第20話 兎佐田桃香はよく気付く方である。
あなたは友達の様子がおかしければ、すぐ気づく方だろうか。
私、兎佐田桃香は、よく気付く方である。
友達の様子がおかしいことから友達同士の不和が生まれるのが嫌だからだ。
一般人として無難かつ平穏な交友関係を続けて行きたかった私は、そういう所に敏感である。
カキ氷を楽しんだ私たちは、その後別荘へと戻ることにした。
土地勘のない場所であまり広範囲移動するのも怖いし、カキ氷で涼を取ったとはいえ、この暑い中いつまでも外をウロウロしていたくない。
暑いのが嫌なのもあるが、熱中症の危険は常に意識して気を付けておきたいからだ。
……おそらく各地で待機しているであろう、唐狩さんのための救護班の皆さんにも、これ以上唐狩さんの熱中症の心配をさせたくないし……。
しばらく歩き、別荘に到着した頃には、また随分と汗をかいてしまった。
行くときに渡されていたドリンクも、すっかり空っぽだ。
カキ氷とドリンクで水分は十分すぎるほど摂取しているはずなのだが、全部汗で出てしまっていないだろうか……。
「夕食前に、お風呂を済ませておきましょうか。この別荘の大浴場でしたら、皆さんでご一緒に入ることもできますし」
唐狩さんの提案はありがたい。
正直、誰かが入っている間「待っててくれ」と言われたら中々キツいぐらいの汗だった。
大浴場は、本当に文字通り大きかった。
なんだあれ……でっかい浴槽にでっかい岩があるぞ……でかい岩が……岩の隙間からお湯出てる……滝みたいじゃん……。
お金持ちの風呂って、壁にくっついてるライオンの口からお湯出してるイメージあったけど……岩なんだ……。
そんで洗い場も多いな……この六人全員使っても余る……。
別荘というより、ホテルとか旅館とかの大浴場じゃないかなこれ……?
髪をブラシでブラッシングした後、シャワーのお湯で丁寧に予洗い。
うーん、風呂が豪華すぎてこのシャワーのお湯すら高級品に思えて来る……実際シャワー専用の水道とか引いてたり……しないか。
「兎佐田さーん、そろそろシャンプーやるとこー?」
シャワーを止めたタイミングで、虎沢さんが話しかけて来た。
「シャンプー、あーしがやろっかー?」
「え、急に髪フェチにも目覚めました?」
「違くてー」
しまった……もうフェチを浴びすぎて人をフェチで疑うようになってしまっている……。
いやでも仕方ないだろ……こちとら平日勉強以外ほぼフェチ浴びてるような学校生活送ってるんだぞ……。
あとフェチを複数持つという前例(地伊田さん)が登場しちゃったから、今後誰かにフェチ増えてもおかしくないと思ってしまっているんだよ……。
「今日はさー、海に入ったりー、外歩いて汗かいたりしたでしょー? 髪や頭皮のケアちゃんとしてあげたいなーって思ってー」
「あ……ありがとうございます……じゃあ、せっかくなんでお願いしても……?」
「お願いされまーす」
虎沢さんはシャンプーボトルからシャンプー液を出し、手で丁寧に泡立てる。
「髪や頭皮を清潔にしておかないとねー、耳の回りとかにも悪影響出ちゃうしー?」
「ああ、フェチ関連の話ではあったんですね……」
泡立てたシャンプーで、髪を洗っていく。
下から上へ、髪を傷つけないよう、頭皮を洗うように。
「あー……虎沢さん、髪洗うのお上手ですね……」
「えへへー、気持ちいーい?」
「はい、かなり」
やはり耳元は拘りがあるのか、耳の後ろの辺りもマッサージするように洗ってくれている。
「前にも言ったけどー、あーし、耳がえっちだと思ってるんだよねー」
「このタイミングでその話出します?」
「人の耳の回り洗うっていうのもー、なんかえっちだよねー」
「ん~……すいません理解が追い付かなくて拒否るのも難しいやつです、これ」
虎沢さんのフェチ、理解の難易度で言えば一番高いんだよな……。
私のシャンプーが終わった後、お礼にと交代して虎沢さんの髪を私がシャンプーしてあげた。
金髪ギャルの髪を洗うのは初めての体験だった……。
日本人だから髪染めてるわけだが……髪を染めたことがない私は、下手にシャンプーしたら金髪が色落ちしてしまうのではないかと一瞬不安になった。
髪を洗い終え、ふう、と一息。
「う、兎佐田さん……ッ」
今度は豹堂さんが声をかけてきた。
「あ、あたしは、その…‥せ、背中……流したいっつーか……その……」
「あー……洗いっこします?」
「しまァすッ!♡」
昼間、獅子神さんとバチバチだったからな……たぶん豹堂さんは相当フェチ飢えしている。
暴走しないよう、しっかりフェチ満たししてあげた方がいいかもしれない……。
豹堂さんはボディタオルに石鹸をつけ、私の背中を優しく、すり、と洗……いや、擦った? 掠った?
