第17話 新たな力
結局あの後、家に帰ってきた俺達はなんだかクエストに行く気にならず、ベルの進化した力のお披露目は次の日に持ち越しとなった。
コーヒーの香りと、電子端末から立ち上る淡い魔力の気配。
俺はカップを片手にARCANAのアプリを開く。
二日ぶりのクエスト。
ここ最近はアイテムの売却や新しい家の話も動き出したが、やはり俺達の原点はここにある。
「ねぇレン、今日はどんなクエスト?新しい敵とか行っちゃう?」
「まずはベルの新魔法の慣らしからだからな。リピートクエストから始めよう。」
スクリーンには淡く光るクエスト名がいくつも並ぶ。
【Eランク討伐クエスト】
・フォレストウルフの群れの殲滅:森林(再)
・ゴブリンナイト1体の殲滅:廃村(再)
・アイスリザード1体の殲滅:雪山(再)
・ダークフェアリー1体の殲滅:森林(再)
・ツインスネーク1体の殲滅:沼地(再)
・ロックバード1体の殲滅:高山(再)
・ディプソル1体の殲滅:遺跡跡地(再)
【Dランク探索クエスト】
・廃教会での遺品回収:廃教会(再)
・スケルトンソルジャー1体の殲滅:共同墓地(再)
・アーミーアントの群れの殲滅:森林深地(再)
・オーク1体の殲滅:鬼族の里付近(再)
これが俺達が約1ヶ月でこなしてきたクエストの数々。
届いたEランクのクエストは全てクリアし、レベル20近くなってからは相性が良さそうなエネミーとのDランククエストを堅実にこなしてきた。
「久々...って言っても2日ぶりだが、肩慣らしはコイツでいいんじゃないか?」
俺の言葉にベルはにやりと笑う。
「いいわね。今のアタシがどこまで強くなったのか、あの変態に見せつけてやるわ!」
「よし、そうと決まればさっそく準備して向かうか。」
***
光が収まった時、そこはまたあの“石造りの廃村”だった。
ひび割れた井戸、崩れた家屋、風に舞う灰。
ただ、以前と違っていたのは──俺たち自身が纏う確かな自信だ。
「あれから何回かここに来たけど、やっぱり懐かしいわね。」
ベルが指先で壁の焦げ跡をなぞる。
「確かこの先の広場だったな。」
俺は剣を抜き、感覚を研ぎ澄ます。
アリーナの空気は現実よりわずかに重く感じる。
だが今の俺の身体は、それすらも馴染んでいた。
「行くぞ、ベル。」
「了解っ!」
広場へ踏み込むと、耳にあの金属音が響いた。
ガシャリ──。
廃墟の影から、赤黒い鎧をまとった巨体が現れる。
修理された盾。
腰には新しい剣。
そして何故だか光り輝く立派な兜。
その輝きはまるで俺たちとの再戦を待っていたかのように。
「久しぶりだな、ゴブリンナイト。」
「ふふっ、相変わらず頭だけ立派な兜……やっぱ笑えるわ。」
「気持ちは大いに分かる...が、油断すんなよ。」
一応そう告げたが言動とは裏腹に、ベルの目には驕りや恐怖ではなく、炎のような闘志が灯っていた。
ゴブリンナイトが咆哮する。
盾を掲げ、突進。
風圧が砂塵を巻き上げ、地面が震えた。
「ベル、先制頼む!」
「まっかせて!」
杖が一閃。空気が高温に歪む。
「──
瞬間、火線が走る。
巨大な真紅の光が一直線に敵へと突き進み、盾を貫通した。
金属音とともに炎が爆ぜ、爆風が砂を巻き上げる。
「どうよ!」
煙の中から、焼け焦げた鎧を纏ったまま奴が現れた。
だが──膝から崩れ落ちる。
「威力が桁違いだ……。」
炎槍が盾を溶かし、貫通していた、
以前なら弾かれていた攻撃が、今はゴブリンナイトの体を穿っている。
(やっぱり、魔力値は単なる燃費じゃなく“威力そのもの”に影響するみたいだな。)
ARCANAのステータスにはいくつもの謎があったがここで確信した。
魔力の数値が高ければ高いほど魔法自体の威力も上がる。
つまりステータスの魔力とは、魔法攻撃のエンジンとガソリンの両軸を担っている値ってことだ。
ゲームの中でならばステータスという表記は大いに理解できる。
ただ俺はずっと疑問だったんだ。
