神事

 そしてお役目の期間である秋分の日。


 彼岸の入りから今日まで、お役目として儀式用の建物に入り、いとこたちの奉納する舞を眺めたり、そこで寝泊まりしていた。


 お役目の最終日である今日は、太陽が昇り沈むまで決められたルートを走る。


 自分の頭上のすぐ後方にある太陽を導くように東から西へ走るのだ。


 日の出前の午前三時、念入りに足を屈伸する。


 日の出から午前七時まで走り、正午まではいとこたちに囲まれて練り歩く。それから午後四時過ぎまでお神輿に乗せられ、最後に西に向かって走る。


 こうすることで、正しい暦が守られ、迷える魂があの世に導かれるという。


 練習では幼いいとこたちを連れて練り歩くのが難しかったし、男である兄と同じスケジュールで走って日没に間に合わせるのも厳しかった。


 本番で奇跡が起きないかなと何度も思った。しかしこんな神事を担う一族でも私は霊的な能力が弱いし特別なことなど起きそうにない。お役目の主に選ばれる者はある程度の能力は備えているらしいけど、私は能力を体感したことがないし、成功させるには地力を発揮するのみと思っていた。


 このお彼岸はあの世とこの世の距離が近くなり、神事に参加した人は不思議なものを見聞きするという。親戚たちは本当のことのように語るけど、さほど霊能力のない私にもそんな現象が起こりうるのだろうか。


 四時近くになると、薄らと後ろの空が明け出し、私は駆け出した。


 午前七時までの行程は、これくらいで行けば間に合うというペースで走れていた。


 そしていとこたちと練り歩く時間。

 大人より体力の少ないいとこたちを、隊列を崩すことなく率いて歩く。


 時間を押すことなく午前の行程が終わった。正午にはお昼休憩があって体力が戻るし、午後四時まではお神輿での移動だ。


 ここまで時間を守れたから、後は自分の頑張りによって最後の行程を無事に終える未来が見えてきた。


 昼食後、お神輿に乗って移動する。

 車輪で引くお神輿は重厚感があって落ち着いた揺れをしている。私はお神輿の中で最後の工程に向けて精神統一していた。


 しかし午後三時過ぎ、道路の点検のため決められたルートが通行止めにされていた。


 交通整理の方曰く、近くで道路の陥没があり、急遽この辺りも点検しなければいけないという。


 回り道をしていればタイムロスになる。


 ざっと計算したところ間に合わないわけでもない。お神輿の引き手はそう判断するけど、私にとってはその損失は痛い。


 安全を取って時間を押すか、それとも……


 私は神輿から顔を出して視線を巡らせる。

 すると点検中の道路の端に歩道があるのを見つけた。


 道路から一段高いところにある歩道は、歩いても問題ないという。


 歩いて行くのは体力を使ってしまうのも承知で、私は今進まなければ間に合わない気がしていた。

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