第25話🐒「可哀想に」
先ほどまで柳楽だった猿の化け物は、恐怖で強張った知里佳の身体を肩に担ぎ、ひょいひょいと壁を登っていく。
「きゃぁっ!」
高いところは苦手なのかもしれない、落とされまいと知里佳は必死で猿の化け物にしがみつく。
「お前の声は可愛いな。もっと鳴いてくれよ」
若い雌の身体はなんて軽くて柔らかいのだろう。手のひらに尻の丸みが伝わってくる。瑞々しく熟れた果実のような感触。柔らかくも化け物の手を跳ね返す弾力がある。肌に触れると解った。猿の本能が情報を受け取ってくる。今日は、子を成すには適切な時ではない、と。
(それでも構うものか。俺はこの女が欲しい)
これからする行為のことを考えると、自然と口の中に甘い唾が湧いてきた。これは俺の雌だ――落としてはたまらないと身体の前で抱え直し、気分を高揚させながら最上階を目指す。
柳楽の部屋のドアには鍵がかかっている。開けるのももどかしいと思い、ベランダの方に回り込む。満月が二人を照らし出すが、その姿を誰も見てはいない。遠くに街の明かりが見えるが、それがどこか自分たちとは隔絶されたものに感じた。
ベランダに降り立ち、拳を固く握りしめ、窓を殴りつけるとガラスは砕け散った。音は想像していたよりもずっと小さく感じた。
勉強机がガラスまみれになってしまったが化け物の頭にはどうでも良かった。拳が少し切れて血が出たようだがそれすら構わなかった。
嗚呼、本能に飲まれることはなんと気持ちがいいのだろう。人間としての理性や感情など、この快楽の前では何も意味をなさない。
乱暴に知里佳をベッドに転がした。柳楽の体格に合わせて購入したキングサイズのベッドにはその身体はとても小さかった。
「……熱いな」
そう言いながら、着ていたTシャツを乱暴に脱ぐ。もっとも、化け物になった瞬間に背中が破れて体にまとわりつくただの布と化していたのだが。
知里佳はベッドの上で小刻みに震えている。小さく口が「うそ」とか「どうして」とかそんな言葉を繰り返している。
「俺が怖いか?」
「え?」
知里佳の顔に、ほんの少しだけ安堵の表情が浮かぶ。目の前の化け物は、意思疎通のできる存在だと、ほっとしているのだろう。
「可哀想に。急に連れ去られて、恐ろしいな。でも、安心するといい」
「……な、なんで、私、こんなところに? 柳楽さん、どうして」
「お前の髪に触れたいと思った。だから、ここに連れてきた。ゆっくりと、邪魔をされずに」
「か、髪なら触ってもいいですから、だから、その」
「今夜はお前は孕まない。代わりに、一晩中たっぷり犯しつくしてやる」
「……柳楽、さん?」
「だから、お前も楽しめよ。悪い娘、なんだろう?」
「――」
知里佳の返答を待たずして、獲猿は頭を掴み、無理やり唇をこじ開け口腔に舌を押し込んだ。
ふわふわとした髪の感触が手に気持ちいい。ずっとこうしたかった。きっとそれはあの引っ越しの日に知里佳を見つけた時から。
口腔に広がる、先程までとは比べものにならない雌の匂い、舌の味。ほのかに酒の味がするのが余計に化け物の空腹感を湧き立ててくる。
強引に舌を絡め、歯列をなぞり、唇を甘噛みする。ぐちゅぐちゅと唾液の混ざり合う音が暗い部屋に響く。
「んーっ……! んっ! や、やめて、は、離してください!」
知里佳は身体を強ばらせ抵抗しようとするが、その太い腕はびくともしない。その無意味な抵抗が余計に化け物の興奮を煽る。
化け物は人差し指をブラウスのボタンにかけ、一つ一つ、ぷちぷちと開いていく。
水色の下着に包まれた胸が空気に触れる。知里佳は羞恥心と恐怖で「やっ」と小さく声を上げた。
荒い呼吸に合わせて上下し動いている。胴の細さに似合わない豊かな胸だ。恥ずかしがる様子を見ると男もまだ知らないようだ。無垢な処女を化け物の雌に塗り替えていくのはとても楽しいだろうと、心がわくわくとする。
化け物の下腹の中心は熱く硬くなり、すぐにでもこの中で精を吐き出したいと懇願する。しかしまだだ、まだ楽しまなければ。
化け物はぐいっと知里佳の太ももを持ち上げ、硬くなった自身の一物を衣服越しに知里佳の下腹に擦り付ける。それが何を表すのか理解し、哀れな知里佳の顔は余計に恐怖に歪んだ。
「や、やだっ……やめて」
「やっと自分の立場を理解したようだな。可愛い愚かな俺の雌」
涙の跡をべろりと舐めると、にたりと笑いかける。
「俺のこと、好きなんだろう? 嬉しいよ」
「え」
「俺も、お前のことを愛してやる。人間とは違う、化物のやり方で、たっぷりな」
女の瞳から光がなくなった。
――嗚呼、こんなに愉しいのは、生まれてはじめてだ。
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