第2章 エイト・スプレッド 〜 絆を信じて、それぞれの舞台(ステージ)へ

第11話 リーダーの重圧 ~ミナ~

 北部工業都市群に到着してから三日が経った。

 ミナは自分のチームメンバーを見回した。リーダーとなったのは、エルネスト(19歳・元鍛冶師見習い)、マリア(18歳・元織物工)、そしてトーマス(20歳・元機械工)の三人だ。

 皆、真面目で熱心だが、ミナにとって初めてのリーダー経験は想像以上に重かった。

「ミナさん、次はどの都市から攻略しますか?」

 エルネストが地図を指しながら尋ねる。

 北部には『鉄鋼都市アイアンハート』『機械都市ギアシティ』『炭鉱都市ブラックマウンテン』の三つの工業都市があった。

「そうね......」

 ミナは地図を見つめながら考え込んだ。

 これまで8人で一緒に決めていた作戦を、今度は自分一人で決めなければならない。


「まずは一番小さなブラックマウンテンから始めましょう」

 ミナの提案で、4人は炭鉱都市へと向かった。

 しかし、到着してみると状況は予想以上に深刻だった。

 都市を覆う瘴気が、炭鉱の機械と奇妙に融合し、まるで生きた金属の怪物のような形を作っている。

「これは......今までと全然違います」

 マリアが震え声で言った。

「工業都市特有の現象ですね」

 トーマスが分析する。

「機械の魔力と瘴気が混ざり合って、より複雑になっている」

 ミナは焦った。これまでセレナがいてくれれば、こうした未知の現象についても説明してもらえた。でも今は、自分が決断しなければならない。

「とりあえず、基本のコンビネーションで試してみましょう」

 音響水晶が、いつもの曲を奏で始める。

 4人のダンスが始まったが、聖魔法の光は機械化した瘴気に弾かれてしまう。

「だめです......光が通らない」

 エルネストが悔しそうに言った。

「音楽と瘴気のリズムが、合ってないような気がします」

 マリアが気づいたことを口にする。


 その夜、宿で作戦を練り直していた。

「ミナさん、本当に私たちでできるんでしょうか?」

 マリアが不安そうに尋ねる。

 ミナは答えに窮した。正直なところ、自分でも確信が持てない。

「大丈夫よ。きっと方法があるはず」

 そう答えたものの、声に自信がないことはメンバーにも伝わっているようだった。

 魔法通信機の時間になり、他のチームと連絡を取った。

「ミナ、調子はどう?」

 ユカの声が聞こえる。

「えーっと......順調よ」

 ミナは嘘をついた。他のチームに心配をかけたくなかった。

「こっちも頑張ってるわ」

 カノンの明るい声。

「基礎練習の成果が出てきたぞ」

 ハルの力強い報告。

 皆が成功している中で、自分だけがうまくいっていないような気がした。


 通信を終えた後、トーマスがミナに話しかけた。

「ミナさん、無理しなくていいんですよ」

「え?」

「僕たち、ミナさんが困ってるのが分かります」

 エルネストも頷く。

「私たちも初心者ですから、失敗して当然なんです」

 マリアも優しく言った。

「ミナさんが一人で全部背負う必要はありません」

 その言葉に、ミナの心が軽くなった。

「みんな......ありがとう」

 ミナは素直に心境を話した。

「実は、リーダーとしてうまくやれるか不安で......」

「当然ですよ」

 トーマスが笑う。

「僕たちだって、チアダンス始めたばかりなんですから」


 翌日、4人は再びブラックマウンテンに向かった。

 今度はミナが一人で作戦を立てるのではなく、全員で考えることにした。

「トーマス、機械に詳しいのよね?」

「はい。機械工をやっていましたから」

「じゃあ、機械と瘴気の融合について、何か気づくことはある?」

 トーマスが瘴気を観察する。

「......あ、これは『共鳴』ですね」

「共鳴?」

「機械の振動と瘴気の波長が合ってしまって、より強固になっている」

 エルネストが提案した。

「それなら、違う振動を加えれば共鳴を断ち切れるかも」

「私、織物の時にリズムを意識してました」

 マリアも加わる。

「ダンスのリズムを変えれば......」

 その時、ミナがひらめいた。

「音響水晶の音楽も、変えられるんじゃない?」

 音響水晶は使用者の記憶から音楽を引き出す。ミナは北部の鍛冶職人たちが仕事中に歌う、力強い労働歌を思い出していた。

「この街の人たちが歌っていた、金属を打つリズムの歌......あれを使ってみましょう」

 音響水晶に触れ、意識を集中すると、水晶が新しいリズムを奏で始めた。

 重厚で力強い、まるで金槌で鉄を打つような音楽。それは北部工業地帯の人々の魂が込められた音楽だった。


 4人で新しいコンビネーション を考案した。

 通常よりもゆっくりとしたリズムで、機械の振動を打ち消すような動きを取り入れる。

 ダンスが始まると、今度は聖魔法の光が機械化した瘴気に浸透していく。

「いける!」

 ミナが興奮する。

 瘴気と機械の融合体が、光に包まれて浄化されていく。

 ブラックマウンテンの空に、久しぶりに青空が戻った。

「やった! 私たち、やりました!」

 エルネストが喜びの声を上げる。

 都市の人々が外に出てきて、4人に感謝の言葉を伝える。

「ありがとうございます!」

「本当に、ありがとう!」


 その夜、宿でミナは仲間たちに言った。

「みんな、ありがとう。今日気づいたの」

「何をですか?」

 マリアが尋ねる。

「リーダーって、一人で全部決める人じゃないのね」

 ミナが微笑む。

「みんなの力を引き出して、一緒に答えを見つける人なんだって」

 トーマスが頷く。

「ミナさんがいてくれたから、僕たちも自分の知識を活かせました」

 エルネストも同意する。

「一人一人は未熟でも、みんなで力を合わせれば大きなことができる」

 魔法通信の時間、ミナは他のチームに報告した。

「みんな、聞いて。今日、大切なことを学んだの」

 今度は、嘘偽りない報告だった。

 ミナは、真のリーダーシップとは何かを理解し始めたのだった――。

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