第29話 兎佐田桃香は獅子神リコとデートである。
今日は、リコとのデートの日。
カジュアル寄りのシャツに、普段よりもミニなスカート。
露出度が妙に高くなりそうな所は、長いソックルを選んで履くことでカバー。
カジュアルとちょっぴりの冒険、が本日のテーマだ。
と、まあ……お出かけを想定した服だったのだが……。
「お邪魔します」
「ど、どうぞ……」
今、私は自分の部屋にリコを案内している。
何故ならリコと予定を合わせていたら、リコから要望されたのが……まさかの私の家でおうちデートだったからである。
「あ、あのー……どこか遊びに行こうって話だったのになんで我が家なんです……?」
座布団を敷いただけの床で申し訳ないが、リコを部屋の真ん中にあるローテーブルへ。
「遊びに行ってるじゃん」
座布団に座りつつ、リコはニカッとした笑いを浮かべる。
「ほら、ウチが桃香んちに行ってる」
叙述トリックにもならん屁理屈……!
いや、リコがいいなら別にいいのだが……お出かけコーデを頑張ってた私の宙ぶらりん感はどうすればいいのだ……。
と、そこで部屋のドアがノックされた。
「桃香ー? アイスコーヒーとお菓子持ってきたわよー?」
ノックの主はお母さんだ。
「あ、ありがと……」
ドアを開け、お盆を受け取る。
同時に、お母さんが小声で私に聞いて来た。
「ねえ桃香、お母さん、この後夕飯の買い物に行くんだけど、長めに行ってきた方がいい?」
「何の配慮!?」
「別に変な配慮じゃないわよ? 親がいると変に遠慮して楽しく遊べなかったりするじゃない?」
「そう……言われると……そうかもだけど……」
「じゃあ、そんなわけだから、ごゆっくり」
そう言って去っていく我が母。
……変な意味じゃないよね? この配慮変な意味じゃないよね!?
「何話してたの?」
「いや、あの、この後買い物行くらしくて! 帰り遅くなるかもって!」
「ふーん……」
アイスコーヒーとお菓子をテーブルに置き、適当に誤魔化す。
「で、どうしましょうか……私の部屋、テレビもボードゲームの類も無いんですが……」
パソコン……は、できれば触らせたくない……百合小説を書き綴ったテキストデータをどこからか発掘されたらヤバい……。
となるともうスマホで動画でも見るしか……。
「んー、じゃあさ」
リコは、ス……と、私の部屋のベッドを指さした。
「ちょっとイチャイチャしたいかなー……?」
「……何故……ベッドを指さしておられで……」
「ベッドでイチャつきたいから」
ほうほうほうほう。
ベッドで。
イチャつきたい。
あー……はいはいはいはい。
「えっちなことしようとしてます!?」
思わずツッコんだ。
「え~? したい?」
「質問を質問で返さないでくれませんか!?」
「あはは、大丈夫、前に桃香のベッドで一緒に寝ながら匂い嗅ぐの滅茶苦茶良かったから、もっかいやりたいだけ」
「……まあ……いいですけど……」
「やった♡」
いや……ある程度リコを信用しているというのもあるが……。
明らかに好意を向けてそうな匂わせがあるとは言え……まだリコは私に好きの一言も言ってないし……。
流石に恋人にもなってない相手とえっちなことはしないだろう……と……思う。
私はベッドに乗ると、ややベッドの奥の方で横になる。
前回と違って布団は被らんぞ……やっぱ布団被るとえっちいからな!
あと夏用布団とはいえ、夏の昼間から布団被るのは見た目も含め暑苦しい。
空いた私の隣のスペースに、リコが横になる。
私は匂いを嗅ぎやすいように、リコの方に背中を向けた。
よくリコが匂いを嗅いでいるのが、私の後頭部からうなじの辺りだからだ。
「ふふ♡ それじゃ、いただきまーす♡」
いただきますとかいうな! えっちいだろ!
リコの鼻先が私の後頭部に当たる。
深い呼吸音と、首筋の空気が吸われる感覚。
「あ――……♡ やっぱ桃香の匂い好きぃ……♡」
するり。
リコは両腕で、私の体を包み込むように抱きしめ――おおい!?
「これ何のハグ!? これ何のハグですか!?」
「『ぎゅーしたい』のハグ」
「目的とそれに伴う行動が同じなんですが!?」
「んふー……♡ すぅー……はぁー……♡」
聞いてないし!
ハグしながらの匂いを堪能してるし!
