第29話 交易路
村長の家もボタンの家と同じドーム型の住居であったものの、一回り大きいサイズに見えた。
中に入ると見た目以上に広くなっているように感じたのは天井の高さからかなあ。
テーブルに並べられた料理はまさに「ごちそう」だった。もちろん、王宮で食べるような豪華絢爛な料理ではない。
温かみのある家庭料理、いや、街のレストランが一番イメージが近いかも。
魚、肉、山菜に白パン、調味料には塩・胡椒だけじゃなくバターやニンニク、唐辛子まで使っている。
油はオリーブオイルかな? 菜種ではなさそう。
座る前に深々と村長に向けて礼をする。
「これほど豪勢なお食事を振舞っていただきありがとうございます」
「殆どはこの村と隣のテムジン村から取り寄せたものです。どうぞお気にされず」
「一部は遠方から仕入れられたものなのですね、恐縮です」
「定期便を出しておるのですよ、村まで行商人が訪れることもないですからな、ささ、暖かいうちにどうぞ」
村長に促され着席し、さっそく食べ始めた。
今の話の流れで「定期便」とやらのことを聞いてみよう。
それはそれとして――
「おいしい!」
「確かに、砂漠地帯に来て以来、はじめて手の込んだ料理を食べたよ」
俺の感想にエルナンも相槌を打つ。
俺たちのやり取りに村長の眉がピクリと上がる。
「砂漠地帯を旅されていらっしゃるのですか?」
「旅というか……」
言うべきか迷いエルナンと顔を見合わす。彼に否はなさそうなので、正直に現状を伝えるか。
「砂漠地帯は広く、東側に山脈があるんですが、そこの渓谷で暮らそうと整備しはじめたところなんです」
「そのようなところに人が……? 山を越えるには相当な覚悟と準備がなければ、私どもが住む砂砂漠より余程過酷ですぞ」
「渓谷に至るまでは確かに険しい地形なのですが、渓谷には川が流れているんですよ」
「ふうむ。水があれども渓谷から外へ向かうのが困難ですな……」
意外にも村長は山脈地帯のだいたいの地形を知っているようだった。オアシスを放棄せざるをなった場合に備え、新天地を模索していたのだろう。
砂漠地帯はどこの国からも支配を受けていない。それ故、新天地も砂漠地帯の中から探しているのだと思う。
国のしがらみがあると税やら役人やらいろいろメンドクサイもの。
俺? そうね、俺も国の役人として砂漠地帯の差配を任されている。といっても、砂漠地帯という特性を生かし、国の影響をなるだけ排除するつもりだ。
税金なんてもってのほかだよ。むしろ、補助金を寄越せ。
数百年後に科学技術か魔法技術があがり、現代日本並の生活を送ることができるようになれば、砂漠地帯も資源採掘地として生きてくるかもしれない。だが、今じゃあないんだよ。とにかく食料の自給が非常に困難なことは、これまで何度も触れてきたとおりである。
「暮らし始めたばかりなのですが、色々な物資が不足しておりまして、オアシスのタムラン村とテムジン村はどこの街へ定期便を出されているのですか?」
「西のスネークヘッドの都まで定期便を出しております」
「スネークヘッドの街は通行証とか、交易品をさばく手続きが必要になるのでしょうか?」
「いえ、特段許可は必要ございません。大量仕入れ、買い取りになりますと特定の取次先なり商会なりを介するのもいいかもしれません」
この流れならいけると不躾に聞いてみたが、許された模様。村長は丁寧に西の街スネークヘッドのことを教えてくれた。
スネークヘッドは我が王国の隣国であるが、特に敵対関係にもない国だ。西の共和国は商業を重視する国で、来るもの拒まずな気風がある。
話は戻るが、いきなり定期便のことをズケズケと聞いたのはもちろん考えあってのこと。
もし、タムラン村が貿易で成り立っている村だとすれば、村長が渋い顔をするかなと思って。そうでないなら、出し渋らず情報を提供してくれるだろうと。
彼には俺たちが同じ砂漠地帯に住み始めたことを告げている。もし、定期便の収益が村の生活を支える殆どであれば、俺たちと商圏がかぶると警戒するだろう、
砂漠は広大でオアシスから距離はある。だが、オアシスからスネークヘッドまでも同じく距離があるだろ。距離が倍になるかもしれないけど、自分たちができていたことなのだから、交易可能だと考えるに違いない。同じ砂漠、同じような商品を扱うんじゃないかと想像する。村の生活を脅かすかもしれない情報を村の責任者である村長がホイホイ喋るわけにはいかないよね。
長くなったが、村長の態度を見るに村の生活必需品と一部の嗜好品を仕入れるために定期便を出しているのだと分かった。恐らく村は自給自足を主として成り立っている。足らない分だけ外から仕入れるってわけだな。俺たちも少なくとも今はタムラン村と同じ目的だ。
「少し失礼します……」
と席を立ち、外に出たところでエルナンに尋ねる。
「エルナン、スネークヘッドの村の位置って分かる?」
「地図に描き入れたよ。ここだね」
ほうほう、タムラン村から真っすぐ西か。
「村長に地図を見せちゃってもいいよね?」
「いいんじゃない。僕たちが地図を持っていると知られても、これまでの村長の発言から特に問題になることはないと思うよ」
さすがエルナン、俺が村長に聞いた意図を正確に理解してくれている。
部屋に戻り、村長に謝罪してから席につく。
「中座し、失礼いたしました」
「いえいえ、お二人で私に何かを開示してよいか相談されていたのですかな?」
「その通りです。これはそこのエルナンが空から情報を集めた地図なのですが……ここがタムラン村、そして、ここがスネークヘッドで」
「おお、見事な地図ですな! お二人とも魔法使いとお聞きしておりますぞ。魔法使い殿の力に感服です」
村長は地図に指を乗せスネークヘッドまでの道を示してくれた。真っすぐに指でなぞるかと思いきや、大きく北へ迂回するルートを示す。
ん、真っすぐのルートでもずっと砂海が続く平坦な地形のはずだが、避ける理由があるのかな?
サンドワームが沢山いるから、とかなら全て駆除すりゃいいだけだがはてさて。
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