第29話 ミーナと美菜Ⅰ

 「ねえ、他人ひとの人生なのに、横取りして生きて楽しい?聖女の振りしているけど、聖女の能力使えないよね?」


 「えっ?アンタ何言って・・・。」


 「もしかして気付いてないの?それとも聞こえてないの?

 ほら、あなたの背後に本物のミーナさんがいるよね?あなたの行動を止めようとしていたのにも気付いてなかったんでしょ?」


 「えっ?アタシは異世界転生したんじゃ・・・?」


 「もしあなたが目黒美菜さんなら、彼女はまだ死んでないんだから転生なんかするはずないけど?」


 「えっ? 死んでない・・・。」


 「ねえ、オカシイって思わなかった?

 ミーナは聖女だから光の魔法を使えていたのに、あなたは使えていた?使えなくなってたんじゃない?あなた自身がミーナなら、そんなことあるはずないよね。

 それに知ってる?

 この世界の聖女はね、聖女にふさわしくない行動をしていたら、その能力は消えることになるのよ。

 だから、あなたがもし本物のミーナだとしても、今のままなら聖女の力は使えないわねぇ。」


 「 そんな ・・・・・・ 。」


 「ねえ、あなたが目黒美菜なら、そろそろ自分の体に戻って自分の人生を生きたら?

 他人の人生を横取りしていいとこりなんて、上手い話はないし私も見ていて不愉快だしね。

 あなたはさ、能力だけでなくその体もちゃんと動かせてないよね?

 その体はさ、カーテシーもキレイにできるはずなんだよね。あなたはデビュタントの時できてなかったけど。あなたが無意識でやってる動作は所作しょさがとってもキレイなのに、意識してやる動作はヒドいのよ。

 それってどういうことかわかる?

 その体は、ちゃんと正しい動作を身につけているのに、あなたが台無しにしているってこと。

 多分、本物のミーナさんは真面目に学んで無意識にできるくらいまでになってたんだよ。体に覚えさせるには、普段から意識して欠かさず練習しないとダメなんだよね。

 自分の能力を伸ばすのも同じだよ。能力があっても使えるようになるための努力をしなければ無いのと同じ。

 あなたはその体や能力に対して何をしたの?

 私はね、努力を無駄にする振る舞いが許せないんだよねえ。」


 「なっ、アンタ何勝手なこと言ってんのよ。なんにも知らないくせにっ。」


 「うん。あなたの勝手な言い分なんて知らないね。別に聞く気もないし。」


 そこに、僕たち以外の声が聞こえた。


 「おや、少し遅れたようですね。」


 えっと、あの人は確か・・・小野篁おののたかむらさんだったよね?でも、なんでこっちの世界に?


 「後はこちらで引き受けますよ。」


 そう言うと、ミーナの周辺だけが透明な膜に囲まれたようになった。

 その中ではスクリーンに何か映し出されているようだ。あれ?いつの間にかミーナともう1人女性がいる。一体誰なんだろう?それに、さっき桃香が言った目黒美菜って・・・?


 「さて、面倒に巻き込んでしまったようですね。

 説明も兼ねてこちらから見えるようにしていますが、あの膜の中はこことは別の空間ですよ。

 彼女たちの目の前にあるスクリーンがここからも見えますよね。あそこには今、彼女たちの過去、というか前世ですね、それが映し出されています。こちらには音声は聞こえませんが、彼女たちには聞こえています。あなたたちにはわかると思いますが、音でというよりは念話のように頭の中に直接聞こえる感じですね。

 そうですね、あなたたちには私から説明しましょう。」


 ミーナたちがスクリーンで自分たちの過去(前世)を見ている間に、僕たちは小野さんから彼女たちの話を聞くことになったんだ。

 ミーナの隣にいつの間にかいた女性、彼女が桃香が言った目黒美菜という人(の魂?意識体?)でミーナの体の中に一緒に入っていたみたいだね。


 小野さんの話によるとあの2人はこれまでに3回人生を共に(同じ時代を生きたってことか?)しているらしい。

 1回目はミーナが母親で美菜が娘。

 あるところに夫婦が仲良く暮らしていた。裕福ではなかったが飢えることもなく生活していた。結婚して数年後にやっと子ども(娘)が生まれて喜んでいた。

 ところが、ある年は天候がおかしく大雨が続いた。幼い子どもは体調を崩した後、流行病はやりやまいであっという間に死んでしまった。娘を必死に看病していた母親も失意のうちに病に倒れた。夫の支えで回復したが、数年後には夫婦共に災害で死亡した。(なんかあっさりだね)


 2回目もミーナが母親で美菜が娘。

 今度は裕福な田舎貴族の妻と娘だ。両親は一人娘を目に入れても痛くないほど可愛がった。一応は、一通りの教育は受けさせたが、健康で元気であればいいと本人のイヤがることはあまりさせなかった。