例えば、防御値が1000あるとしよう。その場合雑魚に拳で殴られる程度なら無傷だ。
だが、例え相手の攻撃値が1だったとしてもなんらかの方法で喉を掻き切られたり、頭を潰されたら即死。
ステータスで上回ってたら絶対防御なんてのは本当のゲームの中だけの話で、ARCANAのステータス数値は“耐性の目安”でしかない。
(まあ逆にこっちが格上に勝つ、なんてのもあり得るわけだけどな。)
魔力ってのは他の物理ステータスとは違い現実世界での物差しでは計りづらい値だ。
だからこそ今回で確定したが、魔力値は数値が高ければ高いほど威力、継戦能力に直結すると考えてよさそうだな。
【クエストクリア】
「さっきの見てた?ついにあの変態も一撃で倒せるようになったわ!」
「ああ、正直俺も驚いてるよ。まさかあそこまで強くなってるなんてな。」
これは嘘偽らざる本音だ。
ある程度予想はしていたが、実際に目の前で見ると圧巻の威力だった。
「なら、他のクエストでも試してみよう。まだ使ってない新魔法と、俺も試してみたいこともあるしな。」
「賛成!この調子でじゃんじゃん狩っていきましょ!」
***
「
突然自分の影が勝手に動き出し、己を縛り上げたことに驚愕するオーク。
「ブオォォオオオッ!!」
自慢の怪力で引き千切ろうと雄叫びを上げるが、魔力値322は伊達じゃない。
ミシミシと軋んではいるものの、Dランクのエネミーを数秒間も動きを封じ込めることができればLv1で使える闇魔法にしては上出来すぎるだろう。
バチンッ!という音と共に自由を取り戻したオークは、怒り狂った目つきでベルへと突撃する。
「近寄らないでよね!
ベルの魔法が放たれた瞬間、地面が沈むように波打ち、空気すらも震えたような錯覚。
ベルへと突進していたオークは急に地面へとめり込むように転げ、四つん這いになった。
抵抗するように立ちあがろうとするも、四肢が震えるだけで動ける気配はない。
「相手の動きを阻害するのがメインの魔法、か。それにしてもえぐいなこれは。」
進化前であれば俺が前線でオークを足止めし隙を見てベルが援護射撃。
そしてダメージが蓄積したところでトドメを刺すという、今まではいわば俺達の黄金パターンで倒してきたオークだったが...闇魔法Lv3が追加されたことにより攻撃のバリエーションが格段に増えより戦いやすくなった。
「でしょ!これでもっと強い敵とも戦えるわね!」
そうベルは笑うが本当にその通りだ。
今までは見送っていた他のDランククエストや、もう少しレベルを上げればCランククエストにも手が届くかもしれない。
(装備もそろそろ新しくしたいし、またしばらくはクエストの毎日だな。)
幸いGW真っ只中のためまだ休みは6日もある。
最高だ...世の社会人はこんな気持ちで連休を過ごしていたのか。
「そろそろ魔法が解ける!レン、アタシがトドメを刺しちゃおうか?」
杖先に炎の魔力を集中させながらベルが問いかけてきたが、そろそろベルの力試しも終わりでいいだろう。
「いや、あとは俺に任せてベルはそのまま後ろで見ていてくれ。」
俺にも試したいことがあるしな。
「ブオォォ!!グォォオオ!!」
魔法が解けたオークは目の前の俺へ右手に持った大鉈を上段から振り下ろす。
俺は真正面からその一撃を受け止めると、ガキンッ!という金属音が派手に鳴り響いた。
「...やっぱり、今の俺じゃお前との力比べで精一杯なんだよな。」
俺もステータスが上がり前と比べてもかなり強くなった自負はある。
だが目の前のオークを相手に力比べをすることはできるようになったが、ベルのように圧倒できるかと言われればそれはNoだ。
このままじゃベルに置いてかれる一方。だが進化して新しい力を得たベルと同様に、俺もLv20になった時新たなアビリティを覚えていた。
身体の中の血流が燃え、内なる魔力が熱へと変わる──
「──いくぞ、“闘気解放”。」
── ──
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