看護師天使-神器武装

ステージ音声はすべてカットされ、

外からは光と華やかな演出しか見えていない。


「えへへ、吐いちゃった」

紗耶香が口元を拭うと、

そこから虹色の滝のようなエフェクトが流れ落ちた。


「私もずいぶんましになったけど、まだだめ」

恵がふらつくのをガウがそれとなく支える。


「それは身体の構造が創り直されたことに

慣れていないからだろう。


「君たち二人が特にね」

 ガウは優しく話しかけたが、謝罪はしなかった。


「天使も階級が上がると、

 本当に人間とはかけ離れてくる。


人間であった部分が物理的に

変質してくるといったらいいのか」


恵と紗耶香はうつむき、互いの顔をちらりと見た。


「さあ、SSR天使達は衣装も特別だ」

ガウが指を鳴らした瞬間、

五人の光輪が一斉に輝きを増し、


背中の翼もそれぞれの

個性に合わせて形を変えていく。


光の粒子が舞い、

ピンクのナース服も戦闘用に瞬時に変化する。


「紗耶香、君の光輪は素敵だ。

陽炎のように揺らめく翼も、

他の天使たちとは一線を画している。

軽やかで、しかし芯がある

──まさに君の魂そのものだ」


紗耶香は照れたように笑い、

翼をぱたぱたと揺らしてみせた。


「志津香、君は最初から四枚翼か。

 これは極めて珍しい。


通常、昇格を経て増えるものだが

……君の魂の構造が特異なのだろう」


志津香は無言でうなずき、静かに翼をたたんだ。


「夏樹、君の翼はずいぶん肉厚だな。

まるでキューピットのようだ。


夏樹は不満げに唇を尖らせ、

返事の代わりに翼をばさっと広げて見せた。


「恵が一番シンプルだな。

白銀の一対、形も整っている。

目立つことは考えなかったか?」


「目を付けられるのが嫌なんです」

恵はさらりと答え、鞭を指先でくるりと回した。


「佐和子──君は、

 上位天使であることを少し隠してくれ。

 六枚翼は逆に目立ちすぎる。

 地上では、あまりに神々しすぎるのも問題になる」


「地上に出るときは四枚にしております」

佐和子はいつもガウが六枚翼のまま

降臨したことを突っ込みたかったが、


代わりに翼を少しだけたたんだ。

その変化のすべてに、

観客は歓声を上げていたが──


ガウが正面を向き直った瞬間、

ざわめきは次第に静寂へと変わっていく。


ガウの足元に光の紋章が浮かび、

天界の空に低く鐘の音が響いた。


「天使達よ──」


その声は静かでありながら、

空間の隅々まで届くような力を帯びていた。


「この世界には、救いを待つ魂がある。

そして、邪悪な悪魔を駆逐せねばならぬ


君たちはそのすべてに応えるために選ばれた。

それが“看護師天使”という名に込められた意味だ」



背後の空に、五本の光の柱が再び立ち上がる。

それは彼女たちの存在を示す旗印のように、

天を貫いていた。


一拍置いて、ガウは観客に右手を高く掲げた。

「さあ、行け。天より遣わされた癒しの刃たちよ。

その翼で、世界に光を──!」


ステージが光に包まれ、

五人の天使たちの姿がゆっくりと浮かび上がる。


観客席からは、

割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。

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