百合で完結する世界に男の俺がいても意味ないよね?〜なのに劣等種の俺が無自覚のうちに一部の女子から特別扱いされていた件〜
藤白ぺるか
第一章
第1話 入学式の朝
「ん……んちゅっ……ん……っ♡」
艶かしい水音が響くベッドの上。
四人の美少女が絡み合い、互いの吐息を混じらせながら唇を重ねていた。
その光景はあまりに妖艶で、淫靡で……見ているだけで俺の身体は熱を帯び、抑えきれないほどに滾っていく。
「和人も……来て――」
四人のうちの一人が、俺に視線を投げ、手を差し伸べてきた。
その瞳は優しく、けれどどこか挑発的で、逃げ場を許さない。
本来ならば、一人だけ男である俺が百合園に踏み込むことは絶対の禁忌だ。
けれど、この四人だけは違う。
彼女たちは俺を拒まず、むしろ心から受け入れてくれている。
そして俺自身もまた、その禁断の渦へと引き込まれていくのを、止められなかった。
――けれど、そのはじまりは決して優しいものではなかった。
◇◇◇
俺の名前は
中学ではサッカー部に所属し、練習も試合もそこそこ頑張った。それほど目立つことはなかったけれど、一応スタメンだったし、運動神経が悪い方でもない。
趣味と言えば、漫画やラノベを中心に読んでいた。アニメだって流行りにはそれなりについていける方だ。ゲームも人並みにはやっていた。
友達はいたが恋人はいない――けれど、そんな俺が高校入学式の前日。
桜が舞い落ちる夕暮れの公園で、胸の奥からせり上がる想いをとうとう言葉にした。
「――飛鳥のことが、ずっと好きだった! 俺と、付き合ってほしい……!」
相手は中学の同級生――
「……うん、知ってたよ」
「えっ……?」
「和人って、思った以上に私のこと見つめてたし。態度もわかりやすいし……もう、ずっとバレバレだったっていうか」
彼女の言葉に、鼓動が爆発しそうになる。
人生ではじめての告白。心臓の音は耳の奥でドラムのように響いて、立っているのさえやっとだった。
飛鳥は男子からの人気が高くて、中学三年間で何度も告白されていた。
けれど、彼女が誰かと付き合うことは一度もなかった。
俺もその中の一人で終わるのか――そう思った瞬間、唇が震える。
俺は彼女にとってただのモブにはなりたくない。
飛鳥にとっての一番になりたい。そう強く願っていた。
「……ずっと、待ってたよ。ずっとずっと、待ってたんだから……っ」
飛鳥の瞳に、きらりと雫が浮かんだ。
春の風にあおられ、涙の粒が光の粒子のように舞い上がる。
「そ、それって……!」
「うん……私も、和人が好き。――だから、これから……よろしくねっ」
その瞬間、世界がぱっと鮮やかに開けた気がした。
ずっと抱き続けた恋心が、ついに報われたのだ。
「よっしゃああああ〜〜っ!!」
思わず両手を突き上げ、全力のガッツポーズを決める。
恥ずかしいくらいに全身で喜びを表現してしまった。
「じゃあ……明日は一緒に入学式へ行こう! この公園の前で待ち合わせな!」
「ふふ……わかった。楽しみにしてるね」
飛鳥が柔らかく微笑む。
その笑顔を胸に刻みながら、俺は帰路についた。
——その夜、ベッドの中に入っても興奮が収まらずなかなか眠りにつけなかった。
明日からは飛鳥と恋人として肩を並べ、新しい学校へ登校できるのだ。
いずれは手を繋いで歩き、いつかは唇を重ね、その先の関係へと進むかもしれない――
健全な男子高校生なら誰もが思い描くような甘い未来を想像しながら、明日を待ちわびた。
◇◇◇
そして長い夜が明け――朝がやってきた。
「おはよー」
「あら、
「アンタ、髪すっごいことになってるじゃない。鏡くらい見なさいよ」
二階の自室から階段を降りてきた俺をリビングで迎えたのは、母さんの
漂う味噌汁の香り。テーブルの上には卵焼きに焼き魚と炊き立てのご飯。
母さんはエプロン姿のまま箸を並べ、姉ちゃんはジャージ姿でまだ寝ぼけ眼のまま、口をもぐもぐと動かしていた。
いつもの、何気ない朝の風景。
けれど――ただ一つだけ、明らかに違うものがあった。
そこに、父さんの姿がなかった。
いつもならスーツをビシッと着こなし、朝のニュースを流し見しながら淡々と朝食をとるはずの人。その背中が、今朝の食卓からすっと抜け落ちていた。
「……あれ、父さんは?」と聞きかけた言葉を、なぜか飲み込んでしまう。
理由もなく胸がざわつきながらも、俺は気にしないふりをして箸を手に取った。
だが、今にして思えば――この時すでに、気づくべきだったのだ。
食事を終え、身支度を整えてから新しい制服に袖を通すと、再びリビングへ向かう。
「あら、似合ってるじゃない」
「ほんとだー、いい感じじゃんっ」
「……ありがとう」
二人が制服姿を褒めてくれて、少しむず痒くなる。
「今日から高校生だけど、何かあったら私に相談しなさいよ。一応私、三年生だからね」
「必要ないって。俺だって高校生なるんだから」
「うーん。和人は昔から危機感が足りないけど……とにかく一人で抱え込んじゃだめだよ」
