Rabbit Keyhole
天降川達兵衛
プロローグ:ドクター・ロスト
モニターの光だけが、静寂に支配された研究室を照らしていた。
キーボードを叩く音が規則正しく響く中、白間拓也は画面に映る複雑なデータ構造を見つめていた。瞳には、疲労よりも強い意志の光が宿っている。
画面にはたくさんのドキュメントとただ...『Rabbit Keyhole』と文字列が表示されていた。
拓也は震える手でコーヒーカップを取り、一口飲んだ。
冷え切ったコーヒーの苦味が、興奮で火照った喉を通り抜ける。
彼の手元には、娘エリーの幼い頃の写真が置かれていた。
愛娘の笑顔は、この薄暗い研究室の中で唯一の温かさを与えてくれる。
「エリー...お父さん頑張ったぞ!」
そのとき、研究室の自動ドアが音もなく開いた。
「時間です、白間博士」
背後から響く。拓也は静かに椅子を回転させ、入口に立つ三人の黒服の男たちを見た。その中央に立つ男の冷たい灰色の瞳と視線が交わる。
「コマンダー...まだお話することがあります」
身長180センチを超えるだろう影は、研究室に足を踏み入れた。
「白間博士、これが最後の警告です」
拓也は立ち上がり、モニターの前に立った。自分の研究成果を守るように。
「私は科学者です。破壊のための研究はしません」
コマンダーが手を上げると、両脇の暗い影たちが一歩前に出る。拓也は正面を向いたまま左手で、エンターキーを押した。
画面上で複数のプロセスが同時に走り出す。暗号化、転送─すべてが高速で進行していく。
「この研究結果を貴様らに渡すものか!」
コマンダーが影たちに目配せをする。しかし、遅かった。
「転送完了」と文字列が表示
「コマンダー、君たちがどれほど力を持っていても、真実は消せない」
「もはや交渉の余地はないな、やれ。」
拓也は最後に娘の写真を手に取り、胸ポケットにそっとしまった。
「私はただでは死なんよ」
「始末しろ」
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同日 深夜24時32分
遠く離れたアパートの一室で、一台のパソコンが静かに起動した。画面に現れたメッセージは、愛する父からの最後の贈り物。
『エリーへ。もし私に何かあったら、君が真実を見つけてくれ』
しかし、そのメッセージに気づく者はいない。
エリーは大学院の研究室で、夜を徹して別の実験に没頭していた。
父の最後のメッセージは、静寂のアパートで娘の帰りを待ち続けることになる。
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