幕間劇は続く

「今回のミッションが終われば、

ご褒美にみんなの願いをかなえてもらえるの。

だから、まずはひとつの方向にむいて欲しい」


佐和子は言い争いを始めそうな二人を牽制した。


「地上に戻ることも出来ますか?」

志津香が問いかけてくる。


「どうして?」

「地上でやり残したことがあるので」

 志津香は声のトーンを落とした。


佐和子は思わず目を見開いた。


地上での思い出を語るのはいい。

だが、“やり残したことがある”という発言は

──本来、あってはならない。


天使として召喚される際、

執着は浄化されているはずなのだ。


志津香の表情を確かめようとしたそのとき、

佐和子の視界にふと奇妙なものが映った。


──肩に、うさぎ?


「あら、うさぎ…」

「えっ?」


今度は志津香が目を見開いた。

「後ろから見ると、あなたの結い上げた髪型が、

 うさぎちゃんに見えたから」


佐和子は慌てて笑い、ごまかすように言った。


志津香は一瞬きょとんとしたが、すぐに小さく笑った。

その笑顔は、どこか年齢よりも幼く見えた。


紗耶香が恋愛の話をやめたかと思ったら

今度は年齢の話を持ち出す。


「えっと、志津香ちゃんが14で私が16、

恵さんが18であんたが20、

ってことは佐和子さんが22か」

紗耶香が夏樹に話しかけながら、


指を折って数えている。

「…24です」佐和子が一呼吸後に訂正する。


「「「「あっ」」」」

「最後ジャンプするパターンか」

恵が口元を押さえて笑う。


「何よ、ジャンプって、いい加減失礼でしょ!」


「こほんっ」演説を終え、

五人を呼びに来たガウが小さく咳ばらいをする。


「説明は受けたと思うが、我々の目標は、

この5名で5つのミッションをクリアすることだ。


もちろんゲームである以上、敵もいる。

他のチームとの競合も想定されている」


「クリア順位を競うってこと?」

紗耶香が首をかしげる。


「この場合はクリア回数だ。

先行して三つクリアできれば、


それで勝利だ。

競合チームはドリップ、

男2名、女1名の3人パーティだ」


「何か質問は?」


紗耶香がすっと手を挙げようとすると

脇から夏樹が割り込んでくる。


「要するにそのドリップだかグリップだかより先に

ミッション3つクリアしたら勝ちってことでしょ」


夏樹は胸を張った。

「ちゃっちゃっちゃーと」


「ねぇ、佐和子さん」

夏樹が振り返る。


「最終的には立ちはだかってくると思うけど」

佐和子は静かに答えた。


「よく会ったこともないのに、そんなこと言えるわね」

邪魔された紗耶香がややむっと突っ込む。


「頭の構造が違ってるんじゃない?」

恵がきゃはっと笑った。


「はいそこー」

夏樹が紗耶香と恵を指差す。


「リーダー批判は謹んでください」

「「はっ!?」」

紗耶香と恵の声が、見事にハモった。


すかさず夏樹はガウに向き直る。

「はい、この中で誰がリーダーですか?」


「特に決めていないが」

「私、立候補していいですか?」


「みんなが認めればいいんじゃないかな」

 ガウは額に汗を浮かべて言った。


「はいはいはい、私がリーダーでいいですか! 」


 結局、このとき誰も返事をしなかった。 

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