第3話 異端の代償
第三話 異端の代償
一週間後、竹原と神崎はリナのいる養護施設をまた訪れていた。
竹原の友人の施設職員から、リナが行方不明になったとの連絡があったからだ。リナが行方不明になり既に三日が経過しているらしい。昨日連絡があり、神崎が都市を検知したが見つからなかった。おそらく都市にはいない。友人に事情を聴くと、リナは外出して帰って来なくなったという。ほかの子供達によると、リナは都市外の自然を見るために、たまに都市を出ることがあったらしい。だが、それも都市からそう離れることはなかった。
なぜ、リナちゃんは戻ってこないんだ?竹原は友人に聞いた。
おそらく、誘拐された可能性が高いと思う。
誘拐?
警察に言ったが都市にはいないようだ。都市外にいるにしてもただ自然しかないような環境にずっといても仕方ないだろう。
それに、、、
それに?
最近都市の人間が拉致誘拐されるケースが増えているらしい。
近年、都市を逃げ出しカオス村に行くやつがいるだろう?
ああ、そうだな。
そういう奴らを途中で誘拐するらしい。
ん?どういうことだ?
つまり、現在都市外に数多くのカオス村がある。そのカオス村も玉石混交だ。中には相当ヤバい村もあるらしい。都市で犯罪者だった奴らが作った村もあるらしいぞ。そういうやつらが都市を出た人を誘拐し、自分達の村で奴隷にしてるって噂を耳にした。
奴隷?そんなことがあるのか?
カオス村は無法地帯で国からも非認可だ。つまり何でもありってやつだ。
待てよ、だが都市外でもある程度の範囲は都市の監視圏だろ?
ここだけの話しだぞ。誰にも言うなよ竹原。オレ達公務員しか知らないことだが、都市の監視は確かにある。だが、都市から出るやつを都市は守らない。
つまり都市を出るような奴は謀反者ってわけか。
そうだ。だから、都市の監視圏の監視データも見つからないと出るが、リナがいた可能性は高い。特にリナのような子は都市からしても排除できて嬉しいくらいじゃないか。
なんか、方法はないのか?リナちゃんを助け出す方法は。
都市が動かないとなると自ら救出に行くしかない。だが、そんなヤバいとこ誰が行きたがる?ただでさえ無法地帯だぞ。命はないと思わないとやれない。悪いがオレには無理だ。リナを助けたい気持ちはあるがな。オレにも家族がいる。死ぬわけにはいかん。
そうか、わかった。話しが聞けてよかったよ。ありがとう。
竹原、くれぐれもさっきの話は極秘だぞ。
もちろんだ。
竹原と神崎は施設を後にした。
帰り道、神崎は竹原に尋ねた。
リナさん、無事でしょうか。
多分、殺されはしないと思う。
おそらくそういう手合いは奴隷をたくさん作り支配し、こき使い、自らの欲望を満たすことが目的だろう。
そうですか。なんとかならないものですか?
残念だが、今すぐには難しいだろうな。
人間の道具化か。人が人を道具として所有しちまってる。
竹原はタバコを咥え空を見あげた。まるで美しくない青空だな。険しい顔をして竹原はつぶやいた。
神崎もつられて空を見上げた。
同時期、タクミはゼロポイントにいた。ゼロポイントはコスモス国の都市のスラムのような場所だ。この社会に適合できなかったもの、ドロップアウトしたもの、排除されたもの、行き場を失ったものなどが集まっているエリアだ、路上で寝泊まりしているものも数多くいる。
都市の暗部であるこのエリアを基本的に都市は黙認している。
タクミはゼロポイントの仲間に話しかけられた。おいタクミ、もうクスリねぇか。切れちまった。分けてくれ。オレも今はねぇよ。どっかで調達してこい。
チッしょうがねぇな。
クスリは本当すごいよな。タクミ。オレはクスリやって人生が変わったんだよ。なんていうか異常に賢くなった。今までわからないことがわかるようになった。特殊能力を得たんだよ。
そうか。と、タクミは返す。重度の薬物中毒の仲間を見て、タクミはここまでいったらヤバいなと思う。仲間は薬物中毒者特有の不気味な目つきで語っていた。やってよかったよ本当に。
何でも全部わかっちゃう。今のオレは。
よかったな。
ゼロポイントではドラッグは当たり前だ。使用する人間は多い。それだけ、ここにいる奴らは精神のバランスを崩してるってことだ。去年からゼロポイントで生活しているタクミはここでの生活に慣れていた。
タクミはタバコを取り出し、ライターの火をつける。カチッ。フーっ。タバコの煙を吐き出しながら沈みかける夕陽をみていた。
オレが今生き抜くにはここにいるしかない。
4年前の学生時代、タクミは今の社会に強い怒りを覚えていた。タクミの家庭は父子家庭で、父親と兄とタクミの3人暮らしだった。父親の借金もあり暮らし向きは良くなかった。それはまだ良いが、タクミが納得できなかったのが今のAI社会の評価だった。家庭の状況がタクミのスコアに響いていたのだ。これじゃ最初から人生マイナススタートじゃねぇか。こんなくだらないスコアで人生左右されなきゃいけないのかよ。スコアが良くなるよう演じるのにも疲れた。
そんな時クラスメイトとタクミが喧嘩になった。
原因は今のこの社会に迎合しきってるクラスメイトにタクミがイラついたからだ?
