第4話 陰陽師
その日学校から帰り、家に着くと
母親が家にいないときは、俺が鍵を持っていることが多い。
何かあったのかと不安になったが、とりあえず家の中に入れて、お茶を用意する。
もしかしたら話が長くなるかもしれないから。
「お茶しかないけどいい?」
「頂戴いたします。突然お伺いして申し訳ございません、龍様」
「それは別にいいんだけど、どうしたんだ?」
「前ご報告していただいた案件で対策の術が見つかりましたので、報告を兼ねて」
「もう少しかかると思ってたけど、案外早かったんだな」
先週の休日、家族で祖父の家に行ったとき、末っ子龍牙の『霊を食べる』ことについて相談していたことが早く解決しそうでよかった。
「ただ、一度試した方がよろしいかと。霊を食べるということは味覚が変わっている可能性もあります」
そういって鞄の中から取り出したのはクッキーのレシピだった。
作る材料は普通のプレーンクッキー用のものだが、その中に1つだけ変わった材料がある。
それは霊力を込めること。
「龍様が最近お料理をされるということで、そこに組み込めないかと思いまして」
「なるほどな」
「霊力を込めると書いてありますが、そう難しく考える必要はございません。霊力を愛情などに置き換えてもらえれば、普段の料理と変わりませんので」
ただ、と京の言葉が続く。
「込めすぎると苦味などを出す可能性があります。試作品です。一度試食をされてどのようになるかわかっておいた方がよろしいかと」
そう言って鞄から2種類のクッキーが入った袋を取り出してきた。
見た目的には何も変わらないみたいだが。
「……」
思わず無言になってしまった。
せっかく作ってくれたものを吐き出すわけにはいかないが、とてつもなく苦い。
俺はあまり得意じゃないのだが、秋刀魚の内臓を食べたときの苦さに似ている。
末っ子がこれを食べてくれるかわからないが、覚えておかないと。
「吐き出してかまわないのですよ、龍様」
「……いや、食べるよ。覚えておきたいから」
ようやく飲み込めた。
お茶を準備しといてよかった。お茶の苦味は好きだからこれで相殺できる。多少だけどな。
もう1つはかすかに酸味と甘みがある。これは……いちごか?
「いちごを入れたのか?」
「いいえ。霊力を込める以外のことは何もしておりません。手作りプレーンクッキーと変わりませんよ」
なるほど。愛情だとこうなるってことか。
覚えるようにクッキーを何度も噛みしめていると、玄関のドアが開いた。
母さんが返ってきたのかな。
「母さん、お帰り」
「ただいま」
買い物帰りの母さん。不安そうな顔をしていないから龍牙には何もなかったんだな。
「あら、
「お邪魔しております、奥様」
「ゆっくりしていってね」
「はい」
買い物袋をキッチンにおいて買ったものを冷蔵庫に入れている。手伝わなきゃ。
「母さん、龍牙のこと聞いた?」
「聞いたわよ。電話を受けて病院行ってきて、何もなかったけど様子見で一日入院するって言ってたわ」
「そっか。何もないならよかった」
病院なら人の目がたくさんあるし、夜病室から出ても、見回りの人がいるから安易に動けない。
これで少しは安心出来たらいいんだが。
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怖くなくて読みやすいホラーです。気に入ったら★お願いします!
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