第7話 海賊

「殺せ、奪え!」


「女以外は皆殺しだ!」


「か、海賊だ。海賊が出たぞ!」


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 広い海の真ん中に怒号と悲鳴の声が響き渡る。

 衝突する二隻の船。一方は商人らしき人間が乗り込んだ交易船。

 もう一方は荒々しい風体のならず者が乗った海賊船だった。

 交易船に海賊が乗り移る。

 護衛が海賊に立ち向かうが、振り下ろされた凶刃に次々と命を奪われていく。


「そんな……『竜の髑髏』の海賊旗。まさか、『デズモンド一味』ですか!?」


 交易船に乗っていた女性の一人が驚き、叫んだ。

 デズモンドの一味は大陸南側の海を荒らし回っている大海賊である。

 いくつもの船を沈めて、金品を略奪。男を殺して女性を犯す……一切の慈悲を持たぬ残虐な犯罪者集団として知られていた。

 船長のカーズ・デズモンドは魔物との混血児であり、幾人もの名のある戦士や冒険者を討ち取っている。


「まさか、この海域にまでやってきているだなんて……!」


 女性が汗のにじむ手で剣を抜く

 美しく整った顔を恐怖で引きつらせながら、それでも勇敢に武器を手に取って戦う決意を固める。

 金色の髪を背になびかせた若い女性である。宝石のような青い瞳の持ち主であり、その容姿を一言で言い表すのであれば『華憐』。

 旅装を着ているが驚くほど似合っていない。船上にいるよりもパーティー会場の真ん中でドレスを纏っている方が遥かに相応しいだろう。


「ヤアッ!」


「グアッ……!?」


 そんな美しい少女が海賊に向けて剣を振り下ろす。

 放たれた斬撃は細腕からは想像できないほど強く、鋭いものである。

 海賊の一人が胴体を深々と斬られて、船のデッキの上で倒れる。


「皆さん、一人で戦わないで。連携して海賊と戦いましょう!」


「お、おお!」


「やってやる! 船を守れ!」


 女性の奮起に船乗りが動揺から立ち直る。

 それぞれが武器を手にして、生き残るために海賊に立ち向かっていく。


「しゃらくせえ! 殺せえ!」


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 だが……それでも、海賊の勢いの方が強い。

 護衛がどんどん討たれていく。船乗りがどんどん倒れていく。

 女性も少女らしからぬ剣技によって海賊を二人、三人と斬っていくが、やがて追い詰められていった。

 周りから味方がいなくなり、とうとう海賊に押さえ込まれてしまった。


「あ……!」


「チッ……この女、手間をかけさせやがって!」


「こんな女一人に何人も殺られちまうとはな。情けねえぜ」


 海賊が女性に群がってくる。

 周りは死屍累々。船乗りの死体がいくつも転がっており、もはや戦っている者はいなかった。

 交易船の所有者である商人も船室から引きずり出され、殺されている。

 もはや、この船の乗員で生き残っているのは彼女一人となっていた。


「オラア、もう動けないぜ!」


「ヘヘッ……大人しくするんだな!」


「は、離してください!」


 大の男に手足を押さえつけられ、女性は抵抗を封じられてしまう。

 先ほどまで振るっていた剣も遠くまで転がっていってしまった。


(クッ……こんなに簡単に。本来の力が使えたらこんなことには……!)


 女性はとある事情から本気を出せない状態となっていた。

 もしも全力を発揮することができたら、海賊などに後れを取らなかったものを。


「おいおい、スゲエ良い女じゃねえか!」


「堪らねえなあ……おい、俺達で味見しちまおうぜ!」


「先に手を出したら、お頭に殺されるぜ?」


「構うもんかよ! こんな美女を前に我慢できるか!」


 数人の海賊がヨダレを垂らしながら、女性に手を伸ばしてくる。


「ヒッ……いや、やめてくださいっ!」


 女性が叫ぶが、そんな淡い抵抗すら愉しむかのように海賊達が彼女の服を掴む。

 そして、力任せに引きちぎって胸元を露出させる。


「あっ……!」


 女性の顔が恐怖に染まる。

 服を破られて露出した胸部。豊かに実った乳房、肌は白くて血管が浮き出るほど。

 しっとりと汗ばんだそれは男であれば誰もが魅了され、正気を無くしてしまうくらいに艶やかで魅力的だった。


「いや……やめて……お願い……!」


「ヒヒッ……!」


 目尻に涙を浮かべる女性に海賊が目を血走らせた。

 欲望のままに彼女の尊厳を踏みにじり、肉体を蹂躙しようとする。


「……ア…………?」


 だが……唐突に彼女の身体に馬乗りになっていた海賊が消える。

 正確には、下半身を残して上半身だけが斬り飛ばされた。


「状況はまったくわからないが……何となく、不愉快であることは間違いないな」


「え……?」


 突然の展開に目を見開く女性に、どこか剣呑な空気を孕んだ言葉が投げかけられる。

 いつからそこにいたのだろう。上半身を分断された海賊の下半身……その後方に一人の青年が立っていた。

 黒衣の青年だ。髪の色も黒く、瞳だけが鮮やかに赤い。

 右手に美しい深紅色の波紋を浮かべた剣を手にしており、冷たい眼差しで周囲を見据えている。


「とりあえず……皆殺しにしておくか」


 青年がつぶやき、右腕を薙ぐ。

 すると……仲間の死に反応する暇すらなく、女性に群がっていた海賊の身体がバラバラに切断された。






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