第6話

「凄いね! お姉さんはこれが気に入ったよ! 生地の質も良いし細かいデザインも凝ってる! お姉さんに相応しいメイド服はこれしかないよ!」


「うわぁ……たっけぇ……六万もする……」

「殴られ屋でさっき稼いだ額を言ってみなよアキラ。お姉さんをダシにしたの、忘れてないからね」

「……七万稼ぎました」

「はい、支払いよろしく! 私これ、着て帰るんだー」


 無事にコスプレ衣装や生地を扱う専門店に辿り着くと、早速お姉さんは飾られている、本格的なメイド服に飛びつき、それを買うと言い出した。

 ……買います買います、俺も悪かったって思ってるから!


 それに……今日だけでかなり回避能力が上がったように感じる。

 無論、まだ殴り関係に限定されているのだが。


「着替えてくるよ。アキラ、覗いたら罰金だからね! 五〇〇円払ってもらうからねー」

「……安くね」


 この人マジでなんなんだ……悪い人じゃないけど……クセが強い!

 その後、大変似合っているメイド服姿で出て来たお姉さんは、満足気にその場でくるくる回ってみたり、カーテシーを披露したりしていた。

 人……集まってきてます。黙ってれば本当綺麗だから……黙ってれば。




「よし! これで晴れてお姉さんはメイドになったからね! ゲーセン行こうゲーセン! アーケード版のマ〇カーでもいいよ! ガン〇ムの戦場の〇でもいいからね!」


「それ、確かもうないんじゃないっけ……」

「そんなー……オフラインモードで出来るはずじゃないのー?」

「なんで詳しいんだよ……近くに置いてるところはないね」


「ちぇー。ならス〇2やろうよス〇2! ゲーセン黎明期を支えた偉大な作品なんだよ、やってみたいじゃないか! お姉さんはね、青パンサガッ〇使うんだー」


「知らない……お姉さんの知識、かなり古くない……?」


「そんなことないよ、失礼だなアキラは。ただ一番盛り上がった時代の知識の方が情報密度が多いから印象に残っているんだよ! たぶん情報密度だけなら戦後復興初期の方が多いけど、お姉さんは楽しい情報以外はなるべく出さないようにしてるんだー」


「それは……」


 もしかしたら……本当は膨大な知識というものに、この人は押しつぶされそうになっているのではないだろうか?

 この言動は、知識の中に含まれる、人類の悲しい歴史、困窮の時代の知識、そういったものを知り過ぎた故の辛さの裏返しなのかもしれないな……。


「あ、でも闇市の雰囲気は楽しそうだったね! 今もああいう場所ってないのかい? ギブミーチョコレート!」


「俺の考察を台無しにするなよ……!」






 彼女にせがまれゲームセンターに向かうと、お姉さんは一目散に駆け出し、一つの筐体の前で立ち止まった。

 それは俗にいう『パンチングマシーン』というヤツであり、ダンジョンの加護やスキルを得た人間にも対応できるよう、本格的に軍事企業と共同開発された筐体だ。


「さぁアキラ、今度は攻撃の特訓さ! 見てなよ、お姉さんが手本を見せてあげるよ。いくぞー! 食らえ! メイドパンチLv7!」


「さっきと技名違うし」


 が、その瞬間『ドゴン』と、まるで重たい物を落下させたかのような重低音が鳴り響き、パンチングマシーンの筐体が僅かに後方にズレていた。

 な……なんちゅう威力してんだ……!


