バロック!!

羊蔵

一章 穴あき・インザ・ウルタール

第1話 OP


 十体の煌びやかな獣が神々のようにそびえ立っている。無限に続く聖堂の街並み。空は真っ白に閉ざされている。戦いで破壊された地面には、金銀の装具や宝石の欠片が散らばっている。

 全て美しい世界で、僕ら人間だけが血にまみれ、這いつくばっていた。不思議な力で僕らを守ってくれた三人の女の子達は、今水晶の柱に取り込まれつつある。獣相手に、あんなにも力を振るった〈まんのう町〉も瓦礫とともに水晶に食われつつある。優しく美しい〈ロッカ〉さんも力尽きていた。

 僕らを見下ろす獣たちが、その力のほんの一部を振るった結果だ。

 僕は手の中の武器を見つめる。それは形としては短刀であり、素材としては琥珀に似た美しい石でできていた。

 〈バロック〉。〈聖堂街の獣〉を倒せる唯一のもの。

「無理だ……」

 水晶と瓦礫の中からまんのう町が言った。

「バロックに……意志を籠めるんだよ」

 そう言ったのは、倒れ伏したままのロッカさんだ。

「……あなたの中の、絶対にゆずれない――」

「何でここに猫がいないんだ?」

 僕はガクガク怯えつつもぶち切れていたので、ロッカさんの言葉を遮ってしまう。そのことを申し訳なく思いつつ、やっぱりガクガク震えつつ、けっきょくどうすれば良いんだよ? とも同時に考えつつ、でもやはりどうしようもなく僕は怒っていて、だから僕がバロックに籠めた意志は一つだった。

「猫を返せ、ウルタールの猫だぞ!」

 そうして僕は刃を――バロックを振り下ろしたのだった。


 これは僕が振るうバロックの物語だ。

 僕の名はウルタール。

 ウルタールとは土地の名前である。

 またウルタールとは猫の住処である。

 だから、これは猫のための物語である。僕は僕の猫を取り戻したい。

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