第52話 兎佐田桃香はガチ悩みである。

 あなたは、バレンタインデーにチョコを貰った場合、ホワイトデーのお返しに悩むだろうか。

 季節は三月に入った頃。

 私、兎佐田桃香は――自宅で夕食後、自室にてガチ悩み中である。

 いや! だって! ホワイトデーは本来男子の悩む場だろ!

 なんで女子の私が悩んでるんだ! なんだこれ!

 しかも私恋人五人いるんだぞ! 考える量も五倍じゃ!

「ふー……」

 一応、ネットでアレコレ調べてみたが……。

 キャンディーはいいだの、マシュマロはダメだの、三倍返しだの、お菓子じゃなくてアクセサリーだの、手作りの方がいいだの、市販の方がいいだの……ま~、すんごい意見が飛び交ってらっしゃった。

 情報によっては真逆の意見を出してる所もあるので、もはや何を参考にしていいのやら……。


 そうだ百合小説や百合漫画のホワイトデー回は無いか? 参考に……。

 うーむ……バレンタインデー回は割とあるが……持ってる作品の中だとホワイトデー回って中々無いな……まずはホワイトデー回がある作品をピックアップ……。

 待て……これ大掃除の日にしまってた漫画読み始めて掃除進まなくなっちゃうパターンと同じ奴だ……。

 本を本棚に収納した、直後。

「桃香ー、林檎剥いたけど食べるー?」

 と、お母さんが部屋外から聞いて来た。

「食べまーす」

 部屋から出て、器に盛ったカット林檎をお母さんから受け取る。

「あら、何か悩んでる顔」

「うん……ちょっとね」

「恋人さん関係?」

 鋭いな、我が母。

「うん、まあ……ホワイトデーのお返しに悩んでいて……」

「あら、桃香が返す側なのね~♡ 意外~♡」

 問題点はそこなのかい? お母さん?

「いいわね~♡ そういうやりとりで悩むの♡ 青春してるわ~♡」

 この母……私たちの関係に理解があるを通り越して滅茶苦茶楽しんでる……。

 すげぇ親だ……。

「一応参考までに……お母さんは……ホワイトデーのお返しとかどんなの貰いました?」

「んー、お父さんから貰ったものとか答えてもいいけど、変な先入観植え付けちゃわない?」

 ぐ……それは……確かに懸念すべき事項。

 私が流されやすい所あるのは、最近自覚してる短所……。

 ここでお母さんの話を聞いちゃったら、それを前提に考えてしまうかもしれない……。

「やっぱ、やめておきます……」

「うん、あの子たちも、桃香自身で考えたものの方が喜ぶと思うわよ」

 お母さんは、私の頭をよしよしと撫でる。

「あとは、アレね。こういうのは、送った相手の喜ぶ顔を思い浮かべながら考えるといい案が浮かぶ、みたいな話聞いたことがあるわ」

「……喜ぶ顔」

「そうそう。それじゃ、頑張って~♡」

 お母さんは部屋から離れ、私も自室へと戻った。

 先程受け取った林檎に、ピックを刺してしゃくしゃくと齧る。

 みんなの喜ぶ顔……。

 一番喜んで貰えること、を考えるとしたら……やはり……。


 ホワイトデー、数日前。

 放課後、いつものようにホテルのスイートルームで集合。

 この辺りの地域は、三月になってもまだそこそこ寒さを感じることが多い。

 そんな気候に合わせ、薫衣は暖かい紅茶を用意してくれた。

 暖かい紅茶のおかげで、寒い外を歩いてきた私たちは落ち着――いてない。

 誰も直接は言わないが……迫るホワイトデーに私が何をお返ししてくれるのか、全員その期待でそわそわしているのが伝わって来るッ!