「あああああ♡ 兎佐田さん背中ちっちゃいっ♡ えぇ……これ大丈夫かよォ――……? 下手に擦ったら骨折れるんじゃあねーかァ――ッ……?」
「大丈夫です割と頑丈です」
私の骨を魚の骨かなんかと同レベルと思ってらっしゃる……?
「はわわわわ♡ やべえ全然力入れて洗えねェ――……」
「こ、交代しましょうか」
このままでは洗うというよりタオルで皮膚を撫でるだけで終わりそうだったため、急遽交代。
身長170cmの豹堂さんの背中は、やっぱり大きい。
石鹸の付いたタオルで、くし、くし、と豹堂さんの背中を洗う。
「はぁあああッ!♡ ひと擦りで洗ってる面積がちっちゃいッ!♡ タオル越しに背中の感触で手の小ささを感じるッ!♡」
随分マニアックなフェチの満たし方してるな……。
「豹堂さーん? ちゃんとこうやって豹堂さんのフェチ満たしもしてあげますから、あんまりうさフェチのみんなと張り合いすぎちゃダメですよー? 仲良くしてくださーい?」
「しますッ!♡ 仲良くしますッ!♡♡♡」
言質を取りつつ、豹堂さんの背中洗浄完了。
「はー……♡ はー……♡」
「……大丈夫ですか……?」
「……兎佐田さんに洗って貰った背中大事にしたいからしばらく背中洗わねェ――……」
「洗ってください。夏ですよ、今」
流石に背中を撫でられた程度の洗い方では不安なため、自分でも自身の体を洗う。
足を洗おうとして……あ、このタイミングで唐狩さんが来るのかなー? と、思ったのだが。
来ない。
意外や意外、唐狩さんは髪や体を洗い終え、湯船に浸かってぼんやり天井を見上げていた。
……どうしよう、洗っちゃっていいのかな、足……。
一声かけるか……? いや、普通に考えたらお風呂でゆっくりしてる時に邪魔入れるの悪いよな……?
おまけに用件が「自分の足を洗え」だぞ……ダメだろ……。
私はとりあえず自分で自分の足を含めた全身を洗い、湯船のエリアへ。
寄って来たのは唐狩さんではなく……獅子神さんと地伊田さん。
「ん~♡ 流石に洗い立ての桃香の匂いは新鮮~♡」
「洗濯物じゃないんですから……」
早速スンスンと私の匂いを嗅ぐ安定の獅子神さん。
体洗った直後だと体臭気にしなくていいから……匂い嗅がせる抵抗感が若干減る……かな?
「兎佐田さーん♡ アタシの匂い嗅いでー♡」
そこに地伊田さんの匂われ要請。
……この人、ホント私をネタに色々楽しい人生送ってるな……。
ため息をひとつ零してから、私は地伊田さんの首筋に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
そのまま、「ふぅー……」と、地伊田さんの首筋目掛けて吐息。
「はひぁああッ♡♡♡」
地伊田さん……ホントに幸せそうな顔をなさる……。
ちょっと前まで獅子神さんの悲しい過去に関わる人物的なポジションだったのが信じられん……。
食堂で唐狩さんに仕える料理人の方々から出された夕食は、これまた非常に豪華だった。
知識が無さ過ぎて料理名を言われてもさっぱりな料理ばかりだったが……とにかく美味しかった。
食後、私たちはリビングスペースでトランプなりボードゲームなりをして時間を潰し、ゲームがひと段落した所で、そろそろ就寝の準備をしようということになった。
歯を磨き、寝室へ。
ここに来た時に話があったが、今夜は六人全員でひとつの部屋でお泊りだ。
複数の友達と同じ部屋で寝る……修学旅行の時もそうだけど、この雰囲気好きだな……。
寝室で寝間着に着替え、ベッドの上に上がった後も、しばらくの間は電気も消さず、適当に雑談をしていた。
誰かが欠伸をし始めてきた辺りで、もうそろそろ寝ようかという雰囲気になり、部屋の電気を消した。
私は寝る前にスマホで小説のメモを残しておこうと思い、しばらく起きてスマホをいじっていた。
それで目が冴えてしまったせいか、スマホの画面を閉じて寝ようとした後も、しばらく眠りにつくことができなかった。
それからどれぐらい経ったのか、ようやくウトウトし始めて来た時。
とて、とて……と、スリッパで移動する足音が聞こえた。
誰かがトイレに起きたのだろうか……と思ったが、足音は寝室のドアを開けて外に出て行った。
寝室の奥に寝室用のトイレがあったから、わざわざ寝室の外に出る必要はないはず……。
妙に気になった私は、体を起こし、周囲を見渡した。
唐狩さんが寝ていたはずのベッドが、空だった。
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