第12話 加速、加速だ

 新たなブロック貨車にエルナンと二人で乗り込み、今回はマーモットも貨車の淵に乗せた。

「出発進行ー」

『モ』

 エンジン音も摩擦音もなく、スススッとブロック貨車が動き始める。この辺りは土魔法ならではでまだ慣れない。動く時は滑るように動く……が一番近いかも。

 速度を計測するものは持ち合わせていないので、肌感覚になるが、ジワジワとスピードを上げていく。

「一定距離ごとに目印をつけておけばよかったね」

「100ブロックごとに目印をつけておけば目測でもだいたいの速度がわかったかもだなあ」

 次の路線を作ることがあれば距離の目印をつけるようにしよう。

「速度を上げても揺れはないな」

 体感速度にして時速80キロくらいは出ていると思うのだが、全く揺れはない。しかし、速度を上げれば上げるほど風が強くなってきている。

「貨車の高さをあげて、屋根も作れば風の抵抗は減るか」

「そうなると毎回蓋を開けるようにしないといけなくなるかな。外も見えないんじゃないかい?」

「むむ、確かに」

「風も、だけど、動き始める時と停車する時にも注意だね」

 エルナンの言う通りだ。むしろ、風より発車・停車時の加速度による揺れの方が荷物が心配になる。

 繊細な割れ物を運ぶ予定はないけど、荷物がブロック貨車を飛び出して外に散乱したらお片付けが大変なんだよな。

 運びたいものが食材だけに、落ちた荷物を放置するわけにもいかないんだもの。生ごみ散乱、それに引かれた猛獣やらが侵入してきたら嫌すぎるだろ。

 いや、猛獣の線はないか。侵入口がないからね。空気穴的なものは所々開けているけど、ネズミより大きな動物は入ることができない。

「ブロック貨車の速度をもうちょい上げても大丈夫そう。ひとまず100キロくらいにしておくか」

 体感で時速100キロくらいで加速をやめ、安定したところで減速を開始した。

 急な揺れとならないようにジワジワと減速していって、ブロック貨車が停車する。

「思ったより停車するまで距離が必要だな」

「目測で許容できる揺れで停車するには1キロくらい必要だね、加速と減速の目印をつけておかない?」

 そうしよう、そうしよう。

 そんなこんなで実験は無事完了し、大陸縦断路線は開通と合いなったのである。

 大陸縦断路線は『一ノ谷・三日月』間をおよそ3時間で結ぶ。3時間で結ぶために体感速度を100キロ限界から150キロ限界に変更している。速度変更に伴い、加速減速ラインも変わっていた。

 今の所、ブロック貨車の運行は俺とエルナンの手動なので、俺たちの匙加減で運行時間が変動する。俺たち以外で動かすことができれば良いのだけど、エルナンの研究次第かな。今後に期待である。それにしてもここ数日で随分エルナンに研究して欲しい項目が増えてきたな。既に研究項目が何個もあることは覚えているのだが、それが何かを忘れつつある。こんな時はダイレクトに聞くに限るだろ、うん。ちょうどブロック貨車も停車したことだし。

「エルナンに頼もうと思っていた研究って何だっけ?」

「研究? 何のことだい?」

「あ、しまった、何でもない」

「なんだいそのあからさまな態度」

 しまった。エルナンに頼むことばかり考えていて、肝心なことが抜けていた。

 ブロック貨車を点検するふりをしつつ、速やかにブロック貨車から降りる。これでエルナンとの距離がとれたぜ。はは。

 どういうことなんだって? 話せば長くな……らないな。

 エルナンに現時点で頼んでも「ふーん」で終わるだけだ。だからして、先に研究施設になる箱を作り、エルナンを底に押し込んでなし崩し的にお願いをしようかなと思ってたんだよ。彼だとて場所を用意されたら持前の研究熱にうかされ、何でも聞いてくれそうなんだもの。

 物事を頼むには入れ食いの時にってね。悪いやつなのだ、俺は。

「よおし、これでブロック貨車の運行実験は終わり」

「……」

 じーっと何か言いたそうにしているエルナンの視線を感じるが気のせいに違いない。

 さあて、アリサのところに行こうかな。彼女は今、一之谷にいる。この世界には便利な家電はない、そしてここには加工食品も一切存在しないのだ。

 狩猟や採集で集めた食材は全て料理に使うことができるようになるまで持って行かなきゃならないだろ。

 その辺りを彼女一人に任せてしまってんだよね。いや、さすがに狩猟した巨大イノシシとかは俺とエルナンが協力して解体はしている。

 サイズが大きい作業は手伝っているものの、それ以外の細かいことは全て彼女だ。もう少し彼女を手伝いたいところなのだけど、大陸縦断路線の確立が最優先事項なので彼女に頼り切っている。料理は当番制でやっているが、料理の元になる食材の準備は彼女なので……。

 他にもお掃除とか彼女は俺たち以上にあくせく働いてくれていて、頭が下がる。休んでくれよ、とは言ってるのだけど、それで止まるような彼女じゃないし。

 ひと段落ついたら彼女には強制的に休んでもらうことにしようと考えている。

 

 ◇◇◇


「残り10日くらいなのだけど、先に何を整えておきたいとか思いついたことはあるかな?」 

 一ノ谷に戻って開口一番、アリサにそんなことを聞いた。

 いや、いつもながら無茶振りをしていることは分かっている。だけど、俺やエルナンよりは彼女の方が開拓民目線に近いだろ。

 俺はほら、王族ってことは置いておいて土魔法使いだし、エルナンは言うまでもないって感じでしてな。

「あ、あの、生活面とは違うかも、いえ、決して違うことはないと思うんですが……」

 もじもじしながら、あいまいに獣耳を動かすアリサの目が泳いでいる。何か言い辛いことなんだろうか。

「気にせず言ってみて欲しい」

「三日月湖の駅舎を出たところに広場を作って、壁で囲ったりできませんか……?」

「壁っていうと、城壁みたいな感じ?」

「はい! まさにそれです!」

 うーんと、駅舎を出たところに広場を作る。ここまではいい。なんなら家を作ってもいいかなと思っているくらいだ。

 三日月湖付近の方が渓谷より自然も豊で暮らしやすいから、希望者を募れば三日月湖の方に殺到しそうってのが心配事だけど、食材集めに三日月湖に人員は必要だし、希望者が溢れるのなら交代制とか考えればいい。

 しかし、城壁で取り囲むまでする必要があるのかな? 動き辛くなりそうじゃない?

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