おいおい、タクミ、みんな仲良くしようぜ。仲裁に入ったヤツが言った。
タクミは言った。なぁ、教えてくれよ。この超競争社会で。競争がすべての根幹で。どう他人と仲良くなれっていうんだよ。誰かが得したら誰かが損するこんなくだらないゲームの中で、信頼関係?友達? 笑わせるなよ。
くだらねぇ。くだらねぇんだよ。人間関係なんて生き残りをかけた殺し合いのゲームと同じじゃねぇか。
そのゲームの達人みたいな奴らじゃねぇかよ。お前らなんて。
オレは降りる。こんなくだらないゲーム。
数週間後、タクミは進学申請を出したが拒否された。理由は家庭不適合の為だった。タクミは自らの問題ではなく、家庭の問題で進学を拒否されたのだった。タクミの父親に借金があり家庭のスコアが低かった為だ。
ははっ 笑うしかねぇな。
本当にくだらねぇ。くだらねぇ。学校を卒業してからタクミは家に引きこもっていた。というより実質排除されたのだ、社会に。就職すらできない。
ただでさえ悪い家庭のスコアがタクミの状態により、より低下した。兄は家を出た。ここにいたら、生きていけなくなる。足引っ張りやがって。
タクミはその言葉にキレた。なんだと?こうなったのはオレのせいじゃねだろ?勝手に人のせいにしてんじゃねぇっ!!
お前がもっと成績よけりゃよかったんだよ。家庭や社会のせいにするな。自己責任だよ。
クソ野郎っっ!!タクミは兄に殴りかかる。だが、兄のカウンターパンチをもらいくずれ落ちる。尻もちをついて鼻や口から出血した。
気に食わなきゃ暴力か。弱い奴だな。じゃあな。もうお前に会うことはないだろう。
タクミはそのまま座り続けていた。
いつしか父親もあまり家に帰らなくなった。もう当分会ってない。
あの野郎。まぁいいや。どこかの女の家にでもいったのだろう。そんなだから、おふくろに離婚されるんだ。金さえ入れてくれりゃそれでいい。
タクミはタバコに火をつけた。
タクミがニート生活をはじめてから3年が経ったある日のこと、
何人かの友人達と会っていた。その中に親友のキョウもいた。
すると突然警察ロボットが現れ、キョウが強盗殺人の容疑で逮捕された。
タクミは驚いた。
キョウ、なぁ、嘘だろ、、強盗殺人なんて、、、なぁ、キョウ、お前みたいないいヤツがそんなことするわけないだろ。スコアだってめちゃくちゃ高いし、周りから好かれてて。なぁ、親友のオレになんか言うことないのかよ!!黙ってないで答えろよ!!お前なんて、友達だと思ったことないよタクミ。他の奴も、みんな大嫌いだったんだよ。
タクミは何も言えず立ち尽くしていた。
自室に戻り、キョウのことを考えていた。いつからいつから狂っちまったんだよキョウ。なあお前が悪いんじゃない、この世界だよ悪いのは。
何も考えずモニターをオンにするとニュースがながれてきた。
今日も自由で幸せな社会の実現のため、、、
なぁぁにがっ、自由で幸せな社会だよ!!
てめぇらの言う、自由で幸せな社会なんてもんは、高度に偽造された管理でしかねぇだろうが!!
自由です、選べますって
笑わせんなよ!!
その選択肢すら、社会の設計図に沿って与えられたもんだろうがっ!!
現代社会は、自由を装ってる。
でもよ、実際は、、、
生き方すら規格化されてる。
最適化されてる。
数値化されてるんだよっっ!!
偏差値、資産、人気、社会貢献指数、精神安定指数、、、、全部、数だ!!
