紅の月 - 物語を紡ぐモノ -
ぼんぼり
上弦の月
第一夜
01
黒く染まった空に、大きくぼやけた紅に輝く月が妖しく浮かんでいる。風は何かを伝えようと耳のまわりを行ったり来たりざわめいていた。
うるさい。
ここは、"世界"と呼ばれる箱の中にある、とっても小さな国。しかし、ここに住む人々はそのことを知らない。まだ何もかもが未発達、未発展の地――そして、八百万の神が住むとされる自然が豊かな国。
ある世から、この地には赤き死神が降り立つことになる。鋭い牙を持ち、信・義・忠を重んじ、誇り高き志を持った【もののふ】と呼ばれる者たちだ。そしていつしか、彼らの”想い”は国の未来を揺るがすほどの影響を与えることとなる。今、その世が終わりを告げようとしていたーー。
時は幕末――京都。
闇に一線、銀色の線を描くかの様に、甲高い女の悲鳴がキンッと響いた。屋根の上には、闇夜に溶け込むような装束の少女が一人立っている。その背後には、明朗と輝く大きな紅の月が浮かんでいた。少女は、ゆっくりと振り向きその大きな月に目を細めるとどこか儚げに見つめながら、悲鳴が聞こえた方へと視線を動かし顔を歪ませた。
どうやら、この"世界"は、深い憎しみと悲しみを欲しているようだ。アレは、そんな状況を好むに違いない。それが作りものだとしてもかまわない、世界がそう望んでいるんのだろう。私はただ、この世界が完全なる闇に染まらないようにする、それが使命であり、この"世界"でのルールだからだ。
「どうやら、まだ"神々"は様子をうかがっているらしい。外部から侵入者が現れたようだ。新たな灯火が輝きを失った――またひとつこの"世界"を旅立った。」
何かの台詞のような言葉を吐き出す。誰かにそう決められているように――。
『行こう。
私の隣には白と黒の縞模様の毛並みに、深い緑色の大きな瞳をした小さな相棒が言った。小さく溜息をつきつつも相棒を横目で、ちらりっと見る。そして、苦笑しながら目線を再び紅の月に移した。
何度も何度も苦労しながらアレを倒してきた。状況が悪化しているのは肌で感じ取れるぐらいすぐに分かる。だからこそ、東北の地から数か月かけてここまで来たんだ。ここでミスを犯すわけにはいかない。あのとき、ほころびがあったのは気づいていたのに、なぜかそのときは防ごうとは思わなかった。それが、さも当然だと、その時そう感じていた。
また、だ。何かがおかしい。
『煌妃?』
何かを察したのか心配そうにのぞきこむ小さな相棒が呟いた。心配そうに眉をハの字にさせる相棒に、なんだか自分の目尻も下がってしまう。
何だかなぁ。
周りに迷惑をかけたくなかったから、"1人"でここに来たというのに。
このままでは、あのときと何も変わらない。うまくやれる。今回だって気にせず倒して、みつかったら後始末もする。そう、いつも通りに――。
『初めてだね、生きてる人間に気づかれたの。』
「・・・そう、そうだね。」
私がこの"世界"で目覚めてから、こんなことが毎晩のように続いていた。ここ数ヶ月ずっと順調で、上手いこと乗り越えてきたと思う。本当に自分自身を賞賛したいぐらい。だからそれを、こんな形で台無しにされたくはない。私は、心の奥底から今にも溢れだしそうな気持ちを抑えるように強く下唇をかみ締めた。
悔しい。せっかくここまで上手くいってたのに・・思い通りに進まない。
どこにもぶつけられない曖昧な感情が、体を小刻みに揺らす。だが、いつまでも経ってもこのままではいられない。見て見ぬふりなんてできない。そこまで非情になれない。そうでしょ、と誰に言うわけでもなく心の中で呟く。小さな声で色々文句を言いつつも、重い足取りで悲鳴が聞こえた方へと足を進めることを決意せざる負えなかった。
『えぇ!?突然何なの!!』
私の唐突な行動に驚いた相棒は、慌ててその姿を追う。
「ごめんって、
白空は、ひょいっと思いっきり後ろ足を蹴り上げると私の肩に乗り、フンスフンスと鼻息荒くひそかに闘志を燃やしていた。
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