第16話 推しのために一計を打つ
ウララはなおもノルネを攻め立てる。
「お姉さま、その場所、あたしと変わってくださる?」
「……なにを言って」
「そのままの意味ですよぉ。アウレリオ王子は、不幸ばっかり巻き起こすお姉さまじゃなくて、私を選んでくださった。別に、未来の王妃は、お姉さまである必要はないのですよ? これからはあたしが務めます」
ねー? と、ウララが首を傾げながら聞くのに、クソ王子も首を縦に振る。
「僕も両親に話をしているところだ。君のような曰くつきと付き合い続けるのはもうごめん被りたい」
「ちょ、ストレートに言いすぎですよ、王子ってば」
「はは、すまない。早く君と一緒になりたいものだから、ついね」
うすら寒いいちゃいちゃ劇が始まる。
たぶん、前世でウララを推していた多くのゲームファンが見たら、卒倒してしまうだろう。
ノルネ単推しの俺にはまったく効かないが、それとは別に、電車で盛りあっている男女を見るくらいには普通に不快ではある。
しかし、周囲の反応はといえば逆だ。
たぶん、『不幸になる』という悪い噂が蔓延しているせいで、ノルネを忌避している人間が多かったのだろう。
どう見たって、祝福されるべき話ではないのに、「お似合いだな」「たしかに、ノルネ様より全然……」なんて声が辺りからは漏れ聞こえてくる。
ノルネはとくに表情を変えてはいなかった。
いつもの鉄面皮で、ただそのやりとりを見ている。
一見すると、動じていないように見えた。
が、その内心がきっと穏やかでないことはここ一カ月、その横で過ごしてきたから分かる。
そして俺自身も、彼女が辛い思いをしているこの状況を見続けているのは辛いものがあった。
ここにいる奴ら全員をぶん殴ってやりたい想いに駆られるが、流石にそれはできない。
どうしたものかと考えて、俺は一つ計略を思いついた。
その場から一度立ち去り、会場の外へと出る。
そこで周りに人がいないことを確かめてから使ったのは、『遅延魔法』のスキルだ。
ちょうど石像の裏に、影になる箇所があったから、そこで火属性魔法を使う。
そして再びノルネらを囲む輪の中に加わる。そうして、しばらくののち。
会場の外で鳴り渡ったのは、爆発音だ。
しかもすぐあとに、会場内に煙が流れ込んでくる。
もちろん、そうなるように考えて魔法を使ったのだ。
「な、なんだ!?」
「敵襲か!?」
これには、会場中が騒がしくなり、混乱が広がっていく。
そして、なんとも安っぽいイチャイチャを披露していた二人組は戸惑ったように、煙のほうを呆然と見ていた。
「ウララ。あなたがたが、おさめるべきことなのでは? さきほど、おっしゃっていたでしょう。これからは自分が未来の妃として務める。そうおっしゃっていたでしょう」
そこに、ノルネが強烈なカウンターをお見舞いする。
ゲームで見てきた凛々しく、格好いい姿だ。
これもまた、彼女の魅力であると俺は思うが、かなりの迫力がある。
凍えてしまいそうなほど冷たいその声は、二人にもしっかりと効いたらしい。
「わ、分かってますよ。いったいなんの騒ぎですか!?」
「ま、ま、まったくだ。僕とウララの時間を邪魔するなんて」
と、言葉に詰まりながら、逃げるようにして事態の把握へと動き出す。
そして俺は彼らにも、仕置きをする魔法を仕込んでいた。
彼らが出ていくや否や、そこでは再び爆発が起きる。
「くそっ、なんなんだよ」
「あぁ、私の大事なドレスが煤まみれに!」
王子とウララが灰の中でそう喚くのを見ながら、俺は一人、ため息をつく。
俺の推しを傷つけたのだから、この程度じゃ甘すぎるくらいだ。
俺が憎々しく、彼らのことを睨め付けていたら、ノルネが近づいてきた。
「全部見ていたわ。少しやりすぎよ」
それから耳元でこう囁かれた。
どうやらノルネには俺の仕業とばれていたらしい。
たしかに大事にしてしまった感は否めないかもしれない。
俺がもう少し力をコントロールできていればよかったのだが、と考え込んでいたら、彼女はさらにこう続ける。
「でも、ありがとう」
俺にしか聞こえていないだろう、囁くような声だった。
が、その破壊力はといえば、尋常じゃなかった。
まじで尊いがすぎる、うちの推し。
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