数字が人の価値を決めてる。
そうして社会は、人間を選別してんだ!
社会が、国民を騙してる
なあ、、、これの、どこが幸せな社会なんだよ、、、
タクミは気力をなくした。
それから2週間ほど経ったある日。タクミはネットでピコというハンドルネームの女性ユーザーとやりとりしていた。この社会に対する生きにくさや苦しみ、痛みについて共感する部分が多かった。タクミにとってはじめて自分の気持ちを理解しあえる仲間が出来た気がした。何日間かのやり取りの後、会う約束をした。その女性は仕事を夜遅くまでしているとのことで深夜に待ち合わせをした。タクミが待っているとそれらしき女性が現れた。タクミさんですか?
はいっそうです。ピコさん?はい。こんばんは。そんな挨拶をすませて二人は近くの飲食店に入った。自分達の生い立ちや今の境遇や社会について、趣味の話し等をして盛り上がった。そしてこの日は別れ、また会う約束をした。二人はその後何度か会った。ある時、二人はバーで話をしていた。
話によるとピコは、学生の頃イジメに遭っていたらしい。昔は地味で目立たない存在だったが痩せて化粧をし始めてから垢抜けたらしい。写真を見せてもらったが見事に変わっていた。
ピコは歌を歌ったり表現することが好きだという。これからは、今の社会で弱者とされる人達、排除された人達、生きることを辞めたくなってる人達、苦しんで、痛みを抱えてる人達を救えるような存在になりたい。ピコはそう語っていた。すごいな、ピコならなれるよ。タクミは何も考えず適当に言った。だが以前、ピコと電話したときにあまりの透き通るピコの声に驚いたことも事実。声優とか向いてるよ。とタクミは言った。
それから数週間後、タクミがピコに連絡したが、パタリと連絡が途絶えてしまった。何があったんだろう。わからない。まぁでも仕方ない。最初から何も期待はしていない。人間関係なんてそんなもんだ。人なんてわからない。あの時も、、、、
それぞれ何らかの思いや抱えてるものがある。そしてそれがオレとの関わりを辞めるという結果になっただけだ。彼女が幸せにやってくれりゃそれでいい。この時はそう思っていた。
ピコと連絡が取れなくなってからほどなくして、タクミはゼロポイントで暮らし始めることとなる。
のちに、タクミは知ることになる。数年後、メディアに映るピコの姿を。
今、最もブレイクしているアイドルグループ──REMU。
そのセンターが、かつてタクミと出会ったあのピコだった。
圧倒的な歌唱力に、透き通るような声。まさに、売れるべくして売れた存在。
タクミはその時、思わずテレビの前で動けなくなった。
あの時期、何度か会っていたピコが、今やトップアイドルか。元気にやってるんだな、、、。
けれど、今の時代のアイドルや歌手は、AIに正解とされた歌しか歌えない。それが、この社会の音楽だった。
これで、ピコが以前言っていた痛みを抱えた誰かを救えるのか?仕方ない。そう思う一方で、胸の奥にやり切れなさが残った。
あの頃、彼女から連絡が途絶えた理由が──
なんとなく、わかった気がした。
2044年秋、竹原と神崎は都市の公園に来ていた。この公園には池があり、竹原と神崎はボートに乗っていた。竹原は手にウィスキーの瓶を持ちゴクゴク飲んだ。竹原は言った。ボート漕ぐのうまくなったじゃないか。去年は下手だったが。
ありがとうございます。大分慣れました。
それにしても綺麗な紅葉ですね。あぁ、大分色づいてるな。
竹原はボートに寝転がった。
いつの間にか寝てしまった。
竹原が目を覚ますと既に夜になっていた。あーだいぶ寝たなオレ。そうですね。竹原は寝転がったまま言う。
星が、綺麗だな。
そうですね。
竹原は手を星に向けて伸ばす。何してるんですか?
