Track2:数日後-1(マニュアルとじゃんけん)
//雨の音(フェードイン)
「雨だねー」
//(彼女の声は隣、左側から聞こえる)
「私、雨の音結構好きなんだよね―。雨のカーテンに包まれて街が静かになる雨の日が好き」
「キミは好き?」
「ふーん……。いやー、でもキミが元気で良かったよ。包帯はまだとれないけど、起きていられるぐらいにはね」
「ずっと横になってるのも良くないしね~」
//換気ファンの音(フェードイン、アウト)
//雨の音が少し強くなる
「……雨の音が聞こえるって、シェルターとしてはどうなんだろうね」
「壁が薄すぎるんじゃないかなぁ~」
「まあ大丈夫なんだろうけど……」
「あっごめんね。不安になっちゃうよね。……大丈夫、こういう事もマニュアルにちゃんと書いてありますよ、多分」
//足音(遠のく)
//足音(近づく)
//衣擦れ音(隣に座る音)
//テーブルに本が置かれ、開かれる音
「教科書を忘れたキミに優等生の私が隣で読んであげますっ。クイッ」
//ページをめくる音
「えーっと、どこだろ」
//ページをめくる音
「あっここかな」
//ページをめくる音「ペラ…」
「じゃあ、読んであげるね」
「……えー、遮音構造について。本施設は簡易型一次避難を目的とし、外部からの衝撃および有害音波をおよそ七割以上軽減するよう設計されている。本施設の外郭は、軽量高張力合金パネル(型式番号A-47)と、ポリマー系複合遮音材(型式番号B-12)を二層構造で組み合わせたものを標準とする。
当該構造体は、国民国土防災規格第219号に準拠し、外部騒音の減衰率を帯域別に保証する。本シェルターは一次避難を目的とするため、遮音性能は標準規格値に基づいて設計されており……」
「……ちょっと真面目すぎない? これ」
「外部騒音に対する遮断率は、周波数帯域ごとに異なり……周波数帯域別減衰率は以下の通りとする。
20Hzから125Hzまでの低周波域においては68パーセント以上。
125Hzから500Hzまでの中低周波域においては74パーセント以上。
500Hzから2000Hzまでの中周波域においては81パーセント以上。
2000Hzから5000Hzまでの高周波域においては67パーセント以上。
5000Hz以上の高域においてはー、数値のばらつきが大きいため参考値とし、平均遮断率は75パーセントを保証するものとする。図4を参照……」
「んー、図を見ても何がなんだか……」
//ページをめくる音
「……壁面材質は軽合金パネルと簡易遮音層を組み合わせたものであり、外部の環境音は完全遮音は実現しておらず……」
「……特に降雨、風切り音、または人為的な小規模騒音は、室内で知覚される可能性がある。これら透過音は、聴覚心理学上の研究に基づき、人体の生理機能に有害な影響を与えないことが確認されている。従って、当該騒音を理由とする苦情、または精神的動揺に関する申し立ては、本設計仕様において考慮されない」
//ページをめくる音
「……ただし、これらは人体に直接的な悪影響を及ぼすものではなく、利用者の生活に支障をきたすものではないため、んー、以上の仕様に基づき、利用者は外部環境音を必然的な仕様として受容し、生活を継続すること。人体に対する重大な悪影響の遮断率は設備仕様の第6項目を参照し…………壁面振動が著しい場合、または透過音が規定値を超えて認知される場合は、利用者自身による補修は行わず、専門技術者による処置を要請すること。利用者による補修作業は、火災・酸欠等の二次災害の原因となる恐れがあ……」
//マニュアルを閉じる音
「んー、眠くなってきちゃった! ねえ、聞いてる? 聞いてた?」
「キミもうとうとしちゃったんじゃないのー? え~」
「子守唄でも歌ってあげようか~フフッ」
「って、まだ朝だからね。多分。時計が正しければ」
「……そうだ、朝ご飯にしようか」
「うっかりしてたよー。あんまり動かないからお腹減らないんだよねー」
「キミは……むしろ食べなきゃだよね。ごめんごめん」
「お米とパン、どっちにします~?」
「昨日どっち食べたっけ―」
「まあ、どっちでもいいか。じゃあさ、じゃんけんで決めよっ」
「私が勝ったらパンで、キミが勝ったらご飯ね~」
「いくよ~、せーの。じゃんけん」
「ぽんっ」
「……やったー。私の勝ち~いえーい」
「……あれー、疑ってるの? 見えてないから変えたと思ってる~?」
「じゃあ、もう一回する? ふっふっふー。いいけど」
「さあ、手を伸ばして。いくよー」
「じゃんけん」
「ぽんっ」
//衣擦れ音
//手を握られる音
「……あ~、キミのお手々は私のパーにつかまっちゃいました~」
「ぎゅ~」
「はーい。キミはグーだから、パーの私が勝ち~」
「というわけで、本日の朝食はパンです」
//衣擦れ音
//足音(遠のく)
「……ちなみに、どっちかというと普段の朝はご飯派です。フフッ」
「……誰かと一緒に食べるならどっちでもいいけどね」
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