Chapter 9:Blue Boulevardier

(SE:氷を砕く音。店内は静か。夜のざわめきは遠く)


ナレーション

ライ・ウイスキー、カンパリ、スイートベルモット。

そこに、ブルーキュラソーを一滴──「ブルー・ブールヴァルディエ」。

深紅のカクテルに差し込まれる、青の光。

それは、空の青ではなく……決意の色。


**


(扉の開く音)


沢渡「……こんばんは」


(少し間)


沢渡「……店、閉めるって、本気なんですか?」


マスター(低く、間を置いて)「……ああ」


(沈黙。グラスを見つめる音)


沢渡「……なくさないでください。この場所を。

俺と有村さんで、引き継がせてください」


(間。マスターは無言のまま、棚から青いボトルを取り出す)


SE:ブルーキュラソーを注ぐ音。氷に当たる澄んだ響き


マスター「──Blue Boulevardier。今日のおまえには、これが似合う」


**


ナレーション

灯りは、引き継がれる。ただ、それだけだ。

それが、マスターのすべての答えだった。


**


(SE:場面転換。昼の光、少しざわめき)


有村「……本気で言ってくださって、嬉しいです」

(少し伏し目がちに)「でも、ひとつだけ。私はこの店を“夢”にしたくないんです。

現実として、きちんと守り続けたい」


沢渡「わかってる。だから、俺が必要なんだろ?」


(有村、微笑む。少し泣きそうな声で)

有村「……はい」


**


(SE:数日後。棚を整理する音、椅子を動かす音)


沢渡「この棚、前の店でもこんなだったのか?」


有村(手を止めて)「……前の店では、人を見てませんでした。

ワインのラベルばかり。距離をとるために、説明ばかりしてたんです」


沢渡「今は?」


有村「ここでは、人の目を見て話せるようになりました。……まだ修行中ですけど」


(扉が開く音)


神原「おい、なんか忙しそうだな」


沢渡「なんだ、おまえが手伝うのか?」


神原「たまたま近く通っただけだよ。春日とのデート前に、な」


(沢渡と神原、笑い合う)


神原「……昔の俺なら、振られたらカッコつけて終わってただろうな。

でも、今回は何度もアタックした。変わらないとな」


(カウンターの奥で、有村が静かに微笑む)


**


ナレーション

灯りの下、それぞれの過去が、静かに色を変えていく。

青の一滴が、未来へと続く道を照らしていた。


(SE:グラスを軽く合わせる音でフェードアウト)

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