誰でも、よかった。

夕凪あゆ

第1話

登場人物



千紘(ちひろ)

心に空虚を抱える女子高生。誰かに必要とされたいと強く願う。


蒼矢(そうや)

冷静沈着で、他人を突き放すような態度を取る。鋭い言葉が多いが、時に優しさを覗かせる。そのギャップが千紘の心を揺らしていく。俗にいうツンデレ。


悠真(ゆうま)

柔らかい雰囲気で、誰にでも優しい。だがその平等な優しさが、千紘にとっては残酷に感じられることも。意外と嫉妬深い。


凌央(りょう)

明るく人懐っこいタイプ。グループの潤滑油で、蒼矢や悠真と千紘を自然につなぐ役割。



「……ノート、貸して」

放課後の教室で、蒼矢が低い声をかけてきた。

隣の席に座っているはずなのに、距離を測るように、恐ろしいほど視線を合わせようとしない。


「また忘れたの?」

千紘は少し笑いながら差し出す。

蒼矢はため息をひとつ吐いてから、静かに受け取った。


「助かる」

「もう少し素直に頼めばいいのに」

「……別に。」

「え?」

「お前がお人好しだって俺は知ってるんだよ」


声色は突き放す感じなのに、言っていることは不思議と棘がなかった。

その無愛想な人柄が、私の喉の奥を細かく引っ掻いていく。


「千紘、また蒼矢に振り回されてるの?」

横から凌央が笑いながら割って入る。

明るい声に救われるように、千紘は肩をすくめた。

「蒼矢は、私の器が大きいって理解してるんだよ、きっと」

「お、いいね。反撃」

「……別に。しょーもな、」蒼矢はそう言って、再びノートに目を落とす。


そこへ悠真が教科書を片づけながら顔を上げた。

「まあまあ。蒼矢は言葉足らずなだけなんだから」

「フォローになってない」千紘が笑うと、悠真も笑った。


他愛ない会話。

ただの放課後。

その頃は、友達として話しているだけのつもりだった。



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