第27話 ゲーム知識で、らくらくランキング上昇します
マハ・マタン。
ノルネを性的に狙おうとした、腐れ男の名前である。
そして後から調べて分かったのだが、そのパーティは彼以外は全員女性。
男一人に女三人のハーレムパーティときていた。
そのくせして、ノルネまでを狙おうとしていた不届き者の極みみたいな男を半殺しにするため、そしてバトルドームの挑戦権を得るため。
俺とノルネはそれからも、ダンジョンへ潜り続けた。
その過程でノルネはみるみるうちに魔法を扱えるようになっていく。
その才能はとんでもないものだったようで、俺の制御魔法がかかっていない状態で、
「こうしてくれるわ」
猛烈な勢いで突進を仕掛けてくる、猪型の魔物・ワイルドボアを正面から、龍火を使って焼き払う。
その火力はといえば、とんでもない。
一瞬にしてワイルドボアは丸焦げになって、ドロップアイテム『猪の角』へと変わっている。
さらに横手から来た、もう一匹にも、同じ技を食らわせて、瞬時に仕留めていた。
彼女のスキルは、『ノーロード』。
溜め時間なしに魔法発動へ移ることができるそのスキルは、かなり有用で、すでにかなり強い。
しかもそのうえ、龍火を使えてしまうのだから、そのポテンシャルはえげつなかった。
ちなみに彼女自身はまだ、その火の力の源が龍の力だとは気づいていない。
どうやら彼女自身の魔法属性は、俺と同じ『火属性』であり、そう思いこんでいるようだが……
龍火は、その威力や通り方がまったく異なる。すべてにおいて、数段上をいく。
……さすがラスボス。
圧倒的、惚れ惚れするような美しい強さだ。
俺は畏怖と感心、尊敬の念を持ちながらその戦闘を惚れ惚れと眺めていて、はっと気づいた。
上空からとんでもない圧を感じたのだ。
それで見上げてみれば、そこには飛龍・ワイバーンがこちらに向かって滑空してきていた。
俺は『魔力圧縮』を足元に使い、その方向へ向かって飛び上がる。
そしてその羽に、スキル『怪力』を使った一撃を叩き込んでやった。
「グァァ」
との声を上げながら、ワイバーンは巨体ごと落下していこうとする。
が、そこにはノルネがいる。
だから俺はそこに追い打ちの一撃を喰らわせて、ワイバーンを近くにあった岸壁にぶち当ててやった。
倒さないくらいに調整ししっかり【能喰い】をさせてもらってから、ほっと一息をつく。
そこて俺は一度、スキルリストを確認してみると……
『レベル:45/100
属性魔法:火属性魔法
特殊能力:【能喰(のうぐい)】 Level1
スキルリスト
・魔力圧縮 Level6/10
・エイム補助 Level4/10
・魔力自然回復 Level4/10
・遅延魔法 Level2/10
・毒の牙 Level1/10
・怪力 Level3/10
・捕食 Level1/10
・姿隠し Level1/10
・魔力制御 Level3/10
・火の牙 Level1/10
・逃げ足 Level1/10
・猛進 Level2/10
・飛行 レベル1/10(New!)
』
うん、もう自分でも訳がわからなくなるくらいのスキル量だ。
それに、使う機会のないスキルも多い。
ハイエナモチーフの魔物、ハイロエナから奪った『捕食』は、相手にかじりついてその魔力を奪うというものだが、さすがに今のところ使用機会はない。
逆に普段の使い勝手として優秀なのは、はじめからあった『魔力圧縮』、ツキノグマから奪った『怪力』の二つだ。
とくに『怪力』は、どれだけ体重差や力のある相手でも、強引に勝ち筋を作れる。
「……あなた、本当に何者なの? 上からだなんて気づきもしなかったわ」
「うーん、ただのおっさんだけど」
そう、ゲームでは名前も出てこないモブである。
「そんなことより、ノル。これで月末のランクは――」
「えぇ、今日の成果を持ち帰って確認しないことには分からないけれど、選抜戦の対象圏内に入れるはずよ。バトルドームの挑戦権も手に入るわね」
「そうか。なら、あのクソ男を殴れるってわけだ」
「……目的が変わりすぎよ」
そう俺たちは、本当に順調に任務をこなし続けていた。
はじめはランクの低いダンジョンへ出向いて、採取や採掘をこなし、それが認められた途中からは、高ランクのダンジョンに入って、また採取や採掘をやる。
「にしても、本当に魔物狩りの任務を受けないでここまでランキングが上がるのは驚いたわ」
「あぁ。まぁ基礎知識みたいなものだよ」
「……変な知識ばかりあるものね」
どうすればランキングが上がりやすいかは、ゲームプレイヤーとして心得ていた。
なぜなら俺は、推しであるノルネを拝むためだけに何度もプレイをしており、それ以外は最短クリアだけを目指していた。
だから、このギルドのランキングシステムが秘めた、ちょっとしたバグを知っていたのである。
それがどんなものかといえば、高難度の魔物狩り任務を受けるより、採取や採掘といった軽い任務を毎回S評価以上でこなし、ついでに魔物を狩るのが、なぜかもっとも評価が高くなるというものだ。
俺はプレイ時、どんな計算でランキングが変動するかまで心得ていた。
そしてその知識が、そのまま通用してくれた。
おかげでギルド内でのランキングを一ヶ月という短期間でゼロから駆け上がり、ここまで来れたのだ。
今だって、本来の任務は火の魔力が結晶した鉱石・バーンの採掘である。
そしてそれも、難しいものじゃない。
ゲームにおける採掘は画面が切り替わって、それをタッチすることで割るという形式で、バーン鉱石は普通にやっていたら、0.1%の確率でしか掘り起こすことのできない超レアアイテムだ。
そのせいで、プレイヤーはみんな、この確率のいたずらに飲み込まれていた。
ネットの掲示板を見たら「1万回掘ってもっでないんだが?」「ま? 俺は一回で出た。運なさ過ぎて草」「黙れ」なとど殺伐としたやり取りが繰り広げられていたっけか。
しかし、これもランキング同様、ある種の仕様がある。
途中で、やりこみプレイヤーが気づいたものなのだが……
よーく岩壁を見れば、火鉱石・バーンはその赤色が透けて見えるのだ。そしてそれは、現実にもそうだった。
「タラス。そっちありそう?」
「あぁ、ここが光って見える。間違いないな」
「……よかった。って、もはや壁にめり込んでるわよ、あなた」
「そうでもしないと、赤い光が目に入らないからね。あの男をボコボコにするためにはこれくらいなんてことないさ」
「だから、目的変わってるわよ? あと恥ずかしいから、人が来たらやめてね?」
「はい」
俺はそう返事をしつつも、なりふり構わず、鉱石を探し当て続ける。
そうして結果的に、そこまでの時間を要することなく、バーン鉱石を採掘し終えることができた。
ギルドへと帰還して、任務完了の報告を行う。
そうして翌日。
更新されたランキング表を確認して、俺は「よし」と拳を握りしめた。
その理由は二つある。
バトルドームへの挑戦権を獲得できるギリギリの順位である五位に、自分たちの名前が入っていたから。
そして一位の欄に、マハ・マタンの名前があったからだ。
鼻にはつくが、復讐の機会をくれるのは、むしろありがたかった。
俺がそれを見て、思いっきりにやついていたら、
「……完全に引かれているわよ」
とノルネに囁かれてはじめて、俺は自身の奇行ぶりに気づくのだった。
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