少し不安になって振り返ると、副団長が二コリを笑ってくれた。

 一瞬だったけど。

 うん。

 大丈夫。

 計画通りだ。

 後は、私が軍務大臣を油断させ、殺す。

 そしたら戦争は終わる。


 男はかなり歩き、立派な馬車が止めているところで、足を止めた。


「疲れたか?」


 男は人買いする人にしては親切だと思う。

 身なりもいい。

 それは大臣御用達だからか。

 妙に納得しながら、男の言葉に首を横に振って答える。

 話すとボロが出そうなので、無口な設定にした。

 質の良い馬車に乗せられ、軍務大臣の元へ向かう。

 男は私に質問することはなかった。

 私から話しかけるのもおかしな話だったので、怯えている態度で、体を縮こませ、俯く。

 本当は膝を抱えたかったけど、それをやると馬車が揺れると座席から転げ落ちそうだったのでやめた。


「付いたぞ」


 馬車が止まり、先に降りた男に外から手を差し出される。

 段差がかなりあり、手を借りようとした瞬間、私は手を引っ込めた。

 私の手は訓練のため男のような手をしている。剣を握ったこともある者の手だ。なので、手を触られると私がただの売られた少女ではないとバレてしまうかもしれない。


「どうした。怖いか?」


 男は訝しげに見上げる。

 これくらいの段差問題ないはず。

 そう思って、飛び降りた瞬間、男がふわりと私を抱き留めた。


「無茶するな」

「あ、ありがとうございます」


 お礼くらいいいだろう。

 男は私の礼に微笑む。

 こいつは敵だ。 

 だけど母を殺した奴ではない。

 けれども目的を忘れるな。


 屋敷に入っていく男を追って、私も中に入った。


「こちらで待っていろ」


 立派な屋敷の中に突然放り出された。

 使用人らしき者の姿が見えない。

 不思議だ。

 男は階段を昇っていなくなってしまった。


 誰もいないはず。

 人影は見えないが、視線を感じた。

 どこからか私は見られているようだ。


「待たせたな。後で旦那様に会わせる。だが旦那様に会う前に、湯あみをして着替えたほうがいいだろう。ついてこい」


 戻ってきた男に言われ、屋敷の奥に連れていかれた。

 廊下を突っ切って、突き当たりの壁。

 そこに掛けられている織物を持ち上げると扉が現れた。


「入るぞ」


 扉を開けた途端、にぎやかな声が聞こえてきた。


「入れ」


 男に言われ、中に入ると先ほどまでの静まり返った屋敷とはまったく違う光景が広がっていた。

 黒髪に黒い目の女性が数人、私を一斉に見た。


「新人さんね!よかったっというべきなのかはわからないけど、少なくても安全よ」


 一人の女性が近寄ってそう言う。


「その言い方は、不満のようだな」

「当たり前でしょ?私たちは連れてこられたの。国に戻ることはできない。理解しているけど、やっぱり住み慣れた国にずっといたほうがいいでしょ?いつか、戻れる日が来るとは信じてるけどね」


 女性の話し方は我が国のなまりがあった。

 新人さんとも呼ばれたし、連れてこられた人はここで暮らしている?

 随分みんな健康的で、自由そうだ。

 この人態度は奴隷ではない。対等だ。


「この子は、すまん。名は何という?」

「ケイト」

「オレックス!名前も聞いてなかったの?本当……」

「カルメン。とりあえず、ケイトを湯あみさせて、何か服を着替えさせてくれ。後で旦那様との面談がある」

「そうね。わかったわ。今度こそ、旦那様の探し人だといいのだけど」

「そうだな」


 探し人?

 軍務大臣は人を探しているのかな?



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