心配されるのはありがたい。だけど――俺の知ってる姉ちゃんは、こんなに過保護だっただろうか……違和感がまた一つ増える。
だが、俺の気持ちは晴れやかだ。なんていったって、これから飛鳥と待ち合わせした公園で合流し、一緒に入学式へと向かうのだから。
彼女の新しい制服姿が今から楽しみだ。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
「がんばってねー」
玄関を出ると、緑が交じる春の匂いが鼻をくすぐった。
新しい制服の襟元を直しながら、学校へと歩き出す。
俺が通うことになったのは、私立
受験での成績上位者は学費免除の制度があり、俺もそれで合格を勝ち取った。家計も助けられるし、それもあってこの学校を選んだのだ。
「………………」
しかし数分も歩くうちに、また違和感に気付いた。
すれ違う人々が――全員女性。
買い物袋を提げる主婦も、走る学生も、道を掃く老人も。十人、二十人とすれ違っても、男性の姿は一人もない。
そして――周囲も気にせず、女性同士で手を繋いで仲良く歩く姿をちらほら見かけた。
しばらく歩くと、待ち合わせ場所である公園の前に到着。
ここは中学時代から毎日のように通った通学路。
高校でも同じルートを辿ることになったため、待ち合わせ場所もここにすることにしたのだ。
「……ちょっと早すぎたかな」
スマホを確認すると、約束の時刻よりも十五分も早い。
昨日、恋人同士になったばかりの飛鳥と会えると思うと、どうにも落ち着かず、胸の鼓動はすでに制御不能だった。
やがて、その瞬間が訪れる。
――コツ、コツ。新品のローファーを刻む小気味よい足音が近づいてきた。
艶やかな黒髪は肩で軽やかに弾み、整えられたボブカットには赤いヘアピンが二本、朝の光を受けて輝いている。
雪のように透き通るほど白い肌を持ち、清楚さを基調としながらも、そこに快活な輝きをまとった――まるで美少女という存在を体現したかのような女の子。
――音海飛鳥が、そこにはいた。
春風がびゅうっと吹き抜け、彼女は髪を押さえながら歩いてくる。
真新しい制服に包まれた姿がまぶしくて、ただそれだけで胸が締めつけられるように高鳴った。
俺は、飛鳥が目の前で立ち止まるその瞬間まで、声をかけずに待つことにした。
……だが。
「――――ぇ」
次の瞬間、俺は息を呑んだ。
当然のように立ち止まるはずの飛鳥が、そのまま俺を視界に入れたまま――いや、まるでそこに俺が存在していないかのように、無言で通り過ぎていったのだ。
「ちょっ……飛鳥!?」
冗談だろう、と苦笑交じりに背中へ声をかける。
けれど。
「…………」
返事はない。歩みは止まらない。
空気だけがすり抜けていく。
昨日、確かに恋人同士になった。
あの瞬間、あの涙、あの笑顔――全部夢なんかじゃない。
なのに、なぜ。
「飛鳥! なんで無視するんだよ!」
声を強める。さすがに気づかないはずはない。
実際、その通りだった。
飛鳥は足を止め、ゆっくりとこちらを振り返る。
「どうしたんだよ。昨日の夜に何かあったのか? あったなら――」
「……ないでよ」
「え……?」
「――私の名前、勝手に呼ばないでよ!!」
鋭い声。拒絶の色。
そこにあるのは、昨日までの親しみも、恋人らしい距離感もなかった。
むしろ、知らない人間に呼ばれたときのような、露骨な嫌悪。
「……飛鳥? どうしちゃったんだよ。なんで怒ってるんだよ」
「飛鳥、飛鳥って……男のくせに何のつもり?」
「男? それの何が関係あるんだよ!」
会話が噛み合わない。
頭が真っ白になり、言葉がうまく出てこない。
だが、飛鳥の瞳に偽りはなく、本気で俺を拒絶していることだけは伝わってくる。
「何が関係ある……? ……ふざけないでっ」
「……昨日、俺が飛鳥に告白して、受け入れてくれて――恋人になったじゃないか! 入学式はこの公園で待ち合わせって約束もして――」
必死に叫ぶ。けれど、その声は届かない。
そして、次に飛鳥の放った言葉が――俺の心を深く切り裂いた。
「そもそも―――あなたって、いったい誰なのよ」
――――――
新作です!
ちょっと変わった世界観の男女比ラブコメになります!
タイトルを見てわかる通り、男女比が女性ばかりでバグっているのに男がモテない。
でも、主人公は次第に——みたいなイメージです。
既に異変、感じましたか?
本日だけこの後もう1話更新します。
更新は17時です。
色々と面白い展開を考えているので、ぜひとも【★★★評価】や【お気に入り登録】【作者自体のフォロー】をお待ちしています!!
ノクターン版も投稿していますが、あまりそういうシーンは多くはない予定です。
カクヨムコン応募作品の予定です。
★やお気に入りの数で受賞するかどうかも変わってくるので、ぜひとも応援お待ちしています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます