第12話勇者候補たちの影

――場面は変わる。


血と土にまみれた村から遠く離れ、煌びやかな光に満ちる王城。

高い石壁に囲まれた広大な訓練場では、朝日を反射して剣が光を放ち、魔法の軌跡が空を焦がしていた。



「はっ!」

鋭い掛け声とともに、剣が風を切る。

訓練場に集められた俺たち――クラスの仲間たちは、勇者候補として日々の鍛錬を課せられていた。


「佐伯くん、すごい! 一撃で木人を真っ二つに!」

「やっぱり剣聖スキルだよな……誰も勝てっこない」


歓声が飛び交い、王国の兵士たちも目を見張る。

その中心に立つのは、クラスのリーダー格・佐伯蓮司だった。


「ふっ……まだまだだ」

額の汗を拭い、剣を肩に担ぐ姿はまさに選ばれし勇者。

兵士たちの視線は尊敬と期待に満ちていた。



一方で。

魔法訓練場では、姫野美咲が杖を構えていた。

炎が渦を巻き、轟音とともに巨大な火球が放たれる。


「うわっ、城壁まで届いたぞ!」

「火焔魔導士……女神の加護をこれほどまでに……」


兵士たちのざわめきを背に、美咲は肩で息をしながら杖を下ろした。

その横顔は、どこか晴れない影を抱えている。


(悠斗くん……)


胸の奥で名を呼ぶ。

水晶に“無能”と映され、追放された彼の姿。

あの日の出来事は、まだ瞼に焼き付いていた。



「おい、みんな! 休憩だ」

佐伯蓮司の声が響く。

仲間たちは笑顔で談笑しながら水を飲み、互いの健闘を讃え合った。


「俺たち、すっかり勇者パーティーって感じだな」

「正直、転移してきた時は怖かったけど……なんとかなる気がしてきた!」


明るい空気の中、美咲だけは黙っていた。


(……本当に、なんとかなるのかな)



彼女の心に残っているのは、悠斗の背中。

笑い声にかき消された「……悠斗くんは、きっと……」という自分の呟き。

あの時、誰も聞いていなかった。

それが今も悔しくて仕方なかった。


「……姫野、疲れてるのか?」

隣に座った蓮司が声をかける。


「え……あ、ううん。大丈夫」


「そうか。……あいつのことなら、気にするな」

蓮司は剣を膝に置き、淡々と続けた。


「高宮は無能だった。ここに残ってても、俺たちの足を引っ張るだけだったさ」


言葉は冷たく、確信に満ちていた。

だが、美咲の胸に残るざわめきは消えなかった。


(本当に……そうなの?)



その夜。

寮の窓辺に座り、月を見上げる美咲の耳に、兵士たちの会話が届いた。


「聞いたか? また辺境の村が一つ、消息を絶ったらしい」

「魔物の群れか? いや……報告じゃ“村ごと服従したように静かに消えた”って……」


「服従……?」


美咲の心臓が跳ねる。

それが誰の仕業かなんて、証拠はどこにもない。

だが、なぜか悠斗の顔が脳裏に浮かんで離れなかった。



「悠斗くん……あなたは、今どこにいるの……」


呟きは夜空に溶けていく。

城の中で勇者候補と持ち上げられるクラスメイトたち。

その外で、追放された彼が何をしているのか。


答えは誰にもわからない。

ただ、美咲の胸にだけは、消えない違和感と予感が宿っていた。


――やがて、それが再び二人の運命を交差させることになる。


_________________________________________


【後書き】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

第13話では舞台を王城に移し、クラスメイト視点で勇者候補としての訓練と、追放された悠斗への思いを描きました。

特に姫野美咲の胸に残る「違和感」が、後の物語への布石となります。


次回は再び悠斗視点に戻り、村を包囲する本隊との大規模戦闘が始まります。

異常なスキルが数百を超える軍勢にどう通じるのか――。

ぜひお楽しみに!

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