「はぁぁぁぁぁ♡ 桃香♡ 桃香♡」
「な、なんですかっ……?」
「ん、いや、興奮のあまり名前が口から漏れただけ♡」
「漏れるもんなんですか名前って!?」
「桃香も呼んで♡ 二人っきりなんだからちゃんと下の名前を呼び捨てで♡」
「え、えと……リコ……」
「桃香♡」
「リコ」
「んふー……ッ♡♡♡ あ~♡ フェチ満たされる~♡」
ぎゅうう、と、私を抱きしめる腕に力が入る。
いや、困るんだが、それは。
だって、だってさぁ!
私さっきからずーっと心臓ドキドキなんだよ!
伝わっちゃうから! 私がドキドキしてるの絶対腕から伝わっちゃうから!
「……桃香、ドキドキしてる?」
ほら伝わっちゃった!
言わんこっちゃない!
「ドキドキしてる時の匂いがしてる」
そっちかい!!
判断基準音や脈拍じゃなくて匂いかい!!
どっちにしろバレてるから本質的には関係ないけども!!
「そりゃ……こんなことされたらドキドキのひとつやふたつしちゃいますよ……」
「ふーん、そっかぁ……♡」
すぅー、と、深めに私の匂いが嗅がれる。
「ふぅ……ね、桃香、覚えてる? 前に桃香んち泊めさせて貰った日の事」
「え、ええ……夏休み前の話ですよね……」
「その時ウチ聞いたよね、『女の子、恋愛対象になるタイプ?』って」
うおおおおおッ!
ついに来たッ!
ずっと先延ばしにしてた質問の答えを催促しに来たッ!
よりによってベッドでハグされ匂い嗅がれ私がドキドキしちゃったタイミングでッ!!
「桃香のペースで教えてって言ったけどさ、あれから結構経つし、そろそろ教えてくれるかなーって」
「そ、そーですねー……」
どうしよう。
正直、まだ自分の気持ちに整理がついていない。
夏休み中、色んな女の子からいろんな感情をぶつけられた。
それを、満更でもないと思っている自分は……いる。
ただ……中学の間、平穏な友達関係を維持するべく、人付き合いを大切に、友達は平等に、とやって来た私にとって……「友達を恋愛対象として見る」行為に踏ん切りが付かないのだ。
みんなのフェチやラヴをそれなりに受け入れているのも……単にこのうさフェチの関係を壊したくないからそうしているんじゃないかと……自分を疑う時が多々ある。
私はまだ、「自分の気持ち」の正体を、心の中にある強固な箱の中から取り出せていないのである。
間違いなく、みんなの事は好きだ。
でもこの「好き」が恋愛感情でいいのかどうか。
どこから恋愛感情として認識すべきなのか。
二次創作百合小説であれば気軽に書けるはずの感情が、自分自身がその立場になった時、ここまで難しい感情になるなんて思ってもみなかった。
「なーんか難しく考えてそうな匂い出してんじゃん」
私の首の後ろの匂いを嗅ぎながら、リコがボソッと言う。
……いや、そもそも匂いで人の感情を読み解くな。
何かの能力者か?
「じゃ、もうちょっとシンプルな質問に変えよっか」
ハグをしていた腕が解かれ、そのまま私の体が掴まれて引っ張られる。
ぐるっと私の体がリコの方へ反転。
体が反転した分距離が接近し、ぽす、とリコの体に私の頭が着地した。
「あ――」
反射で「すみません」と言おうとして顔を見上げ――うわ近いッ! 顔が近いッ!
あっぶな! あと1cmも近づいてたらキスするぐらい近かったッ!
そんな距離で。
私の目をじっと見て。
リコは。
「桃香。好きだよ」
う。
うおおおおおッ!?♡
ゼロ距離真正面告白はずるいだろッ!
一瞬心の声がトロけたわ畜生!
「ウチと付き合って欲しい。どう? これなら答えられる?」
「え、あ……」
私が答えあぐねている間に、リコは私の後頭部に手を回す。
逃がさない気だ!
そんでOK出したらそのままキスしそうな勢いじゃんこれ!
いや、リコとキスすること自体は嫌じゃないけど!
……嫌じゃないんだ、私。
あれ?
あれあれあれあれ?
私なんでリコとキスすることを今本心からOKと思った?
……あ……れ……もしかして、私……。
リコの事……恋愛的な意味で……好き……?
心の中の、箱の蓋が。
開いた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます