第3話 行動あるのみ
動きを止め、首を傾げた令嬢からボソっと声がする。
「あら……これってよく考えたら……もしかして窃盗罪……?」
「そうとも言えますね。ですが薬草とバレなければ、雑草を集める変なご令嬢、というだけですから無罪ワンチャンです」
仕える
(ワンチャンとは……)
令嬢も令嬢だが、侍女も侍女である。公爵の脳裏に似た者同士、という言葉がよぎった。
「ここは寒すぎます。さあお嬢様、会場に戻りますよ」
「えっ? 戻る必要ある? 招待して下さった師匠の勲章授与は見終わったし、わたしは何の役にも立たないのだから、このまま帰っちゃいましょうよ」
「何をおっしゃってるんですか。付き添い役になって頂いた伯爵夫人に一言もなく帰るおつもりです? おそらく会場の長椅子から一歩も動かれていないと思いますよ」
「ああっそうだった! しかもお花摘みに行くと言って席を外したのをすっかり忘れていたわ!」
「やっぱり忘れてましたね? 急いで戻りますよ~」
「お花摘みっていうのも嘘じゃないわ。シャルム草を摘んでたってことで……まあ今は咲いていないんだけれど……ああん、ミラ待って!」
庭園に暗闇と静寂が訪れる。
こんなに楽しい思いをしたのはいつぶりだろう。その後の公爵の行動は早かった。
バルコニーから会場へと戻り、異母兄を探す。幸いファーストダンスは既に終わっているようで、ダンスを楽しむ貴族たちがホールに彩り豊かな色彩を加えている。
異母兄は他の貴族に捕まっているということもなく、壇上に二つ置かれた主催者用の椅子に座り、隣に座る自らの妃と談笑中のようだった。
「どうしたんだい? アレクサンドル」
「少々防壁になって頂きたく」
「ほう? 私を壁として使うとはねえ。まあ今日の主役のうちの一人だから、人が寄って来てしまうのは仕方のないことではある。もちろん構わないよ。愛しい弟の頼みだしね」
そう言って自分と同じ青い目が嬉しそうに細められた。
全くこういうところが異母兄には敵わない。恥ずかしいことを、と思うが、至って自然体なのだ。
「王太子妃殿下、談笑中のところどうぞお許し下さい」
公爵が優雅に礼を取ると、遠巻きにこちらを見ている貴族たちの間からほぅ、というため息が漏れる。
「よろしくてよ。わたくしはお二人がこうしていらっしゃるのを好ましく思いますわ」
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