掴めそうだと思って。
そうでしたか。
もう少し頑張れば掴めますよ。バカにするなよ。と竹原は笑う。
タバコを吸いながら夜空の星を眺める。
そしておもむろに言った。
星なんてまともに見るの久々だよ。いつもあったのに、気づかなかった。いやっ、見ようともしなかった。
どうしてだろうな、今を、一瞬一瞬を大切にしたいと思うのに、どうして過去や未来のことばかり考えてしまうんだろう。
いつも今この瞬間にオレはいない。
神崎は、竹原は一体何を考えてるのだろうと思った。
夜空に煌めく星達が二人を包みこんでいた。
2044年秋、9歳の少女レイはどこにも居場所がなかった。その理由は、彼女の身体は男だからだ。本人の性自認は女だ。これを理由として学校ではイジメられていた。家では父親に暴力を振るわれることもあった。出来損ないを強制する為という理由らしい。母親からも他の兄弟とはまるで違う扱いを受けていた。「あの子を施設に預けようかしら」、と母親が父親に相談している声が聞こえてきた。2044年のコスモス国の都市ではレイのような個性を持つ人間は排除されていた。生き方として正しくないとAIに判断されたからだ。
レイは思う。家族ってなんだろう?家族ってとてつもなく息苦しい。血のつながりがあれば断ち切ることはできないの?呪いのように思えた。子供は逃げ出す自由さえ与えられていないの?
父親がいるだけでレイはびくびくしていた。いつまた暴力を振るわれ、また自分を否定されるのか。嫌で嫌で仕方なかった。
父親も母親も大嫌いだった。
学校に行っても気持ち悪がられイジメられる。どこにも居場所はない。子供にはそもそも家と学校しか居場所は与えられていない。どちらにも居場所がないと死ぬしかないのだ。
スコアは最低でこの時代では間違った生き方とされる存在だった。レイはAIから先天的異常個体と判定されていた。
先天的異常個体って何?なんで私、異常なの?私だって女の子に生まれたかったよ。でも身体が男ってだけじゃん。それで異常って言ってこの社会から排除されるわけ。なんで私が、、
男か女か、働けるか働けないか、正常か異常か、健常か障害か。そんなふうに人を評価しないでよ!!
異常ってなんなの?おかしいとか間違いとか、そんなニュアンスが含まれる言葉使わないでよ!!
個性が大事って、昔はうるさいくらい言ってた時代もあったくせに。
今の社会、結局みんなAIが作った理想像を必死に演じてるだけじゃん。
それのどこが多様性なの?
ただの、同一性の地獄だよ。
もう、死ぬしかないのかな。
レイはそう思いいろいろと考えていると、学校のクラスメイトに言われたことを思い出していた。お前みたいな奴はゼロポイントがお似合いだ。もう学校来るな。
私だって学校なんて行きたくないよ。
ゼロポイントって都市に適応できなかった人が集まって暮らしてる場所。か。
そこならもしかしたら、私でも受け入れてもらえるのかな。
そこに行くしかない。
夜中、家族が寝静まった後、レイは家を出てゼロポイントに向かった。数時間後、ゼロポイントにつくと、そこにいた酔っ払い三人組に言われた。おいっお前女か?いやっ男だけど。気持ち悪いやつだな。お前みたいなやつはここでも受け入れられることはない。さっさと家帰れ。
そんな、、家なんか帰りたくない。じゃあ、私はどこに行けばいいの!?レイは叫んだ。
知るかよそんなもん。あっそうだカオス村でも行けば良いんじゃねぇか。それがあったか。だが生きて帰れるかね。ふふふふふふっ。
カオス村って何? 都市の外にある村だ。それも無法のな。
ここにいる奴らだってあんな恐ろしい場所に行く奴はまずいねぇ。
レイはゼロポイントを後にした。カオス村。そこしかないなら行くしかない。もう死んだっていいんだ。レイは都市を出た。それから走り続けた。ただひたすら走り続けた。
……いつかさ。いつかきっと、こんな私みたいな人でも生きやすい、誰にでも居場所がある世界になるといいな。
神様。お願い。いつか未来で、みんなが他人の違いをちゃんと受け入れられるような社会を作って。
もし私が、次は普通の人に生まれ変わったとしたら――
きっと、“他と違った誰か”を、心から愛せる人になるから。
2044年晩秋、竹原は仕事終わりに長年の付き合いの親友とカフェで雑談していた。
なぁ竹原、この世界はなんでこんな生きにくくなっちまったんだ?いやオレ達が昔、この世界は生きづらいって話してた30年前くらいとは比べものにならないぞ。一体どうなってる?
この親友とは昔から話しが合う。元から考え方が似ていたのだ、この社会の生きにくさをずっとお互い感じてきたからだ。
そうだな、結局今のこの社会っていうのは人間の本質的な欲求が暴走する設計になっちまってるってことだ。
人間の欲求の暴走?どういうことだ?
対局的に見て。人間は可塑性のある生き物だ。社会設計次第で、人間の本質的欲求は善にも悪にも形は変わる。人間の本質は何万年も前から変わらない。
だからこそ、人間の善性を引き出す社会設計にすること、それから人間の本質を人間自体が自覚して悪い方向に行かないよう抑制する。つまり、制度と思想設計が重要となる。
人間の本質的欲求とはなんだ?
