第18話

 長さにして6尺強ほどの魔法道具。拵えは長石、弁天漆。緑色が静かな紺色のセイホクラブラドライトと数種の植物を粉にした上等なものを使用している。それにより刻まれた方陣により高出力が出される。


 今回持ってきた魔法道具と巡行ルートの話し合いがされた。

 夕方に飛ぶことはあっても夜間の飛行はしたことがない。距離感に、転落した時や鳥などが飛んできたときのことを考えると身震いしそうになる。しかしそれを押し殺すように前準備をする。


 アリステイルが感じるモノ、それは恐怖だった。何に対するものかはわからない。しかしそれとは別に、確かにたぎるものを感じていた。


 澪車が感じるモノ、それは清涼、そして一握りの恐怖。落ちること、そのイメージは傷ついた文鳥のようだった。


 皓伝屋夜名子はいつでも駆け付けられるように見通しのいい所に行っとくね! と言い残し走り出していた。


 澪車はその魔法道具にまたがる。手汗の滲み、それと同時に二つのものが滲みだしてくる。風と落下の感触。息を整えようとしていると、後ろから別のものを感じる。それはアリステイルだった。


 「僕も行く。その 、君程の才能だったりはないけど、これでも魔法学を学んでるんだ。それに記録するなら使用者視点でも必要だ。なにより、君だけがそうなるのは、なんというかたえられない」


 

 「しっかりつかまって。記録ちゃんと取ってね」


 アリステイルが澪車にしがみつき、そして片方の手には何やら布か何かでぐるぐるにされた筆記用具がある。そして澪車はしっかりと力を込め、魔法道具に気を、魔力を流してゆく。いつもであれば飛び出しは少し揺れる、しかしなぜであろうか不思議と少し安定しているため飛びやすい。そこで飛びながら集中してみるとどこか後ろから流れる気に他のものを感じる。アリステイルだ、そのままグイと引き上げるように高度を上げてゆく。


 やはり夜間、目に入るものの情報が少なくなり風を感じ取ることが出来る。澪車はその感触をかみしめるように、或いは思い出すように感じていた。その時、どこか風の中に冷たさのようなものを感じる。それは秋の気配気づけばどこかからかヒグラシの鳴き声がする。


 秋、それは時間の流れやはり彼がいなくなれば、あるいはそれ以外、空を飛べなくなったら感動を感じれなくなるんだろうか。


 アリステイルもまた何かを感じている。それは高度、そしてそれに付随する怖さ。落下することばかりが頭に浮かび思うように手が動かない。しがみつくので精一杯いになってしまった。

 その不安が交差したのだろうか、あるいは不安により澪車の目の不調が来たのか。町から来るものか、月明かりだろうか突如眩しさと呼気の胸の苦しさが澪車を襲う。まだ木々が見える高度。あの時と感覚が被る。

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