事案1 『祠について』

  夏休み、じいちゃんの家に遊びに来ていた俺は面白半分で入った鬱蒼とした裏山で、いかにも怪しげな小さい祠を壊してしまった。

なんの祠かは分からなかったが、直感で「まずいことをした」と思った俺は半べそをかきながらじいちゃんに祠を壊したことを伝えた。

じいちゃんは話を聞き終えると、俺の頭を撫でながら

「いいんだ、むしろもっと壊しても良かったぞ?」

と、優しい笑みを浮かべながら言った。

 その後改めて裏山に行ってみると、薄暗い山の中には夥しい数の祠が乱立していた。


*****


ア「さて、早速検討していきましょうか」

セ「あの、具体的に検討って何をするんですか?」

タ「簡単に言えば、『事案の輪郭を掴む』と言ったところだ」

セ「輪郭、ですか?」

ユ「この事案の意味を、ぼんやりとでも良いので言語化してみよ~という事ですね」

セ「なるほど」

ア「『祠』というものは、怪談や噂話、都市伝説においてかなりメジャーな建造物です。『祠を壊して祟りに襲われる』というのは最早テンプレですね」

タ「だが今回はその真逆、むしろ『壊せ』と語り手は祖父から言われているな」

ユ「下手に壊して祟られないんでしょうか~」

セ「・・・・逆に、壊さないと良くないことが起きる、とか?」

ア「良い視点です。『壊しても良い』というより『壊すべき』祠ということでしょうか」

タ「例えば、だが。この無数の祠を『住居不法侵入者』と捉えるとどうだろうか」

セ「『住居不法侵入者』・・・・山が家で、祠が不法侵入者って事ですか?」

タ「ああ。山は古来より神の棲まう場所、神聖な領域と捉えられてきた。そんな神の住処に同じく神の棲まう場とされる祠が乱立する。うむ、よく考えて見ればこれは住居不法侵入というよりかは・・・」

ユ「縄張り争い、と言ったところでしょうか~。祠は陣地を示す目印、とも捉えられますね~」

セ「その、神様同士の陣取り合戦、みたいな?」

ア「なるほど。では神聖存在同士の陣取り合戦だとして、語り手の祖父は何故『壊しても良い』などと発言したのでしょう」

タ「祖父は山に住まう神側の人間だからじゃないか? 山の神と相対する祠は壊れてもいいと思ってるとか」

ユ「山の神側だとして、何故祖父は自ら壊しに行かないんでしょう~? 山の神様に恩を売れそうじゃないですか~」

ア「自身に災いが降りかかることを畏れたんではないでしょうか。神というのは必ずしも良い存在ではない。下手に触れて返り討ちに遭うことを畏れたのでしょう」

セ「でも祖父は語り手に『もっと壊しても良かった』と言ってますよね? ・・・自分に災いが降りかからないように、孫を使おうとした?」

ア「今回の事案は『乱立する祠』という例の無い異様な光景も然る事ながら、孫の安否を省みず祠を壊して貰おうとする祖父の悍ましさを感じられる、ある意味”ヒトコワ”な事案ですね」

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