ああ、大まかに言うと
排他性、承認欲求、比較・序列欲求、同調欲求、短期報酬・快楽衝動、 未来制御、他者制御等の本来人間の持つ本質の欲求だ。
これらが暴走したのが今の世界ってことだ。暴走する社会設計になってしまってる。そしてそれによる歪みが限界に来たのが今ってわけだ。
なんか難しい話だな?
そうか?
だがいつからその人間の本質的な欲求が歪み出したんだ?
この前も別の人に話したんだが、人間の大転換点は農耕革命だよ。農耕革命により人は色んなものを所有しちまった。
農耕が始まって、人は土地を“自分のもの”だと囲い始めた。それが所有の始まり。そこから格差が生まれ、奪う者と奪われる者が生まれた。争いも階級も、全部その延長線上にある。
つまり、歪みの原因はそこにあるわけか。
まぁな。それがどんどん激しくなり、ついには限界を迎えてるわけだ。技術やテクノロジー、文明は発展した。正の側面もあるが、人間の心はそれに合ってはいないってことだ。
ってことは農耕革命前の人達は幸せに暮らすことが出来てたのか?
その可能性は高い。奇跡的に人間の欲が暴走しない設計になっていたからな。
例えばどういうことだ?
狩猟採集の暮らしって、持てるものに限りがあった。だから欲も自然と小さくてすんだんだよ。持たないことで、自由だった。所有しないことで、縛られなかった。
あの頃の人間は、モノを持ちすぎることも、誰かより上に立つこともあまり意味がなかった。みんなで獲って、みんなで食って、余計なものは腐るだけ。誰かを排除すれば自分が困るし、承認なんかなくても生きていけた。自然が、欲を暴走させない仕組みになってたんだよ。
なるほどな。農耕革命以降歪んだ社会で苦しむ人達がいて、宗教みたいな精神安定剤が出来始めた訳か。
ああ、救われたい人が山程いるから宗教が未だ強く根付いてる訳だ。
だが、竹原この社会はもう無理ってことか?
あぁ、基本的に社会は世界を見渡してもずっと歪み続けて来た。歪んでない時代など農耕革命以降ほぼなかった。だから基本どんな政策をやったとしても上手くいった試しはない、奇跡的に上手くいくこともあるがそれは一時的だ。人間の欲がその状態を壊すんだ。
確かにな数百年上手く回ったとか稀にあるよな。だが今このコスモス国は世界的に見てやばいよな。
いやっ実は世界的に見れば5本の指に入る良い国だ。
えっっマジか。ここ良い国だったのか?
あぁ。生まれた段階で終わってる国は山程ある。チャンスが少しはあるだけマシだ。
いやっしかし、この国はやばいって周りも言ってるが、あれはなんなんだ?
それはこの国が昔、数十年間にわたり歴史的に見ても奇跡が重なったご褒美時代があったからだよ。その時代にも歪みはあったが、それでも人が前向きに生き、希望を持てる良い時代だった。それがある種スタンダードになっちまった。だからコスモス国の国民はやばいって思いが強いんだ。
なるほどな。しかしそうなるともう無理なのか。世界は。
いや、これまではどうにもならなかった。だが今だからこそチャンスが生まれた。
どういうことだ?
AIだよ。AIの発展により人は労働から解放される土壌が出来た。これこそが最大のチャンスだ。
まっ実際に土壌ができても人は働くという概念を捨てられないがな、、、
そうは言っても都市を変えるのは無理だろ?
まぁな。
竹原はタバコに火をつけて煙を吸って吐き出した。
もし、仮にオレがこの社会から大犯罪者というラベルを貼られ、極悪人と言われたらどう思う?
お前がか?そんなわけないだろう。誰より世界中の人々の幸せを考えてるのは竹原だからな。
何かの間違いだって信じてくれるか?
もちろんだ。
ありがとう。
おいおい、お前なんかやったのか?
冗談だよ。もしもの話だよ。
竹原はタバコの火を消した。そろそろ行くか。家で飯ができてるからな。
なんだ竹原女か?
まぁそんなとこだ。
お前いつも隠すよな。お前ほどの色男なら女には困らんわな。いやそんなことはないさ。
嘘つくなよ。今度紹介してくれよ。
またな。
絶対嘘だろ。一度たりとも教えてくれたことはない。竹原は笑った。
ふっじゃあ楽しみにしてる。またな。
ああ。
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