第19話 初めてのスリ
「それじゃあ……いただきます!」
ソレイユが購入したばかりのブローチに唇をつける。
そして……そこに込められている呪いをチュルリと吸い出した。
「うん、やっぱり美味い。俺の目に間違いはなかったな!」
あの露店に置かれているコレを一目見た瞬間に思ったのだ。これは美味い……と。
この味わいを表現するのであれば……大粒の栗をたっぷり使って作ったモンブラン。
コリコリとした食感が何とも心地よく、それでいて口の中に広がる自然の甘み。
食後のデザートにもってこいの一品だった。
(これってやっぱり呪いだよな? 俺、呪いを食べられる体質になったみたいだ)
「ごちそうさまでした」
ブローチに宿った呪いを食べ終わると、身体に活力が満ちていくのがわかった。
不調なんて欠片もない。呪いを喰い、糧とする体質を身につけたと改めて確信する。
「やっぱり、先生がかけてくれた魔法が継続しているのか。よくわからないけど助かるな」
露店で様々な料理を堪能して、デザートに極上の呪いを口にして。
本当に良い一日だ。町にやってきて最初の日がこんな満たされているなんて幸先が良い。
「もっとも……懐は寂しくなっちゃったな。もうお金がこんなに……」
「御免よ!」
「あ……?」
財布を取り出して中身を確認していると……急に背中に衝撃。誰かがぶつかってきた。
大通りには無数の人間がいる。通行人と衝突してしまってもおかしくない。
「ああ、こっちこそ悪い……は?」
だが……そこから先は異変である。
後ろに意識を奪われた瞬間、何者かがソレイユの財布をかすめ取っていったのだ。
「おい、俺の財布……」
「あばよ! 次から気を付けな!」
財布を奪っていったのは幼い少年だった。
年齢はおそらく十歳ほど。ボロボロの服を身に着けている。
少年はソレイユの財布を手にしたまま人混みの中に走り去っていく。
「…………」
予想外の事態にソレイユがしばし呆然とする。
しばらくそのまま硬直していたが……やがて、自分が置かれている状況に気がついた。
「あ……今のスリか!」
本で読んだことがある。
金品をかすめ取り、逃げていく窃盗犯が世の中に入るということを。
人を殺して奪う海賊などと比べると可愛らしいものだが、当然ながら犯罪者である。
「うっわ……初めて見た。そうか、アレがスリなのか……!」
財布を盗られてしまったが……代わりに、何故か胸にある感動。
ソレイユは珍獣にでも遭遇したような気持ちになっていた。
「ああ、驚いた……だけど、金がないのは困るな。取り返した方が良いよな?」
「たぶん……」とつぶやいてから、ようやくソレイユが動き出す。
地面を蹴って跳躍。高々と空中を舞って、近くにある建物の屋根に着地した。
そして、そのまま走り出して人混みに消えたスリを追う。
「逃げた方向からして……こっちだな」
屋根から屋根へ。ソレイユが風のような速度で駆けていく。
周りの景色が勢いよく後ろに流れていき、数秒とかからず人混みの中から目標を発見する。
「いたな。間違いない」
人混みを掻き分けるようにして走っている少年を見つけた。
かなり速いが……ソレイユと比べるとナメクジの行進のようである。
少年は人混みから外れて、人気のない路地裏に入っていく。
ソレイユは屋根を蹴って飛び上がり、そのまま少年の眼前に着地した。
「うわっ!?」
「よ、追いついたぞ」
急に目の前に降り立ったソレイユを見て、少年が慌てて足を止める。
そのまま尻もちをつき、幽霊を前にしたような驚きの表情になった。
「おまっ……さっきの……!?」
「驚かせて悪いな。財布を返してもらえるか?」
「あ、ああっ……!」
少年が慌てて財布を身体の後ろに隠す。
しかし、今さら隠したところで誤魔化せるはずがない。
ソレイユが手を差し出して、もう一度告げる。
「返してくれ。珍しい物を見せてくれたお礼に斬らないでやるからさ」
「し、しらねえ……財布なんて知らねえっ!」
「……フム?」
こういう時、どうすれば良いのだろう。
相手は盗人。斬り捨ててしまって問題ないのだろうか?
子供だから悪いことをしても許されるという価値観はソレイユの中には存在しない。
必要であれば、子供であろうと斬ることができる人間だった。
(先生も子供は斬っちゃダメとか言ってなかったし、財布を盗られたら困るし……もう殺っちゃおうか?)
「おい、ジグ! 何してやがる、テメエ!」
「あ……!」
そこで路地の奥から野太い声がかかった。
ソレイユが顔だけ振り返ると、そこには大柄の男が三人ほどやってきている。
「おい、まさかしくじったんじゃねえだろうな! 使えないガキだぜ!」
「…………」
男が少年を叱り飛ばす。
状況はわからないが……彼らは味方同士であるらしい。
(つまり……全員、敵ということで良いんだよな?)
前後に挟まれた形になってしまったが……ソレイユは気にすることなく、腰に佩いた刀に手を伸ばした。
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