第9話 告白

文化祭の翌日。

 クラスはまだ余韻に包まれていた。

 打ち上げの話、屋台の反省、来年への期待――誰もが笑顔で声を弾ませている。

 けれど、俺の胸の奥は静かに燃えていた。


 チャイムが鳴り、HRが始まる。担任が簡単な挨拶をして、すぐに終わろうとしたその時、

 俺は立ち上がった。


「先生、ちょっといいですか」


 教室がざわめく。

 普段大人しい俺が声をあげたことに、皆が驚いたのだろう。

 俺は前を向き、担任ではなく、彼女と友達を見た。


「みんなに、伝えたいことがある」


 彼女が怯えたように目を伏せる。

 友達は歯を食いしばって俺を睨む。

 それでも俺は構わず言葉を続けた。


「俺の大切なものを裏切ったやつがいる。俺の隣で笑ってたやつが、俺を騙して、平気な顔で俺を踏みつけてた」


 クラスの空気が変わる。

 好奇心と緊張が混じった視線が二人に注がれる。

 彼女の肩が震え、ついに立ち上がった。


「……私、言う。全部」


 その声は掠れていたけど、確かに届いた。

 教室の空気が凍る。

 友達が慌てて立ち上がり、彼女の腕を掴む。


「やめろ! 言うな!」


「もう隠せない……! 私、○○(主人公)と付き合ってた。でも……でも……!」

 彼女は涙を流しながら言葉を絞り出した。

「文化祭の準備の間に……私は裏切った。……こいつと……」


 教室が一瞬でざわめきに変わった。

 驚き、怒り、好奇心、ざわめきが渦を巻く。

 担任が止めようとするが、もう遅い。

 すでに全員が知ってしまった。


 友達が彼女を睨みつける。

「お前……なんで……!」


 彼女は泣きながら叫んだ。

「全部私のせいにしてもいい! でも、もう嘘をつき続けるのは無理だったの!」


 クラス中がざわつく。誰かが「最低だな」と呟いた。

 その声が伝染するように、ざわめきが広がる。


 俺は席に座ったまま、静かに笑った。

 胸の奥で熱いものが広がる。

 復讐の味は、苦くて甘い。


 でも――同時に、妙な虚しさもあった。

 俺が望んでいたのは、この場面だったはずなのに。

 彼女が涙を流して、友達が怒りに震えて、クラス全員が二人を軽蔑する光景。

 それでも、俺の中にある空洞は埋まらない。


「……これで終わりだ」

 俺は小さく呟いた。誰にも聞こえなかったはずだ。

 けれど、自分の胸の奥ではっきりと響いていた。


 終わりの始まり。

 復讐はまだ続く――そう思いながら、俺は静かに笑った。

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