灰かぶり姫は王子様の夢を見ない〜王子様キャラが嫌いなので拒絶したら何故だか溺愛ルートに入りました〜

ふじの白雪

第1話 灰かぶり姫は恐怖の大魔王

ルーカス伯爵は、穏やかで心優しい紳士だ。だが、仕事熱心で多忙すぎるあまり、娘のアシュリンと向き合う時間は極端に少ない。


妻を亡くした寂しさから、再婚を決意。


迎え入れたのは、元子爵家の未亡人レティシアと、その連れ子である二人の娘、長女セシリアと次女ベアトリスだった。


こうしてアシュリンは、義母と二人の義姉と暮らし始める事となった。


ある日、国王陛下主催の盛大な夜会が催された。表向きは親睦の場だが、実態は第一王子エドワードの『結婚相手探し』だ。


招待された貴族の令嬢達は、皆、華美な衣装を身に纏い『どうです、私、可愛いでしょう?』と言わんばかりに王子への愛想を振りまく。


そんな中、会場の隅で異彩を放つ一人の令嬢がいた。その態度は、まるで「帰りたい、今すぐ」と全身で訴えているよう。


「あの無愛想さはなんだ?」

あまりにも気になるその態度に、王子はついダンスを申し込む。


「はぁ…面倒臭い」

心の声が漏れそうになるのをどうにかこらえ、断るのも失礼だと悟ったアシュリンは、渋々王子と踊る事にした。


本当は夜会など来たくもなかったのだ。

義母と義姉達が、夜会当日になって突如『体調不良』を訴えてキャンセル。

しかし、「お願いよ、アシュリン!これは伯爵家の義務なの!!」と、三人がかりで、土下座にも近い懇願をしてきた。


「ほら、私の大切な装飾付きの革靴も貸してあげるわ」


こうしてアシュリンは豪華なドレスと、姉ベアトリスが大切にしている小さな革靴を無理やり渡せれ、夜会に出てきたのである。


「夜は20時に寝ないと健康に悪いと言うのに…このままだと明日に差し支えるじゃないの!」

アシュリンの脳内には『健康』の二文字しかない。


時計台の鐘が深夜の12時を告げた。


「大変!これ以上いたら明日の体調に響くわ!さっさとおさらばするしかない!!」

健康維持のため、アシュリンは一目散に逃亡を始めた。


階段を駆け下りようとした瞬間、彼女のかなり立派な足のサイズに合わない借り物の革靴が「ポトンッ」と落ちた。


脱げ落ちた靴は、アシュリンが無理やり履き潰したせいで、踵が酷くひしゃげ、見るも無残な形に変形していた。


後日、『王子様があの踵部分がひしゃげた靴の持ち主を探している』という報せが伯爵家に届くと、義母と義姉達は狂喜乱舞した。


「これで平和になる!アシュリンがこの家からいなくなる!」


彼女達にとって、アシュリンは文字通り厄災だった。

頼んでもないのに、料理をすれば、何故か味が科学的に崩壊。

頼んでもないのに、掃除をすれば、姉達の愛用品を容赦なく破壊。

そして、虫の居所が悪いと、家の壁に穴が開く。


義母と義姉を恐怖のどん底に追いやるアシュリンは、まさに無自覚の恐怖の大魔王だったのだ。

三人は、これで厄介払いができると信じ、歓喜の涙で枕を濡らしながら、王子様の訪問を待ちわびた。

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