「う……痛い……待って本当に痛い……アキラぁ……」

「って、お姉さん大丈夫ですか!?」

「知識だけじゃダメだったよ……肩がおかしくなったかも……腕も上がんないよ」

「……無茶しすぎです。ちょっと病院に連れていますから」


「ま、待っておくれよアキラ。大丈夫だよ、お姉さんは自己治癒能力が高いんだ。だから回復薬とかあればそれで大丈夫だから」


「ほ、本当ですか?」

「そう、だからそこの自動販売機で……一番高いエナジードリンクを奢って欲しいかな、なんて」

「……本当の話なんですよね?」


「ほ、本当だよ! あのメーカーのエナドリには、ダンジョン産のポーションが配合されているんだから! だから他のエナドリの倍の値段なんだけど」


「信じますからね」


 これまでの言動のせいか一瞬疑ってしまうも、お姉さんはエナジードリンクを飲み始めると、途端に弱々しい表情から、いつもの調子に戻っていった。

 顔文字で例えるなら『(´・ω・`)』が『(`・ω・´)』こうなったような。


「ほら証拠。ここ見て、パンチの衝撃で鎖骨が少しズレちゃったんだけど」

「ちょ!」


 すると、突然お姉さんは襟元を開け、鎖骨をこちらに見せつけて来た。

 が、確かに右側の鎖骨だけ角度がおかしく、明らかに怪我をしているのが分かる。

 しかしそれが、見る見るうちに正常な状態に戻っていったのだ。


「ね? 嘘じゃないだろう? これ美味しいね……味わって飲もう」


「疑ってすみませんでした。お姉さん、たぶん身体はほぼ一般人だと思うので、本当に無茶なことはしないでくださいね。思えばさっきも俺を殴る時、肘を痛めていましたし」


「そうなんだよね。私、達人やプロの動きを完全に模倣できるから、最高の出力を出せるんだー。でも、身体がそれに耐えきれないんだよね。だから、将来的にはアキラには、お姉さんのレベリングもしてもらうつもりなんだー」


「喜んで付き合いますから、あんまり変なことしないで、大人しくゲームだけしていてくださいね」

「分かったよ、ごめんよ。あ! それよりパンチングマシーンの結果!」


 唐突に、まじめな話をしていたお姉さんのテンションが切り替わり、自分のスコアを確認しだす。

 俺も見てみると――そこには、見事に月間ランキング『三位』の記録が出ていた。


「……! 一位取るまでやるからね! アキラ、お金!」

「ダメです! さっき約束したでしょ」


「うー……! お姉さんの捨て身のパンチが三位だなんて……! はい、アキラもやってみて! さっきの見てただろう? 見稽古っていうものがあるんだ、その経験もしっかり一〇倍の効果が出ているはずさ。実際に打ってみて、それで感覚を掴むんだよ」


「なるほど……」


 やはり、このお姉さん……俺のために行動している可能性が高いな。

 俺は、自分の負傷も厭わずに手本を見せてくれたお姉さんに報いるため、先程のお姉さんのフォームを真似るように――全力でストレートを放った。


 轟音と共に、筐体が大きく揺れる。

 拳を受け止めるはずのマット部分が、へこんだまま元の形に戻らない。

 そして、そのスコアは――


「あああああ! ベストスリーは紹介されるのに! アキラのせいでお姉さんの記録、四位になっちゃったじゃないか! なんてことするんだいアキラ、これはエナドリもう一本買ってくれないと機嫌治らないからね!」


 無事、今月の一位を塗り替え、暫定一位に輝いたのであった。

 ちなみにお姉さんの記録は押し出されて消えてしまいました。

 はいはい、身体に悪いからエナドリは一日一本までですよー。

 ていうか強い炭酸に弱いって設定どこいったんだ。あ、これ微炭酸か。


「ほらほら、ビール買って帰りますよ。俺は買えないから、お姉さんの身分証明書が必要ですけど」

「……あ。あとで申請しておかないと……アキラー、私の名前考えておいてねー」

「はぁ!? 名前ないの!?」


 こうして、半分デートのようで、半分振り回されただけの一日は終わりを迎えた。

 なお、帰りの電車内ではメイドのお姉さんが思いっきり奇異の目を引いていたので、終始他人のふりを決め込んでいました。

 なんでこの空気がへっちゃらなんだよ……!

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