 私も、そろそろ言うべきだと思っていたので、もうひと口暖かい紅茶を飲んでから、意を決して切り出した。

「え、えー……皆さん。ホワイトデーについてですが……」

 私の発言に、うさフェチメンバーが同時に反応し、私の方を見る。

 エグいプレッシャーを感じる……。

 世間の彼女持ちの方々はホワイトデーになるとこんなプレッシャーを感じているのか……。

「い、色々、考えたのですが……ま、まずは、事前にこれをお渡ししておきます」

 私は鞄を開き、その中からとある紙を取り出す。

 ファンシーグッズのお店で手に入れた、チケット風のデザインのメモ用紙だ。

 それを一枚ずつ、みんなに渡していく。

「そ、それから……ホワイトデー当日、このホテルのどこかの部屋をひとつお借りしたい……というのを薫衣にお願いしたいのですが」

「え、ええ……構いませんが……」

 薫衣が了承してくれたので、これで準備は完了。

「では……ホワイトデーのお返しですが……」

 こほん、と咳払いをひとつ。


「普段、みんなの前じゃできないようなフェチ満たしの内容を――そのチケットに書いて、私に渡してください。当日、可能な限り満たします」


 案の定、みんなの目の色が変わった――!

 いや、わかってたけどねえ……!

 一番喜んで貰えそうなのやっぱフェチ満たししか無いんだわ!

「えー……フェチを満たす時は、先程薫衣にお願いした別室に、ひとりずつ私と一緒に移動します。ひとりのフェチ満たしが終わったら、戻って来て次の人と交代。これにより、誰にも見られない所で、私とふたりっきりで――」

 あ、説明続けてるけど……もう誰も聞いてねえ!

 みんなペン取り出してチケットに向かって悩んだり書き込んだりしてる!

「ちょ、ちょっと待ってください! 二つ! 条件があります!」

 私は慌てて付け足す。

「条件その一! ひとり当たり五分程度で終わる内容にすること!」

 これは、フェチ満たしに個人差が開きすぎてしまうと不平等が生まれてしまうため。

 あと、あまり長い時間の猶予を与えると……フェチの内容によっては私の体力が持たない可能性があるから……。

 特に桃黄子から息フェチに関する要求された場合、私の肺活量が試される可能性高いんだよな……。

「条件その二! 過度にえっちなことは流石に禁止!」

 これは言わずもがな!

 流石に線引きはしておこう! うん!

 特にリコッ!! 口には出さないであげるけどッ!!

「それから……この場で書くと誰かに見られそうで書けないって人もいると思ったので、一旦持ち帰って貰って、お家でじっくり考えて貰おうと……チケットに書く方式にしたんですが……」

 全員構わず書いてるんだよな……。

 欲望に正直だなみんな……。

「あー……ねえ、桃香」

 リコが、チケットをじっと見つめながら言う。

「過度にえっちなことは禁止って言ってたけど……ちょっとえっちなことならセーフ?」

「……ちょっとだけなら」

「よし、もうちょっとギリギリ攻めてみるか」

「言っておきますが! 当日内容確認してアウトならアウトって言いますからね!?」


 それから数日後。

 ホワイトデー、当日。

 薫衣に頼んで用意して貰った部屋は、スイートルームの丁度真下の部屋。

 そこも高層階の部屋なんでちゃんと値段もお高い部屋で……そんないい部屋用意せんでよかったのだが……。

 そして、全員のチケットを回収。

 確認。

 んー……うん。

 まあまあまあ……。

 ……。

「ギリギリセーフとします」

「よし」

 ガッツポーズするリコ。

 他うさフェチメンバーも喜んでいる様子。

 とはいえね……割と……予想できている範囲ではあった……うん。

 ちなみにフェチ満たしの順番は、バレンタインデーの時の順番と同じ。

 これはバレンタインデーのお返し故にバレンタインデーに合わせた順番にしたかったのと、順番決めで揉めるのを避けたかったから。

「というわけで、桃黄子、薫衣、蜜羽、ばにら、リコの順でフェチ満たしを行います」

「うおおおおおやばいめっちゃドキドキしてきた」

 トップバッターである桃黄子が、胸に手を添えながら私の方へ来る。

 私は桃黄子の手を取り、一緒に別室へと向かった。

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