第六章・第三節 老兵、王の間で撃ち合う(ロンドン戦)
――ロンドン、王立アルバート・ホール。
普段はクラシックの舞台として知られる由緒正しき会場が、
この日ばかりは「Royal Charity Esports Match」の旗のもと、
世界初の“王室主催FPSチャリティ戦”の戦場と化していた。
金と紺の幕、赤いカーペット。
天井からは英国旗と「JZ-65」のバナーが並んで吊るされている。
美羽が口をあんぐりと開けた。
「じいじの名前、国旗と並んでるよ!?」
「うむ……責任重大じゃの。盆栽の手入れより緊張するわい」
「比較対象おかしい!」翔が即ツッコミ。
控室のモニターには、各国の代表プレイヤーが映る。
TACTがデータをチェックしながら言った。
「今回のマップは《KING’S HALL》。玉座を中心に攻防戦です」
「敵は全員、英国連盟の現役王者。油断できませんね」
「ほう、“王者”か。ならばわしは“老者”として挑むとしよう」
「語感はいいけど、意味は重いよ、じいじ!」
そして――
ファンファーレが鳴り響く。
観客席には紳士淑女、そして王族の姿も。
アナウンサーが高らかに告げた。
「Ladies and gentlemen, please welcome... Team Samurai Grandpa!」
喝采。
重蔵は堂々と舞台へ歩き出す。
背後にはTACT、美羽、翔――《じいじ’s Rage》の仲間たちが続いた。
対するは
金色のスーツに身を包んだリーダー――サー・ウィリアム・アシュクロフトが笑う。
「Welcome to the royal ground, JZ-65. Shall we begin the gentleman’s war?」
「うむ。紳士の戦とは、まず茶を飲んでからじゃな?」
「……Ha-ha! Excellent spirit!」
実況席のBBCアナウンサーが盛り上げる。
「The legendary Samurai Grandpa enters the royal arena!」
「He’s got a bonsai on his desk again!」
(また盆栽を持ち込んでいる!)
重蔵は椅子に座り、マウスを握った。
その目には、老いではなく、静かな戦士の光が宿っていた。
――ゲーム開始。
マップ《KING’S HALL》が映し出される。
中世の王座を模した空間、天井からは光が差し込み、
荘厳なBGMが響きわたる。
「TACT、左翼へ。翔、煙幕を張れ!」
「了解っ!」
「美羽、ドローンで敵位置を――」
「もう見つけた! 王冠の裏に三人!」
重蔵は即座に射線をずらし、スナイパーライフルを構える。
一呼吸。
――パン。
敵リーダーのアバターが一瞬で沈む。
観客、総立ち。
アナウンサーが叫ぶ。
「JZ-65 just headshotted Sir William himself!!」
「おおぉっ!? 王様撃っちゃった!?」翔が叫ぶ。
「違う違う! 仮想の! ゲーム内の!」TACTが慌てる。
「……ふむ、王の首を取ってしもうたか。詫びとして後で茶を献上せねばの」
「じいじ、それ外交問題!」
続く敵の猛反撃。
TACTが前衛で防ぎ、美羽が回復ドローンを展開。
翔がグレネードで敵を分断。
重蔵が再び中央玉座を奪取し、
勝負は一瞬にして決まった。
――WINNER:JZ’s Rage
歓声が爆発する。
王室席の貴婦人がスタンディングオベーションを送り、
BBCの実況が涙ぐみながら叫んだ。
「He’s not fighting to win. He’s fighting to connect people!」
ステージに歩み寄ったサー・ウィリアムが、
微笑みながら老兵の手を取った。
「Splendid, my friend. The Queen herself is watching from Windsor.」
「おお、陛下も……。ならば、この老骨、全力で遊んだ甲斐があったわい」
笑いと拍手の渦の中、
スクリーンには《Charity Donation: £1,200,000 raised》の文字。
老兵の戦いが、世界をまた笑顔にした。
「じいじ、かっこよかった!」
「うむ、戦場では年齢制限はないのじゃ」
「でも撃ったの、王様だったよね!?」
「……ゲームじゃ、ゲーム!」TACTが頭を抱えた。
――霧の都ロンドン。
王の間に響いた銃声は、
確かにひとつの“時代の幕開け”を告げていた。
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