第7話 エム
冒険者ギルドを後にした俺は、今度は闇ギルドへと来た。
闇ギルドの情報は確かだし、なにより法の外にいる奴らだから、何しても問題は無い……
「いらっしゃい……」
雰囲気を出す為だろうか?
昼間から薄暗く、日がうっすらしか照らさない室内。
明らかに冒険者ギルドとは違う。
併設された酒場にいるギルドメンバーがちらりと俺を見るがすぐに目を逸らした。
そのまま、カウンターに行くと……
「いらっしゃい、勇者……此処は闇ギルドです。表の常識は全て通用しない……それが分かっているのなら話を聞きましょう……」
陰気な受付嬢がヤル気の無い気だるさで話しかけてきた。
「闇ギルドで最強の女を教えて欲しい……俺が掴んだ情報では『拷問メイド』と『酸使い』と聞いたが、他に誰かいるか?」
「銀貨1枚……ここではすべての情報にお金が掛かります」
そう言うと手を差し出してきた。
「これで良いか?」
俺は銀貨1枚をそのまま受付嬢に差し出した。
「そうだね、その二人はこのギルドの看板と言える存在、間違いなく強いですね」
「そうか」
噂通りだ。
それならこの二人のどちらか、から決めれば良い。
「それで、その二人が戦ったらどちらが勝つんだ! 『拷問メイド』と『酸使い』……」
「それに答える前に教えて欲しい……それを聞いてどうするのか?」
「勇者パーティ希望の灯で今、別動隊を作ろうとしている。そこで優秀な『斥候』が欲しい! そこで目をつけたのは、その二人だ……」
「闇ギルドは犯罪者が所属するギルド……その中でも悪名高い二人を仲間にしたい! そう言う事ですか? なんの冗談ですか……」
さっき迄、の冷静さが無くなり驚きの余り普通の女の子の話し方になっている。
「冗談じゃない。勇者パーティに入れば過去の罪は帳消しだ! なかなか悪い話じゃないだろう?」
「そう言う事なら、今すぐ二人に連絡をします! 気に入った方と……」
「お姉さん……勇者のお兄さんに嘘つくの。いけないと思うんだけど?」
!?
なんだ、子供か……
「ねぇキミ、嘘ってどう言う事?」
ガキ相手だ。威圧しないようにつとめて話した。
「その二人が最強なんて嘘だよね! お姉さん!? 嘘つくのってイケナイとエム思うんだけどな?」
「私は嘘なんて……」
ガキ相手に何故か受付嬢が汗を流している。
「ねぇねぇお兄さん、あたし、ここ暫くずうっとお茶引いてたの! それ私にしない?」
緑色の髪を後ろで黄色いリボンで縛っていて、スレンダーななかなかの美少女だ。
だが、俺はロリは好きじゃない。
外見的にはグルダに丁度良い……だが、こんなガキが実力があるとは思えない。
「いや、俺が求めているのは斥候役の実力者だガキには……」
「あっ、お兄さん、そんな事いうんだ!? 私本当に強いのに……そうだ! お兄さん、1時間位、ここで時間潰して待っていてよ!」
「何故だっ!」
「いいから、いいから……エムがいい物持ってきてあげるからさぁ……あと、エールとホロホロ鳥も奢っちゃうから……お願い」
なんだか、このガキ妙な迫力があるし、まぁ飯を奢ってくれるなら1時間位よいか。
「1時間だけだぞ」
エムと名乗るガキはニコニコしながら手を振り去っていった。
なんなんだ、彼奴。
◆◆◆
併設された酒場で、ガキが奢ってくれたエールを飲みながら、ホロホロ鳥を食いながら時間を潰している。
あのあと、何故か受付嬢は銀貨1枚を返して寄越した。
そして、俺がエムというガキについて聞くと……教えてくれなかった。
此処にいる闇ギルドの奴も......
『当人から聞いてくれ!』
『エムについては語らない……それが暗黙のルールなんだ』
そう言い答えてくれず、俺がエムについて聞いていると皆が酒場から去っていった。
何か、あのガキ秘密があるのか?
エールを流し込みながらホロホロ鳥を口に運ぶ。
そろそろ時間か……
「お兄さん!」
エムが帰ってきた。
赤いリボンがついた大きな箱を両手に抱えながら。
「約束の時間だ……お前は一体なにがしたいんだ」
「えへへっ、プレゼント! これでエムが強いのが分かるよ!」
そう言ってエムは、箱をテーブルの上に置き上蓋をとった。
うっ、これは……
中から現れたのはケーキのようにクリームでデコレーションされた二つの生首だった。
「これはまさか……」
「えへへへっ、『拷問メイド』と『酸使い』これでエムが最強なのが分かったでしょう? 良かったねお兄さん!」
侮っていた。
強いというより怖い。
斥候はこのガキで決まりだ。
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