Life Finds a Way.
ずっと恐竜映画のことを考えていた。原作小説のほうだったかもしれない。
遺伝子に細工をされ、特定の必須アミノ酸を合成できない設定。彼らは“管理下でしか生きられないよう細工された生き物”だった。
けど、たしか、その必須アミノ酸が含まれた豆を食って野生下でも生き延びるんだ。
(俺にも“豆”が見つかるだろうか)
いや、恐竜たちは確かに人間による管理という、軛を断ち切ったように見えた。でも考えてみれば、彼らは豆の生息地域から離れて生きてはいけない。今度は豆に縛られているのだ。
『生命は道を見つける』だったかな。言い換えれば、生きる為に道に縛られる。元の生活と何ら変わらない。道から弾かれれば生きてはいけない。あるいは、また別の道に縛られるのか。いや、恐竜の話だけどな。
「構えが甘い、セト!」
木剣の切っ先が額すれすれで止まる。相手はランクル伯家の令嬢、ルナの側近にして叙任騎士、ララ。赤髪のショートがよく似合う長身の美人で、動きやすさ優先の露出多めの装備。正直、そそる。生きてるって素晴らしい。
「踵が寝てる。右足、もっと外へ。一拍目から重心を意識、腕で振るな、足で打て」
「はい先生」
身体強化はかなり控えめ。本気で強化すると力で押してしまい、学びが薄くなる――ララの指示だ。
言われた通りに動くと、木剣の先で脇腹をコツンと小突かれる。
「脇が甘いから腕で振ってしまうんだ。それと――剣先を追わず、相手の胸を見る」
「……ほう」
あまりジロジロと見るのは憚られるが、先生の指示では仕方がない。たっぷり堪能しよう。胸当ての上部には、豊かな質量に裏付けられた谷間がくっきり。そこから覗くほくろ。汗が一筋流れ、魅惑空間へと呑み込まれていった。
「次に、胸元から意識を広げ、顔や肩を同時に見る」
「顔見ると怖いんだけど」
嘘だ。厳しい表情をしていても、美人の顔を見るに嫌はない。
「相手の目線を見るのも重要だぞ。もちろん騙されることもあるから、頼り過ぎてはダメだが」
彼女は感覚派ではない。骨盤の向き、肩の落とし方、足裏の圧の配分、きちんと言語化して教えてくれる優れた師匠だ。
「当然、相手も目線でこちらの狙いを察知する。だからこそ、胸から肩、顔、最後には全身と、意識を広げて見るともなく見るんだ」
なるほど。俺もバハムと戦ったときに、観客席を見なかった。開始地点を確認することで、観客席との位置関係を計っていた。こういう考え方は俺に合っているようで、すとんと腹に落ちる。
「はい次。魔法との合わせ技。剣に振り回されずにステップを取りながら、すかさず魔法を撃つ。リズムは常に足で取る」
剣術はコードじゃない。頭で組めても、体が嘘をつく。
一方で魔法は得意だ。すんなりと四拍の呼吸に合わせて瞬時に構築。石壁へ向けて小さな火球。はじけた熱量が、灰色の壁を黒く染める。
「威力、昨日より上がってるわね」
「そうみたいだな」
今日になって気づけば、出力は増大していた。供給量も増えているのを感じる。
昨日、真実を知ったことで、かなりショックではあった。惨たらしい死のイメージ。ルナへの怒り。部屋に籠り、何もしなかった。成長の心当たりはない。
(怒りのパワーで覚醒ってやつだろうか)
「ますます鍛え甲斐があるわね。頼りにしてるわ」
そう言って屈託ない笑顔を見せるララ。風が通って、赤いショートがひらりと揺れる。
木剣を肩に担ぎ。空を見上げて何か思い出した様子。
「そうだ、あんたに王家の秘宝が下賜されるって噂よ」
「秘宝?」
「詳しくは知らない。秘宝だし」
――なるほど。秘めたる宝なら、知らないのが道理だ。
「普通はありえないからね。ルナ様がいろいろ手配したんでしょう。感謝しなさい」
「金目のものかな?」
ララは俺の肩をぐいっと抱き寄せると、口元を耳に寄せて言う。
「金には代えられないもの、よ」
こそばゆい。汗のにおいが香った。
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