 成長すると娘は都会の学校に行きたがった。

 両親は娘と離れたくなかったが娘の希望だからと叶えることにした。

 すると娘は都会で次から次に問題を起こした。

 その結果、娘は一生修道院で過ごすことになり、両親は爵位と財産を失った。それでも両親は生きている間は娘が入っている修道院の近くに住み、時々は会いに行っていたそうだ。(ちょっと長くなったね)


 3回目はミーナが姉で美菜が妹だった。

 今度も下位の貴族の家だったが、あまり裕福ではなく

父親は王宮で役人として働いていた(ってことは、都会に住んでたってことだよね)。

 母親は姉が10歳、妹が5歳の年に病死。だから姉が母親の代わりに妹の面倒を見ていた。

 この妹は他人ひとが持っているものがよく見えるのか、他人が持っているものを欲しがった。姉は他人の物については妹に説明(注意なのか?)して止めていたが、自分のものは妹に譲っていた。

 だからなのか、妹は姉からなら奪ってもいいと思うようになった。

 仕事でほとんど家にいない父親はしっかり者で優しい姉娘に家のことは任せ、妹のままな性格を知らないでいた。

 姉が18歳の時、父親に伯爵家から次男を姉の婿にどうだろうかと話があった。父親は仕事で関わりのある伯爵を信用していたので、喜んでこの縁談を受けることにした。

 ところが、何度が次男が家に訪問しているうちに妹がその男を好きになってしまった。そして、妹は姉に彼を譲ってと言い出したのだ。さすがに今度は姉も譲らなかった(まぁ、そうだよね。人を譲るってのもだけど妹13歳だよねえ)。

 そんなある日のこと、姉は出かけている途中で馬車同士の事故に巻き込まれて亡くなってしまった(妹がどうしても欲しいと我が儘言った物を姉が買いに行ったみたいだね)。その時に、たまたま町で会った伯爵家の次男も同じ馬車で姉妹の家に向かおうと思って同乗していたので、男も姉と一緒に事故で亡くなっている。

 その後、妹は婿を取ったが、我が儘が直らず、浪費癖もあり、家を破産させてしまい、貧しい生活の中で亡くなっている。


 僕は、何か段々話が長くなってるねえ、と思いながら聞いていた。


 「おやっ、失礼。話が長くなってきてますね。

 私は、彼女たちの何が問題なのかを伝えようとしていたのですがね・・・。」


 「問題?」


 「そうですよ。なぜ私がここに来ることになったのかとも関係しています。

 人は何度も何度も生まれ変わります。

 生まれ変わりは自分で決めるのですよ。『次の人生では、このように生きたい』と決めるのも本人です。

 前の人生に後悔があれば、次の人生でその後悔を解消しようとすることもあります。

 それは人それぞれです。

 で、あの2人なんですが、ミーナ(の魂?)は母として2回、娘を自分がちゃんと育てられなかったから周囲に迷惑をかけるようになり、娘自身も幸せになれなかったと思い後悔した。だから、3回目は関係を変えて姉として手助けしようとした。迷惑はできるだけ自分が引き受けようとしてもいますね。でも、結果はあれです。

 さて、娘の方ですが、こちらには成長がほとんど見られませんね。あれはマズいです。

 人は自分で決めて生まれ変わると言いましたが、生まれ変わり様々な経験を通して魂が成長していくのですよ。霊格が上がるのです。

 だから、人生の中には喜怒哀楽が入ります。必要なのです。

 辛いことや苦しいこと、悲しいことばかりだと心が折れてしまい生きていたくないと思いますよね。けれども、そういう時に人の優しさや温かさに触れると心が震えるくらいの喜びや嬉しさを感じる。

 じゃあ、喜びや楽しいばかりの人生だとどうでしょう?他人の気持ちが最初からよくわかるという人でない限り、上手くいくのが当たり前、誰かが自分のために動くのも当たり前、と傲慢な人間になってもおかしくないですね。

 喜と楽、怒と哀のように相反するもの両方が必要なのですよ。善と悪もそうです。

 人は変わっていきます。良い方へも悪い方へも。

 毎日何かが起こっています。昨日と全く同じ日はないし、全く同じ明日もないでしょう。劇的なことが起きる日も平凡な日もありますが、全く同じ日はないのです。

 そして、毎日起きる出来事には幸も不幸もないのです。幸運だ不運だと言うのは人なのです。

 実際に、同じ出来事であっても人によって幸運だと思う人と不運だと思う人がいますよね。


 人は生まれる前に、ある程度次の人生の計画を立ててきます。例えば、次は世界で活躍する芸術家になりたいから、このくらいの年齢までには世界に出たいと思うような出来事が必要だなとか、前の人生でできなかったこれを次の人生では課題として入れようかなとかね。当然、1回ではダメなこともありますから次のチャンスも設定しますよ。手助けしてくれるサポーターについては、配置したりしなかったりですね。今回は自分の力だけでやるという人は置きません。

