第6話 豹堂蜜羽は同年代低身長女子フェチである。
あなたはランドセルを背負わなくなり、何年経っただろう。
私、兎佐田桃香は高校一年生。
小学校を卒業後、中学でランドセルを背負う機会などあるはずもなく、丸々三年と高校入学してしばらくの間、背負っていない計算になる。
そして、今後も背負うことはない――という計算のはずだった。
私の目の前に、今。
ランドセルがある。
ついでに小学生が被るような黄色い帽子もある。
豹堂さんの持ってきていた、あのレオパード柄のスーツケースの中から出て来たものだ。
「う、兎佐田さんによォ――、その……ランドセル、背負って欲しいなァ――、って……♡」
今後、ランドセルなど背負うことがないだろうという計算は、同年代低身長女子フェチの豹堂さんによって、あっさりと狂わされた。
「……え、もしかしてそのスーツケース持って来てた時からずっと持ってたんですか……?」
「いつかチャンスが来たら兎佐田さんに『着用して貰いてェ~ッ』って思っててよォ――……ずっと学校に持って来てたんだよなァ――……♡」
頬を染めながら、恋する乙女のような顔をする豹堂さん。
もう不良っぽい印象しかなかった頃が既に懐かしい。
どんどん不良という印象がロリコンという印象で覆われていく。
「さっき実年齢が低い子は趣味と違うとか言ってませんでしたっけ……」
「おうよォ、実際小学生がランドセル背負ってても普通じゃあねぇかァ~? 同年代のちっちゃい子がランドセル背負ってるって状況の方が、こう……グッと来るモンがあんだろーがよォ――ッ!?」
同意を求めないで欲しい……。
聞けば聞くほど拗らせに拗らせたフェチしてんな豹堂さん……。
「ちなみにこのランドセルはどちらご購入を……?」
「あ、それあたしが実際小学生の頃背負ってた奴。帽子は兎佐田さんの頭の大きさを目測で判断して買ったんだけどよォ――……サイズ合ってなかったら許してくれェ~?」
謝る所そこ?
さては小学生コスプレさせる所は悪いと思ってないな?
「で、帽子被ってランドセル背負ってくれねーかァ――ッ!?♡」
「すいません流石にそれはちょっと」
即答で断った――ら、豹堂さんにガシッと手を掴まれた。
そして懇願のポーズ。
「頼むよォ――ッ、兎佐田さんよォ――ッ! もう兎佐田さん一目見た時からずっと『兎佐田さんがランドセル背負ってる所見てェェェ――ッ!』って思って毎日過ごしてたんだからよォ――ッ! タイムマシン開発して兎佐田さんの小学生時代まで飛んだ方が早いかァ~? って思いつつ『でもそれは同年代じゃなくなんだろォ? じゃあなんかちげーだろーがよォ――ッ!』って諦めてたんだからよォ――ッ!」
タイムマシン開発諦める理由そこ?
同年代じゃなくてもいいならタイムマシン開発に取り掛かってたの?
「マジ頼めねえかなァ~? あたし兎佐田さんのランドセル姿見れたらもう人生終わってもいいッ!」
「そこまで!?」
「お願いしますッ!」
「土下座しないでください!」
人生をかけ、狭いカラオケルームの床で土下座までする豹堂さん。
そこまで私のランドセル姿が見たいのか……。
もはやこっちが申し訳なくなって来るな……。
「あ、あの……わかりました」
「マジでッ!?」
「はい……あの、人生終わらせないでくださいね?」
数年ぶりのランドセルを背負う。
中身は何も入ってないので、そこそこ軽く感じる。
その後、黄色い帽子を着用。
即席小学生コスプレの完成だ。
「ど……どうですか?」
「あ……あ……」
声を震わせ、口に手を当てる豹堂さん。
直後、ドバ、と言いたくなる勢いで目から涙が溢れた。
「天゛使゛……!」
「人間です」
感動(?)の涙を手でぐしぐしと拭う豹堂さん。
「やべェ……兎佐田さん理想の女の子すぎんだろーがよォ――……これ現実ゥ? もう天国ゥ? あたし死んだァ?」
「大丈夫ですよ、生きてます生きてます」
ロリコンを変な形にしてこじらせると人間はこうなるのか……。
人間とは脆い生き物なんだな……。
「……写真撮っていいかァ?」
「それは勘弁してください!」
この恥ずかしい格好の証拠は残したくないッ!
豹堂さんはその後ちょっとだけ食い下がったが、なんとか写真は諦めてくれた。
「はああああ……♡ 服は学校の制服のままだけどよォ――……逆に制服小学生っぽくてイイ……♡」
「本当にその本性外で出さないでくださいね? 通報されますからね?」
「うへへへへ……♡」
「聞いてます?」
豹堂さん……なんか友達になりましょうって言っちゃったけど……ちょっぴり後悔……いや。
友達になっておいてこのフェチをちゃんと管理してあげないと……マジで警察のお世話になる危険性がありそうだな……そう考えると友達にならない方が後悔しそうか……?
