第18話王都と召集とおじさん
村の混乱が少し落ち着き始めた頃。長老の小屋に一通の使者が現れた。
「王都からの召集状だ」
黒い外套をまとった文官が、羊皮紙を差し出す。
「旅人殿。“レンアイ”なる新しき概念を広めていると聞いた。王都の議会にて、その内容を正式に説明してもらいたい」
場の空気が凍りついた。
王都――この世界の中心。各地の村や都市を束ねる権威の場。そこから直々に呼ばれるなど、俺には荷が重すぎる。
「俺が……王都に?」
「そうだ。これは命令ではない。だが、拒めば“怪しい思想”として排斥される恐れもあるだろう」
静まり返る小屋。リーナが不安げに袖をつかんだ。
「旅人さま、行くのですか?」
「……行かなきゃならないだろうな。逃げたら“レンアイ”ごと潰される」
セリアが剣の柄に手を置き、真剣に告げる。
「私も同行します。王都は規律が厳しい。あなた一人では危険です」
リーナは俯き、声を震わせた。
「……わたしも行きます。旅人さまを一人で行かせたら……怖いです」
二人の視線が交錯する。リーナは不安と嫉妬を、セリアは責任と使命感を抱えている。俺は二人を見ながら、胸の奥に重い決意を固めた。
「分かった。一緒に来てくれ。俺一人の力じゃ無理だ。お前たちが隣にいてくれるなら……俺は逃げない」
その瞬間、文官が冷ややかに告げる。
「ただし、王都は遊び半分の話を許さぬ。“レンアイ”が人を惑わせる虚言であれば、裁かれることになるだろう」
小屋の中に緊張が走る。
布教者を名乗ってきた俺に、今度は“裁かれるかもしれない覚悟”が突きつけられた。
夜。焚き火の前で、リーナが小さな声で言った。
「旅人さま……わたし、王都が怖い。でも、どんな場所でも隣にいたい」
セリアも短く言い切った。
「私は護衛として、必ずあなたを守る」
二人の言葉に、俺は深く頷いた。
「ありがとう。――王都で何が待つか分からないけど、“レンアイ”はここで止めない」
火の粉が夜空に散っていく。小さな村で芽吹いた言葉は、ついに国全体を揺るがす舞台へと踏み出そうとしていた。
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後書き
第18話では、王都からの正式な召集が届き、物語が“村の布教”から“国レベルの審問”へと移行するきっかけが描かれました。
リーナとセリアはそれぞれの理由で同行を決意し、おじさんは二人に支えられながら新たな試練に立ち向かう覚悟を固めます。
次回は、王都へ向かう旅の道中で、リーナとセリアの関係がさらに緊張感を増し、三人の間に新たな火種が生まれる場面を描きます。
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