第7話 手紙の分析と疑念
翌日、町の霧はわずかに薄れていた。赤い橋――霧見橋――の欄干に朝の光が反射し、川面には揺れる木々の影が映る。町の静けさの中に、昨日の事件の余波がじんわりと残っていた。
遥と佳奈は、前日に倉庫で手に入れた手紙と写真を、ひそかに整理していた。今回は、手紙の内容を一つひとつ読み解き、父・佐伯庄三の意図や町の裏事情を分析することに集中する。
「父は、旅館だけでなく町全体のことをずっと気にかけていたんですね」
佳奈は低い声でつぶやき、手紙の一枚を押さえながら言った。
遥は慎重にページをめくりながら答える。
「ええ。でも、この文章の書き方だと、父は誰かを恐れていたのかもしれません。町の人には触れさせたくない何かがあった…」
二人は手紙から見えてくる情報を地図や写真と照らし合わせ、人物関係や過去の出来事を整理していった。父の行動の裏に隠された動機や、旅館経営に絡む不可解な出来事、町議員や商店主の微妙な関係――一枚の手紙から、町全体の複雑な影が浮かび上がる。
「でも、これだけでは誰が何を隠しているのか、まだ見えません」
佳奈は眉をひそめ、紙に書き込む。
遥は顔を上げ、外の霧の町を見つめる。表向きは平穏でも、町の奥底には不穏な空気が漂っている。手紙の情報を整理するうちに、二人の中で疑念が少しずつ膨らんでいた。
「手紙の内容だけじゃ真実はわからない。けれど、何かの糸口にはなりそうです」
遥は静かに言った。
佳奈も小さく頷く。二人は黙々と分析を続け、手紙や写真から得られる断片を頭の中でつなぎ合わせようとした。
外では霧がゆっくりと町を覆い、その静寂の中で、二人の行動を遠くから見守る目が確かにあった。まだ姿は見えないが、誰かが情報の行方を追い、次の動きを待っているのだ。
「……この町には、まだ知らないことがたくさんある」
遥は心の中でつぶやく。佳奈も静かに同意した。
二人が手紙を前に考え込む姿は、町の静けさに溶け込みつつも、確実に次の事件への伏線を孕んでいた――。
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