大嫌い、でも……


 日記には、さくらの苦悩が綴られていた。

 都会に馴染めず大学には友達がいないこと。

 サークルの飲み会でしこたま酒を飲まされて気がつけば先輩に犯されてしまったこと。

 裸の写真や動画を撮られて脅され、そのまま先輩のカノジョとなり結婚してしまったこと。

 専業主婦になれと言われて仕事を無理矢理辞めさせられたこと。

 でもゴミ男は「寄生虫を飼うつもりはない」と言ってバットで殴ってくること。

 次第に暴力はエスカレートしていきケータイやお金を全て取り上げられてどこにも逃げることができないこと。

 嫌だと言っているのに避妊せずに犯されて妊娠したこと。

 クソ男は自分の妻さくらだけでなくまだほんの小さな子どもにまで暴力を振るうこと。

 そして最後に、日記にはこうあった。


“梅ちゃんに会いたい 梅ちゃんとずっと一緒にいたかった 梅ちゃん大好きだよ 梅ちゃん……たすけて”


 私はさくらの傍らに座り、その顔を見下ろした。

 さくらは本当に酷い女だ。調子のいいことを言って私を喜ばせたくせに勝手にいなくなる。

 それでこうして私がわざわざやって来てあげたというのに、桜の花のように勝手に散ってしまっていた。

 この女はどこまで私を裏切れば気が済むのだろうか?


「……大嫌い、あんたなんて大嫌いよ、さくら。……でも──」


 カサカサに乾いた彼女の冷たい唇にキスをする。


「愛してるよ。……助けてあげられなくて本当にごめんね、」


 目から溢れる涙が、さくらの顔にぽつぽつと落ちる。まるで彼女も泣いているように見えた。





 クズ男の死体と眠る赤ちゃんを車へ乗せる。

 エンジンをかける前に警察へ電話をして匿名でアパートの住所と、そしてそこに女の遺体があることを報告した。

 これでさくらは無事家に帰れることだろう。

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