第25話 幽霊の匂い
自分で納得し、それから1時間経った。
今新幹線の中は絶叫やらなんやらで騒がしくなっている。
ああ、もちろんほかの乗客には迷惑かけない程度だけど。
「んだ、この匂い。鉄くせぇ」
俺にはわからないけど、やっぱり
「相棒、なにかあったのか?」
「……察してくれ」
自分が許可したとはいえ、隣で肉を
今説明したら確実に吐いてしまう。
慶も俺の表情を見て察したのか、椅子から立ち上がって俺の背中をなでてくれた。
「ただ、龍牙は叩くなよ。俺が今回だけ特別に許可したから」
「叩く気満々だったぞ」
「いろいろと事情があってな」
「そうか」
龍牙を叩くつもりだったが、俺に言われて振り上げたこぶしをおろした。よかった、先に言っておいて。
庇うって言って約束した俺が先に破るわけにもいかないからな。
「あとは兄さんをどうにかしなきゃ」
「ああ、確かに」
龍牙が幽霊を食べる音には反応しなかったのに、匂いで起きるのは嗅覚が鋭いからだろうな。
食べることと寝ることが好きな兄さん。美味しそうな食べ物の匂いがしたら、すぐ起き上がるほど。どれだけ眠っていてもだ。
逆に変な匂いがしたら起き上がりはするけど、今回みたいに泣いて騒いでしまう。
だから落ち着かせないといけない。
「ほら、兄さん。お菓子あるよ。辛くないやつ」
椅子から立ち上がり、近くによって問いかけると、首を横に振り、拒絶。俺は幽霊の血の匂いがわからないから、どうにか匂いが消せるようなお菓子を薦めるしかない。
俺らが普段食事していても、何か食べていたら匂いなんてすぐわからなくなるから、兄さんが好きそうなものを探って渡すしかない。
「これもいや?」
手持ちにあるものを提案してみるも、嫌だと首を横に振る。
ポテトチップス醤油味。チョコクッキー。おせんべい。
これ、全部兄さんが自分で選んだものなのにな。
「もしかして眠たい?」
これも違うらしい。首を横に振っている。そして小さい声で「アイス」と言ってきた。
「寝起きでアイス食べるの?」
こくりと頷き、鞄を探っている。ここって車内販売あったけな? 確か無くなった気がする。
あ、まずいどうしよう。無いとわかったらさらに騒いでしまう。
立ち上がるのを阻止し、慶に俺の鞄を探ってもらう。
こんな時用に何個かお菓子を入れていたはず。
「これどうだ」
投げ渡してくれたものは棒付きキャンディー。少し大きめのやつ。
「兄さん、これ食べよう?」
嫌だと拒否された。
必死に座席から動かさないようにしているけど、目的のものを見つけるとそこまで一直線に向かってほかの物には目もくれないから大変。
アイスの代わりになるもので兄さんが興味をそそられるものがあれば……。
あ、やばい。泣きだしそう。
「ごめんね、兄さん」
いつのまにか兄さんの後ろに移動した龍牙が、兄さんの首に当身をし、気絶させた。
「なぁ、龍牙。お前がどんどん人じゃないものになっているような気がするんだが、気のせいか?」
「気のせいだよ」
足音もしなくて、一瞬で近づいて兄さんを気絶させられる存在が人じゃないものになってないなんておかしいだろ。
「それを言ったら兄さんたちもでしょ」
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