第12話 ぴったりくっつく!

「え、待って紅葉、春陽、これどういう状況?」


 夜間夏目は困惑していた。サウナを出るなり、白い羽根の鳥獣人と手を取る春陽。と、知り合いそうな様子の紅葉。


 そして、その白い鳥獣人を知っていそうな春陽。


「えーと…とりあえず俺らは汗落として水風呂入っていい?話はその後で」


「そうですね。その方がいいかと思います。ごゆっくり」


 パッ。


 その獣人が、春陽の手を離す。


「じゃあ、自分はこれで」


「まー待てよ囲炉裏、見たところバイト上がりなんだろ?一緒に風呂入んね?」


「………紅葉がそう言うなら、自分もそうさせてもらう。このヒトたちは?」


 汗を拭き、軽く水を浴びる夏目が、後ろ向きのまま反応する。


「俺は夕野紅葉の筋肉ライバル。八色大学理学部一年、夜間夏目だ。で、さっきあなたが正面から抱きとめたソイツが、俺の同種サー友達の、春陽。」


「あ、どうも……黒田春陽です。今日はどうも、お世話になりました…」


 間違いない。下着とタオル買ったときの、のスタッフさんだ。その時は頭部しか見えなかったが、今全身をみるに…ハクトウワシの獣人のようだ。身体の毛が、紅葉ほどじゃないけど黒い。


「ああ〜、やっぱりさっき売店でオープン買ってたヒトですよね。どーも。同じく八大一年の、雪野囲炉裏ゆきのいろりです。ヨロシク」


 あ!!!ああああ!!!!!ちょっ、サラッとパンツのことバラされたんですけどぉ!!


「紅葉からあんたのことは聞いてる。自分、紅葉と同じ鳥類サークルなんで。その時の印象で考えるに大人しいヒトかと思ってたら、意外とスケベ…」


「わーっ!えっと!!あっちに行きましょう囲炉裏さん!?ね!2人は先に水風呂入るでしょ?」


「お?おん。わかった。いってら」


「いってらっしゃーい」


 スケベのスが聞こえたあたりで嫌な予感がして、勢いよく囲炉裏の口を塞いだ春陽は彼を誘導し、離れたジェットバス風呂まで誘導する。


 困惑する様子の夏目と、ニコニコヒラヒラ手を振る紅葉を背中に感じながら、外に移動。広い露天風呂の一角に、囲炉裏を肩まで沈め、春陽もすぐ肩までつかる。


「ち………ちょっと!困っ……困ります!プライバシー!僕の!!」


「え?あーー…そうっすね。ごめんなさい」


 囲炉裏は頭をポリポリと掻きながらちょこん、と頭を下げる。声のトーン自体は、本当に申し訳なく思ってはいそうだが…


「え、アレっすよね。紅葉の彼氏さん?」


「ブーーーーーーーっ」


 水分を口に含んでいたら、間違いなく露天風呂中に降り注いでいたであろう勢いで吹き出す春陽。


「えっ………なんで!?」


「いやーだってさ。貴方のエピソード、めっちゃ出てきますもん。紅葉からさ。オレ、恋人の話ししてんだ〜って、勝手に思ってました。まさか男だったとは驚きですね。まぁそういう事もあるか」


「ちょっ…違います!僕たちはそういうんじゃなくて…ああーもうとにかく困るんで!とりあえず二人が合流したらもう黙っといてください!!」


「よう。なんか…揉み合ってるけど入ってもいいやつかな?これは」


「俺たちも入るよ」


 紅葉が、春陽の隣に。さらにその隣に、夏目が入る。なんとなく、そんな予感がしていたが、紅葉が、もう体の側面全部でひっついている。そして、過去に類を見ないレベルのドヤ顔で、撫で回すような言葉遣いで、台詞臭〜く語る。


「見てくれ囲炉裏、夏目。これこそ一致面積史上最大。真・一体化……遂に。実現しました」


「へぇ。これが噂にきく一体化…スゴイっすね。ホントに境界がわかんない」


 スーッと、冬野囲炉裏が三人の正面側に移動し、上から下まで観察する。


「この距離感で彼氏さんじゃ無いとか、マジ?」


「いやっ…それは!」


「いやいや囲炉裏。俺たちはそんなんじゃないよ。ねー」


「え?うん。そうだよ?」


 至福。


 体の側面が、腰も、腹も、肩も、もたれかかる頭も全て、ひっついている。手をつなげていないのは、そこが色が違うからという芸術点重視の結果なんだろうが、助かった!手まで繋いでいたら、きっと命はなかった。いや、なんなら、もう危ないかもしれない。


 だがしかし!今日までに僕は成長した。もはや、くっついている面積が大きいからといって、問題などあるはずがない。どこからでもかかってこいやドッドッドッドッドッドッああダメそう!!


(…無理そう?)


 夏目から、無言のレスポンス。


 コクコクコクっ、と高速でうなずく。


「さて。ここは俺も、新たに習得したギャグをお見せしよう」


「え、夏目が?」


 いそいそと正面にまわりこんだ夏目が立ちあがり、股間全晒状態かつ、後ろの囲炉裏方向にはケツ全晒状態で二人の前に仁王立ちする。


「ふぅ。では失礼して」


「え?」


「おりゃあああああ!!!」


 ぼふっ(毛をかき分ける音)。ペチョッ(着水する音)。


「…?」


「…?」


「…?」


 他三人が、この上なく困惑する。


 夏目が、春陽と紅葉の間に、チョップを入れていた。


「これこそが、このギャグを終焉に導く"オチ"。その名も、"一刀両断"」


「まって、普通に意味が分からない。どういうこと?」


「え…あ……」


 ひゅおおおおお。


 見計らったかのように風が吹き、四人の間を駆け抜ける。


「こほん。おい春陽」


「…なんでしょう」


「冷静になれたか?」


「え。あ…うん。ほんとだっ喋れてる」


 すでに、心拍数は閾値ギリギリに見える。これが失敗したというのなら、なんとか離脱させなくては…


「おい。春陽」


「…重ねて何でしょう」


「トイレ、行きたくないか?」


「え?なに急に…あっ」


 春陽は察する。彼はもうすでにサウナで水分が抜けている。が、彼らしか知らない事実として…


「おまえ、ここに来るまでに、めちゃくちゃコンビニで水飲んでたろ?なんかソワソワしてんなと思って。悪いかなと思って言ってなかったけど…」


「…!そうそう!そんなんだよっ、てなわけで僕少し、更衣室に帰るね!」


 絶妙な助け舟だ、ありがたい!春陽のアイコンタクトが、夏目に届く。夏目は、返しのウイングをバチッと決めて、頷いた。


「さて春陽、俺も同行する。連れションだ」


「わかった。じゃ、俺たち鳥組はここに残るから」


「鳥組…あ、自分も含まれてます?これ」






 


 



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