たとえば人魚姫のように

野宮麻永

第1話 An excerpt from......

走った。

走るしかなかった。


持っているのが邪魔で傘を放り投げたことを後悔した。

身を守る武器となり得た物を、簡単に手放してしまったことを悔やんだ。


何もかも間違えてばかり。


息が苦しい。

苦しいよ。


汗で首筋に髪の毛が張り付く。


喉の奥がヒリヒリする。


乾いた空気を吸って、走りながら咳き込んだ。


速く。

お願いだから、もっと速く、わたしの足、動いてよ。

自分のものなのに、速く走ってるつもりなのに、思ってるほど前へ進まない。


ひらひらとしたスカートも、足にまとわりついて邪魔をする。


これ以上泣いたらだめ。

涙が視界を遮ってしまう。


立ち止まることは出来ない。


逃げないと。

逃げ続けないと。


もし捕まったら……


考えない。

考えたらだめ。



どうして、こんなことに――

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