1-1:ふるいつきたくなる極上品だ。

アルカニア大陸西部、王国辺境領のさらに奥。一度足を踏み入れれば二度と戻れぬと畏怖される広大な未開の地、「禁域レベルマックス」。

その禁域との境に、ミスリル銀の産出によって栄える砦都シルバラードはあった。


風が砂塵を巻き上げる荒野を、異形の騎獣に跨ったならず者の一団"イーグルネスト(鷲の巣)"が禁域の中を疾走していた。

先頭を駆るのは、漆黒の鎧に身を包み、胸元の鎧に手彫りの鷲の羽根飾りを刻み込んだ男。


元王国騎士にして、闇に堕ちた剣聖──フォーク。


彼に続くのは、闇社会でその名を轟かしたならず者たちだ。そのものたちも色んな部位に鷲の羽根飾りを刻みつけていた。

夜、乾いた大地に火が焚かれ、パチパチと音を立てて爆ぜる。その周囲にならず者たちが思い思いの格好で休息を取っていた。


王国辺境守備隊が残した食料を肴に幹部が秘蔵していたぶどう酒を蒸留した上質な酒をラッパ呑みする。

「ㇰぅハハ! 見事な手際だ、フォーク! あの騎士どもの間抜けな面つら、思い出しても笑いが止まらねぇ!」


巨大な戦斧を傍らに置き、筋肉の塊のような大男──フォークの右腕、"鉄砕きの古兵"ボルグが豪快に笑う。


「あぁ。手応えが無さ過ぎた奴らだった。それより、目的のブツは違いないだろうな、リーナ」


フォークは、冷たい光を宿す瞳で、身軽そうな女に視線を送った。遺跡荒らしの"罠破り"リーナは、荷車に積まれた長大な木箱を指先でなぞりながら、自信ありげに口の端を吊り上げる。


「間違いないね。古代ドワーフの『連装式魔導バリスタ』。刻まれてるルーンも本物だね。ま、アタイにかかれば、偽物は一発で見抜けるけどさ」


「クっククぅ…それに、こっちの『魔晶石の超臨界粉末』もふるいつきたくなる極上品だ。この凝縮していない不安定さがわからないか?背中がヒリヒリするのを感じないか?・・。ごく少量で、あのシルバラードの街と城壁ごと吹き飛ばして更地になるだろう」


「気持ちワル」

一見、人の良さそうな商人風の男、"魔薬の密売人"ジンが、禍々しい紫の光を放つ小箱を撫でながら、虚ろな目で小声で呟いたのを聞いたリーナが気味悪がる。


「これで、あの忌々しい辺境伯の首も、時間の問題だな」

フォークはさらに酒を呷り、吐き捨てるように言った。彼の脳裏に、かつて自分を追放した支配者の顔や街のヤツらの顔が浮かぶ。復讐の炎が、その瞳の奥で揺らめいていた。


「しかし、フォーク様。あのまま王都方面へ向かわず、なぜわざわざ危険なこんなとこへ?」

妖艶な笑みを浮かべ、男たちの視線を一身に集める幻術師のフェリシアが、猫なで声で問いかける。彼女の幻術がなければ、輸送部隊の壊滅はこうも容易ではなかっただろう。


「追手を撒くには、奴らの想定の埒外を選ぶのが定石だ。それに…」

フォークは言葉を切り、森の闇のさらに奥深くへと濁った視線を向け、(それに・・・クライアントの意向もある)と沈思しつつも皆にはこう告げた。


「この先には、都合の良い隠れ家がある」

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