星になれない僕たちは、
城之内 綾人
序幕壱 二〇二三年、ハロウィンの夜
間違いなくその瞬間が、
心臓が破裂しそうなほどの動揺に耳鳴りが止まず、視界が滲んだ。何がどうしてこうなってしまったのか。震える手が、指が、上手く動かない。
「誰か……頼む、俺はどうなってもいい……地獄に落ちてもいい、だから……っ!」
ハロウィンの夜。こんな繁華街のさらに奥……路地裏には誰もいない。ビルとビルの隙間から、人工の光に消されてしまうほどの弱い星が覗く。他には、何もない。
左右にはコンクリートの壁。膝をついた地面のアスファルトは身を刺すように冷たい。通り抜けていく風には夜の匂いと共に鉄の臭いが紛れ込む。遠くで聞こえる人の声も車の喧騒も、今ではどこか違う世界の音のように聞こえていた。
まるで、この狭い路地は棺桶のようだと思った。絶望という名の壁が左右に聳え立ち、徐々に狭まって来るような錯覚。頭上に微かに見える夜空が塞がれれば、本当に闇の中。
誰も来ない、誰も助けてはくれない。絶望の箱の中のようだと――
「トリックオアトリート」
ふいに背後から少女の声がした。ハッとして振り返る。
月光の下、黒の日傘を差したゴスロリ姿の少女が微笑んで柊丞を見ていた。
「地獄に落ちてもいいですって? お望み通り地獄の鬼が来てあげたわよ」
「なんだ、お前……」
「初めまして、私はカルタ。絶賛出張中の獄卒よ。ねぇ……現状をどうにかしたい?」
つかつかと歩み寄ってきたカルタが、まるで品定めをするように目元を緩ませる。真っ赤な瞳に、黒髪を耳より上でツインテールにしたその少女は、どこか浮世離れしていた。
「……できるのか」自然と口をついて出た。
「ええ、もちろん。そうねぇ、あなたの場合は……過去に戻してあげましょうか」
「……は?」
「過去に戻って、こうならないように事実を書き換える……けれどそれには代償が必要」
「それはなんだ」
カルタの目が、さらに赤く光った。愉快そうな表情の中に、冷たい色が宿る。
「――貴方の、すべて。この意味、わかるわよね?」
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