 ああ、健康状態や寿命もそうですね。

 でも、生まれたら全て忘れてますけどね。覚えていたら、答えを知っていてテストを受けるようなものですからね。思い出すのは、この世での人生を終えてからですよ。」


 「ええっと・・・あの娘さんの方はどうなるんですか?」


 「おっと、そうでした。説明を加えるうちに肝心かんじんなところを言い忘れてましたね。

 魂は生まれ変わって成長すると言いましたが、回数があるということは当然1回目もあります。

 娘は今回が4回目です。ミーナと最初に親子になったのが1回目でした。つまり、まだ人間としての魂の経験が少ないのです。ですから、色々と未熟なところが多いのも仕方がない面もあるのですが、回数を重ねても成長が見られないだけでなく、周囲へ与えた益はほぼなく与えた害が多すぎる。

 彼女は、4回目である今回もまた前回までと同じであれば、次は人間としての生まれ変わりはありません。

 柊君たちは前世ぜんせ現世げんせ後世ごせという言葉は聞いたことがありませんか?」


 「ん~?前世は生まれてくる前の世界、現世は今生きている世界、後世は死後の世界ってこと?

 それとも、前世は昔この世に生きていた頃のこと、現世は生きている今、後世は次にこの世に生まれてくる時のことで、前世どう生きたかが今世に影響して、今世の生き方が後世、来世らいせかな?に影響するって考え方のこと?善い行いをすれば良い来世に、悪い行いをすれば悪い来世になるってことだよね。

 あんまりヒドいと虫なんかになることもあるんでしょ?」


 「はははっ、桃香ちゃん、よく知ってるね。

 そう、その考え方のことですよ。全てが正しいわけではありませんが、間違ってもいません。

 人は希望すれば誰でも人として生まれることができるわけではないんですよ。人として生まれる前にも段階を踏んでいます。それに、生命いのちがあるのは人だけではないですしね。」


 「ねぇ、それじゃあさ、辛い目にばかり遭う人は自分で選んだってこと?」


 「基本的にはそうです。

 ある時期に課題を一気にまとめて解決することで自分を大きく成長させようと計画することはあります。

 そして、実際には上手くいかないことはよくあることです。そこまでも順調に進んでいたか、自分ではわからないのですから。

 だから、困難を克服する場合には、解決の鍵や手助けしてくれる人も配置します。

 ところが、生まれる前のことは忘れていますから、辛くて周りが見えなくなっていたら、目の前に鍵があっても助けの手があっても気付かないことがある。こちらも見つけるチャンスは1回ではなく何回もあるのですが・・・。

 自分でどう生きるか計画しているのですから、自分の目的に合わせて色々な事を配置しているはずです。

 ただ全て忘れていますから、予定通りにならないこともよくあることです。」


 「ふーん。それで、あの目黒美菜は何でこっちの世界に来ることになったの?」


 「うん。それだね。

 彼女は前回の人生が終わった後で、次回またダメだったら人への生まれ変わりはないと決まったんだ。

 つまり、今回が最後のチャンスだね。

 そして、ミーナの魂とは別の世界にすることも決まった。近くにいたら、彼女はついつい助けそうだからね。

 でも、その時に彼女が『どんな形でもいいから、1回だけ助ける機会を与えて欲しい』って言ったんだ。

 現世での親子や姉妹という関係は、彼らが現世でどう生きるかの計画に沿った配置に過ぎないのだけれどね・・・。3回も一緒だったから責任も感じたのかもしれませんが。

 まあ、これまでのこともありますから1回だけならと許可されたのですが、まさかこんな形になるとは私も思いませんでしたよ。」


 「はぁ~、りない迷惑な女ね。もう虫でいいんじゃないのぉ。

 私が嫌いなアレなんかどうかな。すっっごく生命力が強くって、どんな世界になっても多分生き残るんじゃないかって言われている黒くってツヤっとしているアレっ。目の前に現れたらたたつぶすか踏み潰すかするアレっ。」


 「まあまあ、桃香、落ち着こうよ。気持ちはわかるけどね。」


 「おやおや虫ですか。ふむ、悪くないですね。 ・・・ っと、どうやら向こうも終わったようですね。

 それでは、私は目黒美菜の魂を元の世界に戻しますので、これで失礼しますよ。

 ああそうだった。

 この世界の女神からの伝言です。元の世界に帰る前に会いたいそうですよ。

 それでは、これで・・・。」


 そう言うと、小野さんは目の前ですうっと消えていった。

 えっ?と思って、ミーナたちがいたところを見ると、あの透明な膜も消えていて、ミーナだけが「えっ?ここはどこなの?」と辺りをキョロキョロ見ながら立っていた。

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