第11話 【side:ノルネ】唯一の味方?
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その変わった人が警護についたのは、今から一月ほど前のことだった。
最近は、ノルネの周りで不可解な事件が続いていたこともあり、身辺警護の人間さえ、すぐに入れ替わるという状況が続いていた。
そんななかでやっと、しばらくは続けてくれそうな人材が、彼――トーラス・グレインだった。
身辺調査をしたところによれば、グレイン伯爵家の長子だが、これまでは家の中に引っ込んで魔法研究に勤しんでいたとか。
どういう心変わりがあったのかは分からない。
が、少なくとも言えるのは、彼の存在はノルネにとって救いになっているということだ。
たったひと月といえば、そうだ。
だが、周りの者が次々に離れていき、執事やメイドさえも、両親から送り込まれてきた人物ばかりになる中で、はっきり味方と分かるその存在はとてもありがたいものだった。
ノルネは昔から少しだけ人の心が読める。
金や地位を目当てにして寄ってくる連中のそれは、いくら見た目や言葉を綺麗に飾ってみても、薄ら暗いオーラのようなものが漂って見えた。
が、トーラスの場合は、それがまったくない。
それどころか、単に『ノルネを守る』という一念だけが見えてくる。
彼の使う『推し』という言葉はよく分からないが、少なくとも心からノルネの力になろうとしてくれているのは違いない。
だが一方で不安もある。
ノルネも理由は分からないが、自分の周りで実際に不幸なことが連鎖しているのは確かなのだ。
いくらトーラスがそれを気にしていないし、なんの報告も受けていないとはいえ、その不幸はいずれは彼にも影響を及ぼすかもしれない。
「……どうせ不幸になるならば、あの人がなればいいのに」
一人の部屋でノルネは、ついうっかり呪詛のように呟いてしまう。
その相手はといえば、婚約者であり、王太子でもあるアウレリオ。
彼は人前での態度こそ王族らしく立派であるが、その裏の顔はといえば、最悪だ。
貴族らに期待感を持たせるようなことを言い金を無心したり、女遊びにうつつを抜かして公務を疎かにしたり。
低俗すぎて、できれば関わりたくもないのだけれど、そうもいかない。
イベントごとの際には、顔を合わせざるをえないのだ。
近々ある夜会でも、同席することになっている。
それに、だ。
癪な話だが、彼には間接的に助けられている部分もあった。
ノルネがここまで周りから忌避されてもなお、公爵家から追い出されずにいるのは、王太子の婚約者という立場があってのことである。
もしその立場がなかったら、きっと今頃はどこかに幽閉でもされているだろう。
だから、しょうがない。
これは逃れられようのない運命なのだ。
もしかすると、この謎の不幸の連鎖も含めて、生まれながらに定められていたのかもしれない。
ノルネは陰鬱とした気持ちになって、ため息を一つつく。
それから気分を切り替えるため、机の中に隠し持っていた干し芋へと手を伸ばす。
これはこの間、トーラスにもらったものだ。
「……やっぱり美味しい。日持ちもするし」
その素朴な味は、庶民的なのかもしれないが、なかなか好みだ。
そして同時に、これをくれたトーラスの頼りなさげながらも優しげな顔が浮かんでくる。
今度の夜会にも彼を連れて入ることができるならば、少しは耐えられるかもしれないが……。
そんなことを考えて一人、
「ふふ、馬鹿みたいね、私。あの人のことばっかり考えて。これじゃあ、恋愛脳のウララみたい」
と、ノルネは自身の妹の名前を呟く。
それから再び干し芋を口にしつつ、思わず笑ってしまうのであった。
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