超特殊事件捜査課~ゴミ溜め三人組とお掃除屋さん~

功野 涼し

第1話 配信映像

 暗闇に潜む廃墟を照らすのは最新のLEDライト。まばゆい光で廃墟の朽ちた壁をくっきりと映し、割れた窓ガラスの向こうにある部屋をも照らす。


 ドローンが上空から廃墟の姿をより鮮明に映し出し、ここがただの朽ちた建物であることをアピールしたのち二人の男性が立ち入り禁止の柵の一部に空いた穴から中へ侵入する。


 鋭い光を持って玄関ドアの前に立った男性のうち一人がバールを使い鍵を強引に破壊すると、ドヤ顔でもう一人の帽子のつばに装着されたカメラに向かって舌を出してピースサインをする。


 それを茶化したもう一人と笑いながら入った二人は、中にある家具や備品をダメ出ししながら進むと、やがて子供部屋だったと思われる場所に足を踏み入れる。


 子供用の勉強机の上に朽ちた人形がうつ伏せで倒れていた。それを拾い上げ手を引っ張ると手がちぎれてしまう。


「お前大事に扱えよ〜呪われるぞ」


「腐ってんのが悪いんだろ。触っただけで取れたんだから俺は悪くねえって! ほら見ろよこんなにボロボロなんだし」


 そう言って男が人形を拾い上げ頭を持つと捻って首をちぎってしまう。


「今のはぜってぇーわざとだろ!」


「違うって! コイツがボロいんだって」


 ぎゃははとテンション高く笑い合いながらちぎれた人形を投げ捨てた男性たちは次の部屋へ向かって移動する。


 その間も無駄に画面に向かって明るく振る舞ったり、壁を蹴ってみたりお互い脅かし合うなどしたのち一番奥に部屋のドアの前に立つ。


「じゃあ開けるぞ」


「勿体ぶるなよ。どうせなにもないって」


 ドアノブに手をかけ小声で話す男性をもう一人が小突きじゃれ合う。ドアノブに手をかけていた男性がそっとドアを開けできた隙間に顔を入れると「やべっ」と短く声を上げて慌てて閉めドアを背中にして寄りかかる。


「えっ!? なになに?」


 目を丸くして座り込む男性は、自分を見て驚くもう一人の男性をじっと見つめる。

 言い様のない沈黙が数秒訪れたかと思うと、座り込んでいた男性が勢いよく立ち上がり両手の人さし指を向け大きな声で笑う。


「はいっ騙されたぁ〜!! たっちゃんはいい顔するねぇ〜今のは視聴者も本気にしてくれたはず」


「みなみお前ふざけんなよ〜。まじでビビったわぁ〜もう! 勘弁してくれよぉ〜」


 たっちゃんと呼ばれた男性が、みなみと呼んだ男性の肩を押して文句を言うと二人は笑い合う。


「怖くないとか言って本当は怖がってんのバレバレなんだからさっ」


「いやいや、ここに来て怖がらない奴とかそっちの方が怖いわ。って言うか人形ちぎったりできるお前の方が怖いって」


「はいはい、どーせサイコパスとか言うんでしょ。そうですそうですよ、わたくしめはサイコパスですよ」


 笑いながらみなみがドアを開けると僅かにできた隙間に一瞬で吸い込まれる。


 ほこりが舞うくらいに勢いよく閉まったドアを目の前にして、何が起きたか理解できずに目を丸くするたっちゃんだが、すぐにニヤリと笑ってドアノブに手をかける。


「同じネタを擦るなよ。ったくワンパターンなのはよくないって」


 そう言ってドアを開けたたっちゃんは自身が持っていたカメラを部屋の中へと向ける。


 真っ暗な部屋に割れた窓から入ってくる風がボロボロになったカーテンの成れの果てをたなびかせる様子がゆっくりと映される。歩みを進め床の軋む音が響き、そしてコツンと何かが当たる音がして映像が下を向く。


 画面に一瞬だけ生気のない瞳をしてだらしなく口から舌を出したみなみの頭だけが映し出される。


「うあああああっ!?」


 たっちゃんの悲鳴がマイクを震わせて、音割れする悲鳴をバックミュージックにして映像が激しく動き線になりピントの合っていない床が映される。


「なっなんだあれ……うっ、うわああああああああっ!!」


 再びたっちゃんの悲鳴が聞こえカメラが蹴られたのか映像が激しく乱れ、最後に胸に大きな釘が刺さり壁に貼り付けられた右腕のないみなみの体らしきものが映し出される。


 ドタドタと大きな音が響き、取り残されたカメラの映像はしばらく床と壁の継ぎ目を映していた。


 突然カメラが映す映像にノイズが走り画面がブレると、映像がゆっくりと動き始める。それはまるで誰かがカメラを拾い撮影を始めたかのようであった。


 ピントがあった先には貼り付けになったみなみの姿がある。すると突然上から黒い塊が落ちてきて床に激しく衝突する。


 カメラのピントが黒い塊に合う。それが全身の骨が折れてそうなっているのか分からないが、体に手足を絡め丸くなったたっちゃんであることが、恐怖でゆがんだ表情の顔からなんとか知ることができる。


 まるで画面の向こうにいる観客にアピールするように顔を映し、やがて映像は引いて二人の姿を画面に納める。


 見るも無惨な姿に変わり果てた二人よりも先ほどまではなかったはずの赤い文字が目を引く。


 壁には丸く可愛らしい字でデカデカとこう書いてある。


『おそうじ完了♡』


 そしていつの間にか二人をそれぞれを囲むように矢印とコメントが書かれていた。


『←みなみ』『←存在が迷惑』『←女性関係最悪』『←女の敵』


『←たつや』『←低脳』『←マウント取りたがり』『←ビビり』


 などとおおよそ悪口としか思えない言葉の羅列が映され真横に大きなノイズが走り画像が大きく乱れると、そのままブツリと映像は消え真っ暗な画面になってしまう。


 暗闇が数秒続いたあと停止のマークが出て、続いてオススメ動画の紹介が出て動画は終わる。


 ***


「どうでした?」


 ノートパソコンの前に座るマッシュショートヘアーの若い男性が振り返り、背後に立つ無精髭の残る顎をダルそうに擦りながら見返す男性に話しかけると、話しかけられた無精ひげの目立つ口をへの字にして、腕まくりをして露わになっている筋肉質な腕を組み肩幅の広い肩をすくめる。

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