「なァ~♡ ランドセルの肩紐手で握ってよォ、背負い直すみたいなポーズしてほしーんだけどよォ~♡」
豹堂さん本人は私の思いなど知る由もなく、トロトロした声のままポーズまで要求。
「ええ……なんかマニアックな……こ、こうですか?」
言われた通りにランドセルを背負い直すポーズをしてみる。
まあ確かに子供っぽいな……。
「あ~~~ッ♡ これこれこれェェェ~~ッ♡ 兎佐田さん最高ォオオ――ッ!♡」
絶叫に近い歓喜の声。
カラオケでよかった……と思った、その時。
「お゛ッ」
たらり。
「あえ?」
「えっ」
豹堂さんの鼻から鼻血が出た。
「ちょちょちょ豹堂さんッ!?」
「あッ、やばッ、興奮しすぎて……ッ……」
ぼたぼたと垂れる鼻血が、カラオケルームの床に落ちる。
「ティッシュティッシュ! ティッシュどこですか!?」
ロリコン大歓喜の楽しいファッションショーから一転。
血みどろパニックの始まりである。
そして。
「兎佐田さんッ!? 大丈夫ッ!?」
とんでもないタイミングで何故か部屋に飛び込んで来たのが、獅子神さんと虎沢さんだった。
目の前には、ランドセルを背負い黄色い児童帽を被った私。
鼻血ボタボタの豹堂さん。
「……え、殴ったのー?」
「豹堂さんを!? グーで!?」
「違いますよ!?」
数分後。
色々落ち着いた全員で改めて顔合わせ。
「まず……獅子神さんと虎沢さんは何故ここに?」
「いや、兎佐田さんに断られたカラオケの行先がここでさ……」
まあ、それは想定していた。
学校から一番違いカラオケ店がここだから。
「で……ウチと虎沢さんでちょっとトイレ行った帰りに……なんか兎佐田さんと豹堂さんの匂いがするなー、二人も来てるのかなー、って思って……」
獅子神さんがそう続け――え?
「……匂い?」
「兎佐田さんは桃の香りでしょ? 豹堂さんはハニーミルクの香りでしょ?」
「でしょ? って言われても……」
「ちなみに虎沢さんは名前の通りバニラの香り」
「聞いてません……」
カラオケ店って結構色んな匂いするよね……?
人は多いしドリンクや料理運ばれてるもんね……?
その状態で私や豹堂さんの匂いを嗅ぎ分けたの……?
犬……?
「そんで、この部屋の前通ったら、ここから匂うなーってなって……急に血の匂いがして…‥なんか騒いでるみたいで……ただ事じゃないなと思ってつい……」
カラオケルームの扉越しに場所の特定を?
もはや匂いフェチを通り越して能力者になってるぞ獅子神さん?
と、まあ獅子神さんと虎沢さんがこの部屋に飛び込んで来た理由は判明。
「で、これどういう状況……?」
今度は獅子神さんからこちらへ質問。
まあそりゃ聞かれるわ……。
ランドセルと児童帽で小学生コスプレの私に、鼻血ボタボタ垂らしてた豹堂さん。
一見すると私が殴ったように見えなくもない。
「……」
豹堂さんはティッシュで鼻を抑えたまま俯いて動かない。
……なんか説明面倒だし強行突破するか。
「豹堂さんは実は同年代低身長女子フェチで私に興奮して鼻血出しました」
「おい何で全部言っちまうんだァ!? 兎佐田さんッ!?」
悲鳴みたいな声で豹堂さんが叫ぶ。
「大丈夫です豹堂さん! 獅子神さんも虎沢さんも似たようなもんですから! ねっ!?」
私に話を振られ、二人は一瞬びくっ、としたものの、お互いに目配せをして、咳払いを一つ。
「えー……獅子神リコ、兎佐田さんの匂いで興奮する匂いフェチです」
「虎沢ばにらでーす。兎佐田さんの耳で興奮する耳フェチでーす」
「おい兎佐田さんよォッ! なんだこいつらァよォ――ッ!? なんかやべェ奴らじゃあねぇかァ――ッ!?」
「豹堂さん、あなた人のこと言えません」
それからさらに数分後。
「おいなんだよ匂い嗅がせて貰ってるってよォ――ッ! 耳触らせて貰ってるってよォ――ッ! ちょっと羨ましすぎるじゃねーかこのギャル共ッ!」
「豹堂さんもずるくない!? ひとりでランドセル兎佐田さん独占しようとしてたの!? あと豹堂さんみたいなハニーミルクの香りも添えた方がいいよ絶対! ちっちゃい女の子の香りだよ!」
「でもあのえっちな耳はどう見ても小学生のそれではなくなーい? 大人の魅力だよー?」
三人のフェチ女子たちは、私を置いてけぼりにして滅茶苦茶仲良くなっていた。
こうして、兎佐田桃香で己のフェチを満たすメンバーの中に、豹堂さんという新たな仲間が加わったのだった。
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